ティル・ナギ
聞いた後、カイトは俯いてティルの紋章のある手をギュッと抱きしめた。
「テド・・・。・・・でも・・・最後、笑った・・・。それが・・・良かっ、た・・・。」
「・・・うん・・・。」
しんみりとした空気が流れた。
ナギがルックを引っ張って2人から離れたところに連れて来た。
「何?」
「ちょっとさ、どうにか出来ないのルック?」
「は?」
「聞けばさーグレミオさんって、夜這いの人が生き返らせたんだろ?」
「ちょ、人の師匠捕まえて夜這い呼ばわり!?それにあれは特別な事なんだよ。いくらなんでも死んだ人間誰彼も生き返らせれたらえらい事になるだろ。」
「どう特別なんだよー?」
「あの時はティルが108星集めて、それによって、ティルの持つソウルイーターの力と師匠の持つ門の紋章の力が合わさって、しかもグレミオ自身108星の1人だったから・・・。」
「テッドさんだって過去の108星ぽいじゃん。それにこんだけ真の紋章持ち集まってんだよ?どうとでも出来そうじゃん。お願いだよールック。レックナートに頼んでみてよー」
ルックの胸倉をつかんでナギは揺すりながら言った。
「ちょ、苦しい、離して・・・。無茶言うな。大体頼もうにも現状、戻れるかどうかも分からない状態で・・・」
「よし、じゃあさ、こうしようよ。俺の野生の勘で、何が何でも今日中に絶対ここから出る。これだって無茶だけど、やる。今日中に出られたらさ、ルックはレックナートに頼んでよ。オッケー?」
「何だよそれ・・・」
「ルックだって早く帰りたいでしょ?俺に任せてよ。その代わり頼んで?お願いだよールック、ね?」
無自覚なおねだりポーズでナギはルックに頼んだ。
「あーもう、分かったよ。」
「わーい、だからルック大好きー。」
ギュッとナギはルックに抱きついた。
固まるルックの背後から声が聞こえた。
「何、してるの、かな?」
それはそれは爽やかなティルの声。
青くなってルックはナギを引っぺがした。
「ちょ、もう離れて・・・。別に何でもないよ。」
「そうだよー。邪魔すんなよなー。ルックと(友情の)仲を深め合ってたトコなのにさー。」
「へえ、仲を、ねえ?」
満面の笑みでティルがルックの肩を持つ。
ミシッという自分の肩に気をとられつつ、ルックはナギに言った。
「ナギ・・・。紛らわしい言い方するな・・・。」
「?あ、それよりもティル。そろそろ出発しない?俺、どうしても今日中にここから出るんだ。今から俺の野生の勘総動員だかんね。」
軽くルックの言葉を流して、次にカイトのところに行って、ナギは声を掛けた。
「カイトさん、もし良ければ、俺達と一緒に来ません?」
「・・・戦争、は、ヤ・・・だから・・・」
「大丈夫。戦争に協力なんてお願いしません。あくまでも俺の客人てコトで、ね?」
首を傾け、ニッコリとナギは言った。
同じく首を傾け無表情なカイトが言った。
「・・・うん。行く・・・。」
「わーい、やったあ。」
「じゃあ、よろしく?」
握手している2人を見ていたティルはルックに言った。
「眼福って、こんな時に使うんじゃない?」
「黙れ変態。」
「えーひどいよ?僕は見たまんまを言っただけなのに?」
「うるさい。」
向こうからナギが呼んだ。
「ちょっとー2人ともじゃれ合ってないで、行くよー。」
「はーい、てゆーか、じゃれ合う、は止めてね?」
言いながらティルは歩きだした。
ルックもため息をついてあとに続いた。
結局本当にその日のうちに森から脱出し、鏡を使って城に戻ってこられた。
本気のナギに敵うもの無し。
ルックは思った。城に着いた時、ナギはルックに、分かってるよね?という顔で笑いかけた。
4人が戻ってきた時、側をたまたま通りかかったシーナがナギに抱きついてきた。
「お、帰ってきたのか。てかナギさー、たまには俺も連れてけよ。」
そしてティルに腕を捻られ何事か叫びつつ、カイトに気付いた。
「ててて・・・、おっ、つーか、誰?その人?すっげえ美女じゃんっ。紹介してくれよー。」
美女という言葉にピクッと反応し(どうやら女性扱いされるのは嫌いのようだ)、つと剣に手をかけようとする無表情のままのカイトをナギは慌ててとめた。
森の中で出会うモンスターに対して恐ろしいまでの強さをみせていたカイトを目の当たりにしていたので必死である。
「ちょ、カイトさん待って。あれでも108星の1人なんでっ。勘弁して下さい。シーナはあんな調子で誰でも口説く節操無しさんなんですよー。」
「誰でもって、そりゃないよ。いや、俺はナギさえいてくれればって痛え、マジ痛いからティル。」
「因みにカイトっていって、男な。で、とりあえず、逝くか、シーナ?」
「いや、いくって、明らかにあの世指してねえ?ってゆーか男ォ?マジかよ。ナギといいカイト、でいーんだよな?カイトといいどーなってんだよ?もったいねえ。あ、でも俺あんたらならホント男でもー」
最後まで言う前に、ティルが腕をはなし即座に棍をふるい、シーナはぶっ倒れた。
ティルもルックもナギ達がシーナの近くにいる為、魔法は遠慮したようだ。
ルックも冷ややかな顔で立っている。
「・・・確かに・・・こんなの言われて気付かない俺は、鈍い、よな・・・」
カイトが絡んだ事でやっとシーナの言っている事に気付いたナギは顔を引きつらせながら呟いた。
「でしょ?ようやく分かった?あーでもなんだかナギが汚された気分だよ。何も知らない無垢なままでいて欲しかったような、でも自覚してくれてホッとしたような・・・」
「あんたは黙ってなよ。」
途中からボソッと呟いていたティルにルックが突っ込んだ。
「・・・ふ・・・」
ずっと無表情だったカイトが少しだけ顔を綻ばせた。