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ティル・ナギ

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呼び寄せ



そろそろ帰ろうとしていたティルのもとに、ここ数日見当たらなかったルックがいきなり現れた。

「わ、びっくりした。」

ちっともびっくりしていなさそうな声でティルは言った。
ナギとカイトも特にびっくりした様子はなく、そんな2人を見ている。

「ちょ、ティル、帰ろうとしてる?」
「うん、そうだけど?」
「今日はここに泊まっていけ。そうだな、カイトの部屋がいい。カイト、このバカ泊めてくれない?大丈夫、多分なにもしないと思うから。」
「・・・多分・・・?」
「ちょっとルック。いきなり現れて泊まれだのバカだの、挙句の果てに変質者扱い?」

黒いものを放出した笑顔でティルは言った。

「あー、ごめんごめん。・・・泊まっていってくれる?ティル。」

投げやりに謝った後、言い方を少し丁寧に変えてルックは言った。

「やだ。ルックが怪しい。それに今日はグレミオがシチューだって言ってたし。」

ルックは舌打ちした後、ナギの横に移動し、ティルに聞こえないようにボソッと言った。

「こないだの件絡みだから。とりあえず何も考えず、ぶち切れず僕の言う通りにしなよ。」
「?わ、分かった。」
「よし、最高にかわいらしくティルに泊まっていくよう、オネダリして。」

とりあえず訳が分からないまま言う通りにする為、ティルに近づいた。
とはいえなんだか恥ずかしくてもじもじしながら少し俯き加減になりつつ、そっとティルの服をつかんだ。
かわいらしくというのがどうすればよいか分からないが何とか言ってみようと、顔を赤らめながら少し上目遣いになりつつ口を開いた。

勿論これらの行動はすべて無自覚無計画である。

「あの、い、行かないで?ティル。お願い。今日は・・・泊まっていって?」

おずおずと言った。固まるティル。

ナギは俯き加減のままルックのもとに戻ってこそっと言った。

「ちょっと、気持ち悪さで固まってんじゃん。俺何なの?道化役?」
「しっ」
「泊まってく。」

一瞬固まった後、ティルは即答していた。無表情で考えが読めない。
訝しげなナギにルックが言った。

「じゃ、次はカイトの部屋に泊まるようお願いして。」

またもや訳が分からない様子でティルに近づき、ナギはお願いしてみた。

「じ、じゃあ、今日はカイトのところに泊まって欲しいんだ。あの、いい、か、な・・・?」
「分かった。」

即答。ナギは首を少し傾げた後、カイトに向かって普通に言った。

「すいません、カイトさん。今日、ティル泊めてもらってもいいでしょうか。悪いんですけど。」
「・・・いいよ?」

無表情のまま頷くカイト。
ルックはホッとしている様子だった。
ティルは何を考えているのか読めないままだった。

その後ティルはカイトと一緒に部屋へ向かった。
それを見送った後、ナギはルックに聞いた。

「で、何だったんだよ?」
「例の件だよ。テッド。何とか聞いてもらえたから。」
「わ、ホント?すっごーいルック。どうやって?」
「・・・言いたくない。但し君に関してだけど、今回この星巡りでこういった事をする代わりに、万が一君が今度誰かを生き返らせたくても、叶えられないけど・・・」
「・・・うん、分かった。仕方ないよね。」
「そう。で、あの2人を同じ部屋で眠らせたのは意味があるんだ。」
「?どんな?」
「生と死を司る紋章。償いと許しを与える紋章。この2つが交わる事と、レックナート様の紋章の力を合わせて、異なる世界にいるテッドを連れ出し、生を与えこの世界に存在させる事を許すっていう感じかな。さあ、君も、もう寝なよ。朝になれば分かるよ。」

しかしあまりの好奇心に勝てず、眠りもそこそこに、ルックまでも叩き起こして明け方、カイトの部屋にナギは忍び込んだ。

部屋にそっと入ると丁度その時、眩い朝の筈が赤黒いどんよりした空間が現れ、そこから何かが出てきた。

それは蜂蜜色の髪をもった、16、7歳くらいの少年だった。
くりっとした目をきょときょとさせ、訝しげな表情で辺りを探っている様子だった。

ベッドでは、なぜかお互いの紋章がある方の手を絡ませあうようにつないで眠る2人がいた。

「うわ、何アレ。まるで愛し合った後ですみたいな感じじゃん。何だよアレ。ルック、2つの紋章の交わりってまさか本体同士の交わりとか言わないよね!?」
「そんな訳ないだろ。」

ナギとルックに気付いた少年が何か言おうとした時、ティルとカイトが同時に目覚めた。

「え何コレ?」「・・・・・。」

2人ともつなぎ合ってる手を凝視した後、スーッと離し、ワンクッション後ガバッと起き上がった。

「あ、ナギ、どう、し・・・・」

ナギとルックに気付いたティルが固まった。
カイトも唖然とした様子。
少年もその2人を見て、あんぐりと口を開けた。

「え・・・えぇ!?テッ・・・ド・・・?テッドぉー!?」
「・・・テド・・・?」
「えー!?ちょっと、どーなってるの!?なんで?僕今夢見てる?お前、本物か!?」

ベッドから飛び出し、ティルはまだ唖然としているテッドと呼ばれた少年のホッペをギューウと摘む。

「いっっ。おまー、ちょ、夢かどーかなら自分の頬で試せえっっ!!ちょマジ、離せっつーの!!」
「わー!!ほんとにテッド!?どーなってんの!?まさか昨日のルックの怪しげな行動が関係あんの!?」

ルックはため息をついた後、ざっと説明をした。そして付け加えた。

「あんた達に関しては、あんた達の紋章は今後も必要不可欠なんだ。」
「どういう意味?」
「テッドは本来なら生きていても自然の流れに逆らった年数生きてる訳だろ。それを以前は紋章の力で歳とる事なく生き続けていた。でも今はこいつは紋章持ちじゃない。本来なら灰となって消えてもおかしくないんだよね。ただ近くにあんた達の紋章があれば、その力で前と変わりなく生き続けられるって事。まあ、両方じゃなくてもどっちかの紋章さえあれば問題ないけど。」
「うっわ、微妙。」
「まあいいじゃない?どっちかの近くにいればいーんだろ?でもルック、お前がこんな事するって、どういう風の吹き回し?裏でもあんの?」

ナギが言った後、ティルがルックに聞いた。

「何?その言い草。こっちはどれだけ苦労したと思ってんのさ。まあ、僕がしようと思ったんじゃないよ。ナギに頼まれたんだ。」
「・・・そう、ナギが。ありがとう。ナギ。」

最高の笑顔をティルは見せた。
その顔を見たナギは赤くなって“いえ・・・”と呟き、顔を逸らした。

「それにしても・・・テッド。会いたかったよ?」

作り物のような笑みを浮かべテッドの方へ向いたティルは、テッドの鳩尾めがけて蹴り出した。

「おわ!?」

間一髪で避けたテッドはティルに言う。

「それが会いたがってた奴のする態度かボケェッ。でも俺も会えて嬉しいよ、ティル。」

ニヤッと笑ったテッドを見てティルもニッコリ笑う。

そして2人で楽しそうに話ているところにナギが入ってきた。

「あのー、なんかさっきからカイトさんが固まってるんですが・・・?」

皆がカイトを見た。

確かにカイトは無表情無言は変わらないが、ピクリとも動かず立ち尽くしていた。
作品名:ティル・ナギ 作家名:かなみ