ティル・ナギ
告白
そーいやナギってさ、あーゆーの、別に平気なの?」
ナギの部屋でいつもの午後の勉強の後、ティルはグレミオから、とお手製の焼き菓子をナギに渡した。
ナギは大喜びでお茶を淹れた。
ティルは自分で持ってきたカナカン取り寄せのワインを出し、2人でくつろいでいた。
その時にティルがナギに聞いた。
夜ご飯も沢山食べていたが別腹と、幸せそうに焼き菓子を口に運んでいたナギは、フォークを咥えたまま首をかしげて言った。
「あーゆーの?何の話?」
「ん?テッドがカイトん事好きとかそんなコト。」
ちっとも酔いの片鱗も見せず、3、4杯目のグラスを飲み干して、手酌でまた注ぎながらティルが言った。
「?よく分かんないんだけど?聞かれてる意味。別にテッドさんが誰を好きかとかって、俺が気にするコトじゃなくない?」
「じゃなくてさ、男が男のコト好きっていう意味。」
「・・・ああ。何で?気にならないけど?変なコト、聞くよな?」
「・・・変なコトかな・・・?じゃあ君がだれか男に好きって言われても不愉快じゃないの?何かこないださあ、困るとか言ってたでしょ?」
それを聞いて少し赤くなりながら、パクッと焼き菓子を口に入れ、お茶を飲んでナギが答えた。
「いや、困るっつーのは別に男だからとか云々じゃ・・・、いや、勿論俺も男だし、かわいい女の子から好かれた方が嬉しいケド・・・」
「そりゃ、そうだよね?男から好かれても嫌だよね?」
ワインを飲みながらティルは言った。
ナギは最後の一口を食べて言った。
「いや、そういうんじゃなくてー、つーか、ティルは?俺ばっか聞いてさ。ティルはどうなんだよ?」
「んー、僕?好きだって思ってくれるのはありがたいコトだろうけど、僕自身が好きじゃない相手から言われてもねー?それが例えすっごい綺麗な女性でも困るね。興味、ない。」
「わー、言い切ってるし。それ聞いて泣いちゃうヒト、いっぱいいるよー?確かにティルってさあ、すっごいモテんのに、そういうの、無視してるよね?冗談だったらよくバカな事言ったりしてんのにさ、本気のヒトは相手にしないってか、眼中にないよな。もったいないなー。」
お茶を全部飲み干してナギが言った。
「そう?でも僕は好きなヒト以外からはどう思われても、かまわないから。」
「って、好きなヒト、いんの!?誰ー?」
「・・・いるか、いないかも、言わないよ?」
「えー、ケチ。なんだよー。」
ぶーっとふくれるナギに、ニッコリしてティルは言った。
「ナギは?いるの?」
「・・・俺、そーゆーのまだよく分かんなくてさ。なんでかな、他人の事なら分かるんだけど。自分のコトって難しいよね?だからさ、困るってんのもさ、とりあえずどうしていいのか分かんないから困るんだよねー。好きって言ってくれんのは嬉しい事だけど、でも俺はどう返していーのかなってさー。バカだよな、だから困るっていう理由話すの、ちょっと恥ずかしかったんだよなー。あ、もしかしたら、自分は相手の事、恋愛としての好きじゃないって分かるから、どう返していいのか分かんないのかなあ。実は俺どう好きかって、すでに分かってる!?つーかさ、ちょっと冴えてきてない?俺?」
なんだか急に饒舌になってきたナギを訝しがるティル。
ふとナギの手元を見れば、いつの間にかティルが注いでおいたグラスを持っていた。
「ちょ、ナギ。飲んだ?酔ってる?だめだよ、未成年でしょ?」
そう言ってグラスを取り返そうとしたが、さっと避けてナギは中身を飲み干した。
「なんだよー、自分だって見た目は未成年じゃん。」
「見た目はね。僕はこれでも20歳だから。」
「む・・・。うっさいなー、子ども扱いすんなよな。もう飲んじゃったもんね?大人ぶるなんてズルイよな、好きなヒトも教えてくんないくせにさー。」
「言ってることがすでに変だよ?お水飲む?僕もそろそろ帰るよ。」
「えーなんだよー。もっと話ししようよー。せっかく楽しくなってきてんのにさー。ね?遅くなんの心配してんならさ、泊まってけばいーじゃん。」
「・・・だめだよ、僕は帰るから。ナギはもう寝なよ。」
むう、としたナギだが、ふと何かを思い出したような顔をした後、ティルに近づいた。
「ね、お願い、ティル・・・。一緒に、いて?」
そうかわいらしくおねだりし、ギュッとティルの服をつかんだ。
ティルは固まった。
「ね?いいでしょ?一緒に、寝よ?」
「あーもう、分かった。分かったからそんな言い方しないでくれる?ホント頼むからさ・・・」
「あはっ、やったー。」
「どこでそんなコト覚えてきたの?」
「えー?こないださー、なんかルックがね?よく分かんなかったんだけど、かわいらしく頼めって言っててさー、そん時の事思い出して。」
あのヤロウ・・・、ティルは内心毒づいた。
「もうご飯もお風呂も済んでんじゃん?あとは寝るだけだしさ、ゆっくりしゃべろうよー。」
「・・・ネル・・・。ふー・・・、そうだね、ひたすらしゃべり続けようか・・・。」
なんだか投げやりな調子でティルはため息をつきながら言った。
ナギはいつでも眠くなったら寝れるようにと、先に歯を磨きに行った。
ティルもなんだか脱力しながら客用だろうか、新しい歯ブラシを借りて磨く。
「俺の部屋着使ってよ、小さいかもだけど。」
ナギはそう言って服を投げてよこし、着替え出した。
風呂も何度も一緒に入っているが、今は何か見ないほうがいいと思い、目を逸らしてティルも借りた服に着替えた。
「えへへ。そんで、何だっけ?」
気付けば新たにワインを注いで、ナギは椅子に座って飲んでいた。
「・・・いつの間に・・・。明日頭痛くなるかもだよ?もうやめときなよナギ。」
「えー?でもティルは何ともなさげじゃん。」
「僕は飲み慣れてるしね?飲むのやめないと帰るよ?」
「分かったよ。じゃ、コレ最後。」
そう言ってグラスを飲み干した。ティルはため息をついてそのグラスに水を注いだ。
「じゃ、これ、飲んでてね。」
「はぁーい。」
そう言ってナギは素直に水を飲んだ。さらにティルは水を注いで言った。
「まったく、困った子だね、君は。」
「あは。大丈夫だってー。ほんと酔ってないからー。そういやさ、ティル、好きなヒト、教えてよ。」
「またそれ?じゃあさ、ナギに好きなヒトできたら教え合うとかでいーんじゃない?」
「えー何それー。無理。難しいからさー。分かんないんだよ?好きってのがさー。」
「そう。困ったね?友達としての好きは分かるのにね?」
「うん、ルックとかさ、大好きなんだよ。ビクトール達や、あ、シーナだって大切な仲間だし、好き。最近知り合ったカイトさんやテッドさんだって好きだしねー。ティルも・・・うん、好き。」
「・・・なんか僕だけちょっと考えなかった?」
「そ、そんな事ないよ。皆好きだよ。それじゃだめ?教えてくんない?」
ナギはふと思った。
あれ?確かにちょっと考えたよな。
なんか、もやっとした。
なんでかな。
ナギが内心、?と思っている時、ティルはため息をついた。
それから、じっとナギを見つめた。
ナギは“ん?”と見返した。