ティル・ナギ
まんじゅうとヘタレ
「ねー聞いてよルック。ナギがねー僕のコト好きだってー。」
石板の前に座って、それは嬉しそうに言うティル。
思いが通じあって数日後の事だった。
呆れたようにルックは見て、言った。
「・・・前から分かってたけどね。あのバカが自覚してなかっただけで。」
「え!?マジでか。なんだよー、教えてくれてもいーのに。」
「・・・ナギに僕がさ、ティルがナギの事好きらしいよって、言ったらどうしてた?」
「うわっ。やだよ、自分で言うよ?」
「・・・・・。」
「あ、なるほど。さすがルック。大人だねー?」
にゃはーっと笑うティルに、ルックはため息をついた。
ティルが言う。
「ナギにさ、色々相談のってあげてたんだって?ちょっとムカつくけど、ま、ナギが慕ってる訳だし?一応お礼言っとくよ?ありがとねルック。」
「あんたに礼言われると裏がありそうで怖いし、気持ち悪い。」
「またまたー。あ、やあテッド。元気?」
向こうから歩いてきていたテッドに気付き、いきなりナイフを投げつけてニッコリとティルが言った。
「今下手したら元気どころか死期がくるとこだったわっっ。」
ナイフを片手でつかみ、ティルに投げ返してテッドが突っ込んだ。
ティルも軽々と片手で受け取った。
「あれ?カイトは?」
「何だよ、俺とカイトはセットかよ。」
「そんな感じじゃん。」
「僕もそんな感じがする、つーか、ここに集まるな。」
「なんだよルックん。冷たいなー?」
「相変わらずなヤツだなー。さすがにもうクレイドールとか仕掛けてはこないみたいだけどな。」
「お望みなら相手させるけど?」
「いるかあぁ。」
横目でサラッと言ってきたルックにテッドは突っ込んだ。
ティルがまた聞いた。
「で?カイトは?」
「・・・ああ、カイトなら多分レストランじゃね?まんじゅうでも食ってんじゃねーかな。」
「なんでまんじゅう限定?」
「あいつのまんじゅう好きは普通じゃねえから。ん、そういやナギは?」
「ナギなら軍師のとこだよ?じゃ、僕らも暇だしレストランに行ってみようか?」
「誰が暇だって?勝手に行きなよ。僕は行かない。」
「んだよ、付き合い悪りいな。行くなら大勢のがにぎやかでいーじゃん。」
テッドがのん気に言った。
過去の群島諸国の仲間達が聞けば、どの口が言うかー?との突っ込みが入ったであろう。
「そーだよルックん、行くよ?」
半ば拉致されるようにルックは2人に連行された。
レストランに着くと、テラスの方でいつもより人が集まっているように見えた。
「何かあんのか?」
テッドが言った。3人はテラスに出てみた。
皆が見ている先を見ると、カイトと、多分仕事を終えたナギがテーブルにいるのを見つけた。
「えへ、このまんじゅう、おいしいでしょ?」
「・・・うん。」
「カイトさんっておまんじゅうホント好きなんですねー?俺も好きー。あ、またホッペにあんこついてますよ?そんな頬張らなくてもまだまだありますからー。」
そう言ってニコニコしたナギは、カイトの頬についたあんこを取ってあげて、そのまま自分が食べた。
そしてそんな事を言いながらも自分もアングリとまんじゅうを頬張った。
「・・・ナギ、も。・・・ついてる。」
「え?ほんとですか、どこ?」
「・・・そこ。・・・違う。もうちょっと・・・」
ついているところがナギは分からず、カイトは取ってあげようとして自分が両手にまんじゅうを持っている事に気付いた。
置けばいい事だが、少し考え、持ったまま顔を近づけ、ナギの頬についたあんこをぺロッと舐め取った。
「あー、ありがとうございます。」
「・・・ううん。」
そのまま何もなかったように2人は和やかに食べ続けた。
周りではそれらを見物していた者達がさらに目が離せない様子だった。
「・・・何、今の?」
「う、わー。マジで何やっちゃってんのぉ、あの2人。」
「さすが天然バカ2人。」
ティル、テッド、ルックは唖然として呟きあった。
「・・・てゆーか、ナギもさー、あーゆー事って僕とする事じゃない・・・?」
「カイトもさ、何も考えてないんだよなー・・・」
そうは言いながらもヤキモチな気分にならず、なんだか見惚れている2人に冷たい目線を送り、ルックが言った。
「何ポーッと見てんのさ。あんたらもうホント、バカじゃないの?」
そしてため息をついてナギ達のほうへ歩いていった。
「あ。ルックー。」
「・・・食べる・・・?」
「・・・いらない。お茶だけもらう。」
そこにルックが加わっても、花が咲いたようなその場の雰囲気は変わらなかった。
「まあ、ルックも美少年攻撃の一員だしね?」
「ぶっ、なんだよそれ。」
そう言いながら、ティルとテッドもなんだか黒いものを発しながら人々の間をぬって3人に近づいた。
見物人達は黒い何かを感じとり、さりげなくちりじりになっていった。
「あ、ティルにテッドさんも。」
2人に気付いたナギはニッコリ笑った。
「やあ。もう仕事は終わったの?」
「うん。でさ、ティルんとこ行こうとしてたら途中でカイトさんに会ってさ。まんじゅう食べに行くってゆーから、ついつい釣られちゃってー。沢山頼んだし、皆で食べようよ。」
「そう。・・・確かに・・・すごい量のまんじゅうだね?」
ニッコリ笑いかけてティルはナギに言った。テッドが悟ったような表情で言う。
「多分、コレほとんどカイトが食うつもりだったんじゃね?」
「え?この量を?何言ってんのさ。」
ルックが呆れたように言った。
だが、静かにカイトが言った。
「・・・食べる・・・つもり・・・。でも・・・どうぞ?」
「わお、カイトって深いね?そこまで好きなんだ、てゆーかどこに入んのそんなに?」
ティルが言った。
ルックは青い顔でまんじゅうの山を見ていた。