ティル・ナギ
ハロウィン2
ナギとカイトの周りには人だかりが出来ていた。
戸惑いながらもお決まり文句を言うナギ。
カイトが言う時はそのたどたどしさに歓声が上がった。
四方八方からお菓子が差し出された。
カイトの好みをよく知っている者も多く、あらかじめ準備していたのか、まんじゅうを差し出す者も少なくなかった。分かりにくいながらも大喜びのカイト。
人だかりの中には“悪戯でー”とほざいている輩もいる。
それらを遠目で見ていたテッドが言った。
「何か、凄まじいな。」
「うん、まあ、これくらいなら仕方ないかな。お祭りだしね?いたずら希望のバカは後で僕がやってあげるし。」
ニッコリ黒い笑みを浮かべてティルが言った。ルックも言う。
「まあ・・・こいつらは全然無害だね。問題は・・・」
ナギを見つけて目の色が変わり、近づいて行こうとしているシーナを見つけた。反対方向にはこれまた、ナギを見つけて満面の笑みで歩みを速める騎士2人組も発見。
「じゃあルックは赤青をお願い。僕はシーナヤるから。」
そう言うとティルは“裁き”と呟き向こうにいるシーナに放った。
唖然とそれを見たテッドは、もう一方を見るとすでに切り裂かれていたカミューとマイクロトフに気付いた。
「おい・・・いきなり不意打ちでそれはないだろーが。」
「ふん。あいつらには十分だよ。」
「ほんと、懲りないよね?」
平然と言葉を交わすルックとティルにテッドは青くなった。
気付けばいまの人災により人だかりから解放(皆がひいた為)されたナギとカイトがこっちに来ていた。
「お菓子いっぱいもらったよー。ティル達は?あれ、あんま持ってないじゃん。」
「・・・おまんじゅう・・・たく、さん。」
「全部食べたいとこだけど夜にはまた沢山ご馳走出るからさ、我慢しなきゃですねー。」
ナギはカイトにニッコリと言った。
「あーっ。やっぱよく似合うー。」
ナナミ、メグ、ミリーが近づいてきて言った。
「・・・ナナミ・・・。嬉しくないよー、似合っても・・・。何コレ?何で俺らこんな衣装なの?」
情けなそうな声を出してナギが言った。
「えー?だって絶対似合うって思ったんだもん。ルック君もカイトさんもすごくよく似合ってるよー?」
「・・・ありが、と・・・?」
「・・・嬉しくないよ・・・。」
カイトは首を傾げ、ルックはプイッとそっぽを向いた。
「っあ。きゃーっティルさん、すっごい素敵ーっ。」
「ほんとーっ。悪戯希望の女の子すっごい多そうー。テッドさんもカッコいいし可愛ーい。」
ミリーとメグがきゃあきゃあ騒いだ。ナギはボソッと呟いた。
「・・・俺もそんな感想のがいい・・・。」
ティルとテッドが答えていた。
「ふふ、ありがとう。君たちも可愛いよ?妖精かな?」
「お揃いなのか?」
去り際女の子3人は盛り上がりながらとんでもない事を言っていた。
「あれ、いーよね?あれだとー、怯えるうさぎさんに襲い掛かって食べちゃう狼?」
「それとー、飢えたドラキュラ伯爵に、ご奉仕するメイドさん?」
ティル、テッド、ルックは去っていった方向を唖然と見ていた。
「女の子って、時々怖いよね・・・?」
「なっ、何ちゅー事考えてんだ!?」
「・・・僕はもう疲れたよ・・・。」
その横でナギがカイトに話していた。
「何かよく分かんないコト言ってましたよねー?なんか俺らに劇でもさせる気ですかねー?」
「・・・さあ・・・。」
違うからーと突っ込みつつも思わず妄想してしまいそうになるティルとテッド。
ルックはボソッと“ちょっとそこの変態、気持ち悪いんだよ”と冷たい目で見ていた。
「?どうかしたの?それよりもさー、俺思ってたんだけどさ、カイトさんの足って、すっげえ綺麗だよな?」
ナギが言った。歩き出しながらティルも頷いた。
「そーだね?いつもは長いズボンだから気付かなかったケド。」
「ああ、まーなー。」
特にびっくりした様子もなくテッドが頷き、そのまま歩き続けた。
ポンと肩をたたかれ、振り向くと無言でカイトが廊下の隅を指差していた。
見るとそこには集まって3人がコソコソと話していた。
「?何だ?何してんだ、あいつら。」
カイトはさあ、と首を傾げた。
テッドは3人の話に耳を澄ました。
「ちょっと聞きましたー奥様?あの、カイトさんのコトは何でも知ってんだ的態度。」
「ホントよねー?まるでいつも見てるし今更、何か?的な感じー?ねえ奥様。」
「その気持ち悪い話し方やめろ・・・。でも、ホント、野獣だね。」
そう言いながら、ナギ、ティル、ルックはちらっとテッドを見てまたボソボソし出す。
「っておいぃぃぃぃ。何ふざけた井戸端会議やってんのォォォォ?違うぞ。違うからっ。こいつは昔群島諸国ではずーっと半ズボンに生足だったんだよっ。それで知ってるだけだぁぁ。」
それを聞いた途端、3人はカイトを囲むようにしていた。
「えー、半ズボンはいてたんですかー?なんでぇー?」
「ほんとどーして?小さい子でもないのに?やっぱ足自慢?」
「今もうはかなくなったのは年だからかい?」
なんだかやんわり失礼だが、カイトはムッとした様子もなく、首を傾けて言った。
「・・・暑いから・・・。・・・よそ、国、寒いから・・・。」
「・・・な、なるほど・・・。」
分かりやすい答えだった。
一応納得して、また皆は歩き出した。
ナギとカイトはそれぞれ持っているお菓子やまんじゅうを食べつつ、今夜の料理の事を話している。
その少し後ろでティルがテッドに聞いていた。
「・・・で?”知ってるだけ”?だけじゃないでしょ?思うところは?」
「いや、確かにあの足ヤバイ。当時も凄かったんだぜ?『生足を守る会』的なものまで発足されててさ。でも俺としては皆の前では長ズボンはいて欲しかったけどな。」
「ああ、その気持ち、分かるよ?ナギもさ、何やかんや言っても細くて綺麗な足じゃない?ねえルック。」
「僕に振るな変態。」
「うっわひどいよルック?僕は事実言ってるだけなのにー?」
「まあ、カイトにゃ敵わないけど、悪くないよな?」
「でしょ?でさ、普段って考えたらスパッツに生足なんだよね、あの子。カイトの事とやかく言えないよね?だいたいにして薄着過ぎるしね。これから段々寒くなるってのに。」
「それに関しては僕も気になるね。見てても寒いんだよ。あの子に寒いって概念はないのか・・・?」
「・・・あー、まあ、それは人それぞれじゃね?」
当時怪しげな船から出たばかりで感覚がまだおかしかったとはいえ、あの暑さ真っ盛りの場で、おもいっきり冬本番な服を着ていたテッドは、お茶を濁すように言った。
「でもねー。・・・実はあの黄色いスカーフが尋常じゃない防寒機能を備えてるとか?」
ティルの言葉に呆れたようにルックが返した。
「んな訳ないだろ。」
「ま、そーだよねえ?でもまあ、さっきの話に戻るけどさ、僕としては夏ならまだしも、せめて長袖とか着て欲しいんだよね。寒い云々の他にもさ、僕の希望としてあんまり肌出してて欲しくないんだけど・・・ま、個人の自由だし、そんなコト言えないケドね。」
ティルとテッドは2人でうんうんと頷きあっていた。