ティル・ナギ
「・・・え、あー、いや、気にしないで下さい。」
「って気になるよー!!」
ティルは焦って言った。
ナギはおやっという顔をした。
「あれ?なんだ、やっぱそーゆー顔とかも出来るんだ。」
「へ?」
「あーいや、その、なんか慌てたような顔。」
そう言ってナギがふわっと笑った。
ティルは内心ドギマギした。
ヤバい、その笑顔。集中、集中だ自分!!
「あ、慌ててた、かな?」
「あは。・・・・・。あの、怒ったり、嫌ったりしないで聞いてくれます?俺が言う事。」
嫌いになる?
ナギを?
いやいやいやありえないでしょ、と思うと同時に、いったい何言われる訳っとティルは少し緊張した。
「怒ったり嫌ったりなんてしないよ?」
「えへ、良かった。・・・あの、ですね。えーと、何でマクドールさんは俺に他人行儀なんすか?」
「は?」
「だってさ、俺にだけ、何かすっごいうそ臭い笑顔じゃないですか。ルックとか熊とか青いヤツとかの昔馴染みには、何かもっとこう、まあ笑顔ってよりは脅しに近いような感じだけど、くだけた感じってゆーんですか?俺には向けないような感じで接してるし。そりゃその時の笑顔だって作りもんなんだろけど、俺よりは近いような気がする。」
ティルは思った。
これ、喜ぶところ?悲しむところ?
とりあえず何だかすごい言われようである。
「ー普通にしてるつもりだけどね・・・?」
「うそだぁ。絶対そんな事ない。ほんとに笑ってないし。・・・マクドールさんだって色々大変な思いとかしてきてるだろうし、こんな風に色々言っちゃだめだって分かってるけど・・・。少なくともなんで俺にだけ態度変えんのかなーって・・・あーもしかして俺、何かしたんですか?実はすでにウザがられてるとか?やっぱ、一緒に戦って下さいなんて、厚かましいですもんね・・・。」
「ちょ、何言ってんの?僕、ナギくんの事全然嫌ってないよ?(てゆーか好きなんだけどね)何どんどんマイナス志向になっていってるの?」
だんだん落ち込んでいくナギに、ティルは慌てて言った。
「他人行儀なつもりないんだけどね?えーと笑顔については、これでも僕的には今は普通なんだよね。そりゃ子供の頃に比べたら自然じゃないかもしんないけど、もう癖ってゆーか、普通に出る表情なんで、許して下さい。」
「あ・・・ごめんなさい・・・。でもなんでかな。俺、他の人となんか違うような気がするんだけど・・・」
多分ティルがナギのこと好きだからだが、それは言えない、自覚したばかりだし、無理。
「えーと、ごめん、そんなつもりないし、もし実際違ってたんだとしても、ホントナギくんに対して遠慮してるとか嫌ってるとか、マジでないから。」
「・・・名前・・・」
「へ?」
「マクドールさんは皆のコト、呼び捨てなのに、俺だけなんかくん付けだし。」
「(ちゃん付けもしてますが・・・)分かった。じゃあこれから呼び捨てさせてもらうよ、ナギ。」
それを聞くとニッコーッとナギは笑った。
ティルは理性総動員でこらえた。
「う、ゴホン。えーと、その点だけどナギ。君だって僕に対してよそよそしいよね?」
「え?」
「僕だけ名字でさん付けだよね?名前で呼んでくれないの?」
「あ。でも、俺にとってマクドールさんは凄い人だし、年上だし・・・」
「僕は凄くなんかないし、ここ、僕以外にも年上だらけだよね??名前で呼んで?ナギ。」
「・・・テ・・・ティル・・・。」
「よく出来ましたー。」
いいね、呼び捨て。
ティルは親しみが増したように感じて嬉しくなった。
その顔を見たナギがポカンとした顔になった。
「今の・・・今の笑顔・・・」
ティルは怪訝な表情をした。笑ったっけ、僕?
ナギはポカンとしたまま少し顔を赤らめた。
「?何か変な顔、したのかな?」
「い、いや全然。全然大丈夫です、全然オッケー、バッチリです。」
「・・・。なんか受け答えが・・・?ま、いいや。ついでに言うとさ、敬語も止めてくれない?」
「でも・・・。うーん、分かりました、いや、分かったよ。でもさ、俺敬語止めると多分失礼な言動知らずにとっちゃうかも、いいの・・・?」
「それでこそ他人行儀なくなって大歓迎だよ。」
失礼上等。
英雄視、礼儀、そんなのいらない。
ありのままのナギで、対等な位置に、いて欲しいから。
「えへ、思い切って言ってみて良かった。じゃあ、これから改めてよろしくな、ティル。」
「こっちこそ、よろしく、ナギ。」
ティルは一歩どころか百歩くらい近づいた感じがした。
こんな幸福感そうそうない。最高。
ナギと出会ってからずっと、抱いている好意に違和感を感じていた。
それが友情でないと気付いたときは、ティルは奈落に突き落とされたような気分になった。
でも今は、ナギを好きでよかった、と素直に思える。
絶対何があっても大切にしたい。
紋章にも、誰にも、渡さない。ティルはニッコリして内心で誓った。