ティル・ナギ
むささび
「ルックん・・・もうちょっとこう、詳しく事前に聞かせてもらいたかったよ・・・?」
ティルはいつものごとく石板前で体育座りをし、顔を膝にうずめながら横に立っているルックに言った。
「いきなり何なのさ?」
「・・・モクモク・・・。」
「・・・ああ・・・。」
もうそれだけですべて分かりました、と言った顔で、ルックもうなだれた。
「いや、まあ、ナギと2人でずっと一緒にいれたのは嬉しかったよ?嬉しかったど・・・」
「そういやここ数日あんた達見かけなかったね・・・。」
「カレーをさ、持ったまま日長1日、延々と森やら草原やらを徘徊してる僕らって、きっと凄く痛い光景だったんじゃないかなぁ・・・。」
「もう、いいよ・・・。」
「でね、鏡で帰ってきても、お風呂もゆっくり入る間もなく、また新たなカレーを持って森の村までテレポートするんだ・・・。」
「ほんともう、いいから・・・」
「そういやマクマクとかって道沿いで見つかったんだって?」
虚ろな口調でつらつらと話していたティルが急に質問した。
「え?あ、うん。そうだったけど?」
3匹見つける旅に付き合わされていたルックは、忘れたい思い出がよぎりながら答えた。
「モクモクってさ、なんでだろうね・・・ほんとありえない森の奥の片隅で・・・ようやく・・・出会えたんだよね・・・。・・・道端にでもいろよ、他の奴らは皆道沿いだろが、お前もその辺にいんのがお約束だろが?なんでんなとこにいやがんだよ?ふざけやがて、つーかあの探偵も、いい加減な調査してんじゃねえ・・・。」
虚ろな様子のティルは口調が段々昔のそれに戻ってきている。
ルックは、うわーっと思いつつ、ティルに言った。
「探偵って、まさかティル、あの自称ハードボイルド野郎を・・・」
「いや、あいつに関しては、ナギが体に言い聞かせるって言ってたし、もういい。」
「・・・。」
「とりあえず疲れた。久しぶりにゆっくり風呂に入ってきたんだけどさ、カレー臭、してないよな?」
「・・・してないけど。もう、帰りなよ、あんた。なんか喋り方も昔に戻りつつあるよ、家でゆっくりすれば?」
「え、ああ、うん・・・。」
うーん、とティルは伸びと深呼吸をしたあと、ルックに言った。
「だからさー、今回はルック、家までテレポートしてくんない?ビッキーだとバナーまでだし、流石に山越える気力なくてさあ。」
「ー仕方ないね、今回だけだからね?」
そう言うとルックは何やら呟き、杖をかざした。
あっという間に2人とも消え、暫くしてルックだけが戻ってきた。
「あれ?ティル知んない?」
上から声が聞こえた。
見上げるとナギが身を乗り出していた。
「帰ったよ。」
「えー?マジ?もしかして怒って帰っちゃったとか?」
上から階段も使わず飛び降りたナギはルックの横に座った。
「ちょっと、なんでここでくつろいでんのさ?」
「えーいいじゃん、別に。で、どうなの?怒ってなかった?さすがにちょっと悪いコトしたかなーって思ってー。まさかあんなに探し回る羽目になるなんて思わなくってさー。俺意地になってて。ティル疲れてたみたいだけど・・・どうやって帰ったんだろ・・・。大丈夫かなー。」
「別に怒ってなかったけど、相当疲れてたよ。僕が送った。てゆーか、“ちょっと”か・・・?まったく・・・。カレーに関してもどうだと思・・・」
「ルックが送ってくれたんだ、良かったー。あ、カレー?モクモクすっごい喜んでたよー。」
「・・・はー・・・。で?探偵はどうしたのさ?」
「ああ、あれなら今頃は誰かに発見されてるんじゃない?湖っていつも誰かいんじゃん。」
どうしてこう、天魁星はこんなのばっかりなんだ。
どっちも外見は虫も殺さないような風なのに、中身はとんでもない。
ナギなんか特に、こんなにかわいらしくてとっても華奢だけど、絶対油断できない・・・ルックは目を瞑ってため息をついた。
「明日にでもさー、ティルんとこ行く。あやまりたいしー。ルックも付いて来てよー。」
「行かない。」
「えー、何でー。」
「それよりも暫くそっとしといてやんなよ。相当疲れてたんだし。」
「そっか、そうだね。分かった、そうするよ。そういや城の行事にも最近参加してなかったし、ちょっとそっちやろかな。釣りとかもぐらたたきとかーあ、賭博場にも行かなきゃ、きこりの結び目とかー、カレンともダンスしないと・・・」
「ちょ、行事って・・・」
「料理勝負だってあるしー」
「仕事しろよ。」
「えーっ」
「まったくですな。」
背後から低い声が聞こえた。
「そ・・・その声・・・」
ギ、ギィと音がなりそうな感じでナギは振り向いた。
「この数日、どうもろくでもない事に時間をついやされておられたようだ。書類が溜まってる。速やかに処理、していただこうか。」
「シュ、シュウ・・・。くそ、それがあったか・・・。あーもう、分かったよ、やりゃーいんだろ、やりゃー。なんだよシュウってば。口開けばそればっかでさ。ハゲるぞ。」
シュウのこめかみに青筋が走る、が、至って冷静に言った。
「言いたいことはそれだけか。さあ、とっとと来てやっていただきましょうか。」
ナギはシュウに連行されるように連れて行かれ、エレベータに乗っていった。
「・・・なんで僕がこんな疲れなきゃならないんだ・・・」
ルックはそう呟いてため息をついていた。