コミュニケーション・ブレイクダンス
「・・・とまぁこんな感じで。ダブルで揃うと本当にもー厄介さ倍増って感じだろ。あん時はまたその後の展開もえげつなくてコレでよくオレやってきたなってつくづく」
「待たせたね」
「をわ!」
東方司令部の司令官がようやく訳のわからぬ抜き打ちの査察だとかから開放されたのは会議の予定時間も大幅にオーバーした頃だった。
漸う戻ってきた部屋にはいつものメンバーに加え、あまり立ち寄ってはくれないちっさいのとおっきいのの兄弟もいる。
結局待っている間、珍しくここでずっと話でもしていたらしい。何だかハボック辺りが椅子から落ちているという妙な体勢な気がしないでもなかったが、その辺りは気にしない。
「面白い話は聞けたかね?」
書面片手にこちらを向きもしない上司を横目で見上げて、エドワードはしれっとそっぽを向いた。
「足持って歩いてる災厄の話」
「…ついでにダブルであっちにもそっちにもいるから諸注意も少々」
お疲れ様です、と微妙におざなりな敬礼を解きながらハボックが身体を起こしながら付け足したが、帰ってきたばかりのご機嫌斜めな上司は、つまらなさそうに鼻をならした。
「厄災の欠片ならただいまお帰りになった」
「別にそっちはどうでも良いんですが…またあのオッサンも暇ですね」
進捗状況の確認とかいっていちいち支部越えてまでイヤミ言いに来て。
「そんな暇がおありなら、ご自分の管轄内の事件を持ち込まないでいただきたいと是非進言してきてくれ」
「良いじゃないですか、もらっちまえば」
ポイント稼ぐだけ稼いでおけば。
昔のアレを思い出したら少々ぐれたくなってきた。投げやりに言ったつもりだったが、上司は純粋に台詞内容の方に虚をつかれたらしい。
「・・・珍しくやる気だな、どういう風の吹き回しだ?」
うっわ、この人に言われると何か微妙なんですけど。
「なぁ」
でかい図体のクセして何か拗ねているらしい部下は放っておいて、呼ばれて振り返れば、鋼の兄の方が何だか種類のよろしくない笑みを浮かべてこちらを見ている。
「あんた、いつ少尉巻き添えにしようと思ったわけ?」
何を聞いてくるのかと思えば…というか、一体今まで何の話をしていたんだろうか。
チラ、とブレダ達の方へ目をやってもノーコメント、と首を振られる。
やれやれ。
「巻き添えとは失礼だね。私は強制した憶えはない」
面白いなと思って見ていたら、こいつが勝手についてきたんだ。
なかなかにして凄い言いぐさだった。
「それでいくなら最初じゃないかな」
「…オレのゴメンナサイのタイミングは何処に…」
呆然と呟く部下を鼻で笑うと、彼は自分の席の椅子に深く腰掛けると、「それではついでにもう一つ教えてあげよう」といつもの掴み所のない薄い笑みを浮かべた。
「災厄は向こうから勝手に歩いてやってくるのさ。ぼうっとしてるといつの間にかすぐ傍まで来ている。巻き込まれたと思った時にはもう遅い」
だったら、
「――――それをどう好機に変えて自分を生かすか、そっちを考えた方が建設的だとは思わんかね?」
ちらりと視線を流すとへ、と肩を竦めてみせた。
「まぁ一部君みたいに自分から吸い寄せてるようなのもいるが」
「んだとぉ?」
「ああ、兄さんトラブル体質ですもんね!」
「・・・そこは素直に頷くトコじゃねぇぞ、アル」
フォローどころか率先して同意した弟に、取りあえずツッコンではみたが力はない。
ていうかわざわざ人呼び付けといて待たせた挙げ句ケンカ売ってんのかあんたは。
「年長者からの的確なアドバイスじゃないか」
子供の剣呑な視線を気軽に受け流し、いけしゃーしゃーと彼は宣った。神経を逆なですると判ってやっているのだろうヤな感じの揶揄うような笑みがまた腹が立つ。
作品名:コミュニケーション・ブレイクダンス 作家名:みとなんこ@紺