日ベラ小ネタ詰め合わせ
夏色スプラッシュ
これはなにか、と説明するのに一番的確な言葉は「夏」という言葉だった。しかし既に暦の上では夏は終わり、秋も始まってから1週間が経っていた。それなのに、それなのにである。未だに残暑の残る日本で、本田は額に汗を滲ませた。
地球温暖化の影響か、それともラニーニャ現象か、とにかく今年の夏は前例のないほど暑かった。コンクリートジャングルに生きる本田であってもさすがにこの暑さにはへばってしまっても仕方がないのである。いわんやナターリヤをや、である。
ナターリヤはやはり突然本田の家にやってきては突然帰っていくという謎の行動を繰り返していた。日本が暑いというのはわかっているというのに。何故来るのか聞いてみたらぽちくんに会いに来ているだけだ!と返されるので、それからはもう聞かなくなった。本田はナターリヤに会えて嬉しかったのだ。
「あつい・・・」
ぺしゃりと机に突っ伏していたナターリヤはぶつぶつと呟いた。クーラーのきいた部屋でもこの有様である。
「ええとじゃあ、・・・ナターリヤさん、打ち水をしてきてくれますか?」
「打ち水?」
本田の提案に、ナターリヤは突っ伏していた頭を上げた。高い位置で一つに結った髪が、さらりと流れる。暑いから結べ、と言われて本田が一つにまとめてやったのは、ほんの1時間前のことである。いつものワンピースは暑いので、白い半袖のブラウスを着ていた。
「ええ、家の周りに水を撒いて、暑さを和らげるための方法ですよ。水を撒くだけで体感温度が2℃下がると言われています。」
「じゃ、じゃあなんで最初からそれをしないんだ!」
暑いだろ!と両手をバンバン机で叩くナターリヤを見て、本田はふふと笑った。
「打ち水は朝か夕方じゃないとあまり効果がないんです。お昼の気温が高い時にしてもすぐに水が蒸発してしまって、気加熱を利用できませんからね。」
「むうう・・・よくわからんがわかった・・・。」
ナタ―リヤはすくっと立ちあがると、打ち水をするために外に向かう。クーラーのきいた部屋から出ると、むわんとした熱気が身体に纏わりついた。
「そこにホースがあるので、ついでに庭の植物にも水やりをしておきましょう。」
ナターリヤは本田の指さしたホースを手にとって、蛇口を捻った。勢いよくでる水をうまくコントロールしながら家の周りのコンクリートを水に濡らし、庭の草花にも水をやった。
「本田、もういいか?」
「ええ、そうですね。ありがとうございます。」
適当に撒き終わったナターリヤは水を止めようと蛇口を捻る。けれども、水は止まることなく、逆に勢いを増した。
「えっ!?うわっ!」
勢いよくホースから出た水はナターリヤにかかって、ホースはパシっ、とコンクリートに叩きつけられた。
「だ、大丈夫ですか、ナターリヤさん!」
縁側にいた本田は駆けつけて流れ続けている水を止める。ナターリヤはまるで雨にうたれたようにぐっしょりと濡れていた。
「・・・ああ多分・・・。」
ナターリヤの白いブラウスは水に濡れて、中まで透けていた。
「なっ!ナターリヤさんっ!」
本田は、ナターリヤの姿を直視できずに視線を外して口元に手をあてた。着ていた羽織をナターリヤの肩にかけてやる。
「き、着ててください・・・!」
突然肩にかけられた羽織を見て、ナターリヤは首を傾げた。
「え・・・?な、なんで」
「いいから!目のやり場に困ります!」
本田の頬は真っ赤に染まっていた。相変わらず目は逸らしたままだ。ナターリヤはブラウスが透けているのに気付いて、ああなんだと呟く。
「減るもんじゃないだろ。こんなの。」
「へ、減ります!せ、精神力とか!」
頬を朱に染めて真顔で言う本田を見て、ぷっと吹き出した。
「・・・まあ、ありがたく借りておく。・・・ありがとう。」
ジージーと蝉が鳴いていた。秋はまだ、始まったばかりである。
作品名:日ベラ小ネタ詰め合わせ 作家名:ずーか