日ベラ小ネタ詰め合わせ
幸せのお守り
大好きな人に会えないことほど辛いことはない。
本田は「彼女」のことを思いながら溜息をついた。
お互いの仕事が忙しくなってから、会えない日が続いていた。
最後に会った日から1ヵ月も経っている。
「ナターリヤさん欠乏症です・・・。」
しょんぼりと肩を落とす本田。
会いたい。会って、話したいことがたくさんある。
ぎゅっと抱きしめて、あの白銀の髪を撫でたい。
きっと彼女はそんなこと思ってなくて、言ったら「気持ち悪い」とか言われそうだけど。
本田は懐にある巾着袋から、小さな硬貨を取り出した。
ベラルーシの、20ルーブル銀貨。
記念コインで、現在ベラルーシの通貨に硬貨は使われていない。
いわゆるプルーフという、収集家のために作られたコインである。
ナターリヤがくれたものだった。
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「・・・?かわいいですね、そのコイン。」
ナターリヤの掌にあるコインを見て、本田は呟いた。
表面に描かれているハートの模様がかわいらしい。
紫色のクリスタライズが、きらりと光を放った。
「あ、ああ。2010年に発行された記念硬貨。私も貰いものだから、よくわからない。」
ナターリヤは言いながら、掌でコインを遊ばせる。
「なんだか、ナターリヤさんみたいですね。」
銀色と紫色。彼女の髪と瞳の色だ。
「寝言は寝て言え」
ふいっと顔を背ける。
きっと眉間にしわがよっているだろう。
「起きてますよ。」
「・・・気にいったなら、やる。」
にっこりと笑う本田の掌に、ナターリヤはコインを握らせた。
「え・・・?でも・・・」
もらえません、と言いそうになる本田の言葉を、ナターリヤが遮る。
「硬貨はお守りになるって聞いたことがある。」
だから、ともう一度、今度は先程よりも強い力でコインを握らせる。
「・・・・ありがとうございます。ナターリヤさんだと思って大事にしますね。」
「いやそれはやめろ気持ち悪い」
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あの時の彼女を思い出しただけで、これからの仕事もがんばれそうだった。
きゅ、と弱い力でコインを握る。
早く会いたいなあと思いながら、紫色に微笑みかけた。
作品名:日ベラ小ネタ詰め合わせ 作家名:ずーか