日ベラ小ネタ詰め合わせ
完全完璧徹夜です。
会いたいわけじゃない。
けど、声が聞きたいときだって、あるじゃないか。
だから別にそういうわけじゃなくて・・・
あああもう!むかつく!
特に用があるわけでもないのに、気付いたら受話器を取っていた。
はあ、と溜息をついて電話をかける。
別に会いたいわけじゃないし。
別にあいつのためじゃないし。
電話は中々繋がらなかった。
10コールくらいして、留守なのかと受話器を置こうとしたら、かなり疲れた声が聞こえた。
「も、もしもし・・・・本田です・・・。」
今にも死にそうな声を聞いて何事かと思った。
「な、なにかあったのか・・・?」
「あ、ええと、今・・・修羅場・・・で、締め切りが、ですね・・・。」
本田は、ぜえはあ言いながら言葉を紡いだ。
タイミングが悪かったみたいだ。
「悪かったな、忙しい時に電話して。」
本田にとって原稿の締め切りはもっとも優先すべきものなのだ。
いつも私を放置して原稿に向かっているので、もう慣れてしまっていた。
電話を切ろうとしたら、受話器越しに遠くから声が聞こえた。
「本田さーん!これトーン何番!?」
「あ、すみません・・・ナターリヤさん、ちょっと失礼しますね・・・。エリザベータさん、そこは・・・ICの50番・・・お願いします!」
「エリザベータ・ヘーデルヴァーリもいるのか?」
そういえばこいつらは仲が良かったような気がする。
いつも私のわからない話をしてるんだ。
「そうですよ・・・昨日から泊まり込みで・・・」
まだぜえぜえ言ってる本田の言葉を聞いて、私は少しむっとした。
「泊まり込み・・・」
「あ、いや、その、寝てませんから!昨日から完徹ですので!」
本田は受話器越しにでもわかるくらいかなり動揺していた。
信用してないわけじゃない・・・けど。
やっぱりなんかむかつくじゃないか。
「エリザベータ・ヘーデルヴァーリに手出したら埋めるからな」
「その前にローデリヒさんにぶん殴られます・・・。」
不覚にも会いたい、とか思ってしまうなんて。
むかつく。本田のせいだ。
「・・・心配しなくても、ナターリヤさんで手一杯ですよ。」
「ばーか。」
こいつはほんとに私の気持ちをわかってるんだろうか。
本当にむかつくやつだ。
「おやすみなさい。原稿終わったらまた電話しますね。」
「・・・がんばって。じゃあ、また今度。」
受話器を置いた。
今度は突然あいつの家を訪ねてやろう。
あいつの、私を呼ぶ声を思い出しながら眠りについた。
**
「ナタちゃんですか?」
電話が終わり、部屋に戻るとすかさずエリザベータさんに尋ねられた。
どうしてわかったんですか?言いながら用意していたお茶をつぐ。
「本田さん、すっごい元気になって帰ってきたから。」
にこにこしながら、話すエリザベータさん。
けれどちゃんと手は動いている。
「ナターリヤさんを充電してきました。」
惚気ですねとにやにやするエリザベータさんは、首をこきこきさせながらああーと嘆息した。
「私も早く終わらせてローデリヒさんに会いたいです・・・。」
私は原稿にかからないところにお茶の入ったコップを置く。
自分の分とエリザベータさんの分だ。
「で、ナタちゃんとはどこまでいったんですか?」
エリザベータさんはにんまり笑っている。
私は飲んでいたお茶を吹きだした。
「げふっけふっ・・・どこまでって・・・・。どこもいってませんよ。爺をからかわないでください。」
「えええー?そういう話聞きたいですー。」
ぶーぶーと頬を膨らませるエリザベータさんを横目に、私は手を動かした。
「ほらほら、時間ないんですから。今日も完徹になっちゃいますよ?」
「りょうかい!」
こうして私たちの原稿合宿の夜は更けていくのだった。
作品名:日ベラ小ネタ詰め合わせ 作家名:ずーか