日ベラ小ネタ詰め合わせ
レンズの向こう側
「お前・・・・目、悪かったのか?」
本田が新聞を読んでいるとナターリヤが話しかけてきた。
人差し指で、本田がかけている眼鏡を指差す。
ああ、と笑いながら本田は新聞からナターリヤに目を向けた。
「恥ずかしながら。老眼鏡、です。」
本田は少し照れたように右手でくい、と眼鏡のつるに触れる。
眼鏡を外すと、カチャリと無機質な音をたてた。
「どうです?・・・萌えますか?」
覗き込むようにナターリヤの顔色を窺う本田。
ナターリヤは、ハッっと鼻で軽く笑った。
「馬鹿か?」
嘲るナターリヤの言葉を聞いて本田はむ、と眉を顰める。
「眼鏡男子って今大人気なんですよ?」
ぶつぶつと文句を言う本田を横目に、ナターリヤはすごくつまらそうに言う。
「眼鏡をかけるってことは、視力が悪いってことをひけらかしているんだろう?自分の能力が低いってことを他の奴に教えるなんて馬鹿みたいだ。」
「そういうこと考えるのは貴女だけだと思いますが・・・なんとも思いませんか・・・?」
本田は溜息をつきながら、もう一度眼鏡をかけた。
鼻のところのフレームを右手の中指で、ついと押す。
「な、んとも思わない・・・・、けど・・・・似合ってる、と思う。」
ふいと顔を背けて、ぽそぽそとつぶやいたナターリヤの耳は朱に彩られていた。
それを見て、本田はにやにやと笑う。
「素直じゃないですねー・・・。」
「うっさい」
言って、ナターリヤは本田の眼鏡を掴み取った。
「あっ・・・」
思わず声を出した本田を無視して、ナターリヤはその眼鏡をかける。
「どうだ、私のほうが似合うだろう」
本田がナターリヤの眼鏡姿を見るのはこれが初めてだった。
黒のフレームが彼女の白い肌によく映える。
「ええ、よくお似合いですよ」
本田はにっこり笑った。
心の中の、かわいいかわいいかわいいという叫びをどうにか抑え込んで。
反応が薄かったのが気に入らなかったのか、ナターリヤは少しむっとして、本田を見据える。
「お前は、なにか思うのか・・・」
「ええと。その眼鏡、度がかなり強いので、裸眼のナターリヤさんには、ちょっときついかな、と・・・。」
そう言われ、ナターリヤは目をぱちくりさせた。
言われるまで気がつかなかったが、かなり度が強い。
ナターリヤの身体はふわりと揺れて、倒れそうになる。
「あぶな・・・」
どさっと、本田がナターリヤの倒れた身体を受け止めた。
くらくらするナターリヤから、眼鏡を取り返した。
ナターリヤは目を瞑って、本田の身体に体重を預ける。
「大丈夫ですか?」
下を向けばすぐにナターリヤの顔があり、本田の鼓動は少しだけ早くなった。
「頭、くらくらする・・・」
ナターリヤは、がんがんと痛む頭を押さえた。
「今度、伊達眼鏡買ってきますね」
ナターリヤにはきっと赤い縁の眼鏡が似合う。そんなことを思った。
それを聞いてナターリヤはまた頭を押さえる。
「・・・勝手にしろ・・・。」
反論するのにも疲れたのか、大きな溜息をついた。
「はい。勝手にします。」
本田は、ふふと笑ってナターリヤが頭を押さえる手に口付ける。
「そういう意味じゃない!」
叫びながら、ナターリヤは再び頬を赤く染めたのだった。
作品名:日ベラ小ネタ詰め合わせ 作家名:ずーか