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きょうだいでいるということ

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「……おいでよマシュー。君の荷造りくらい直ぐに出来る。なんなら俺がやるよ。兄弟、君が必要だ。二人でアーサーを驚かせてやろう。プライドばかり大切にして俺たちの成長を認めない彼に思い知らせるんだ。それに君まで出ていくって言ったら、彼の君への愛情だってもっと分かりやすくなる。――君の望みは彼の愛なんだろ?」
 距離を丁寧に測るような目をしておいて、口から出てくるのは核心を突いた言葉になる、アルフレッドの綿密に使い分けられた武器が、ひとつのことしか考えられない僕の痛いところを貫いていく。
 きみは遠いところばかり見ているわけではなく、近くの、僕のことまでちゃんと考えているのなら、と僕は突かれた痛みを抱えながらもきつく彼を見返した――“兄”のことをこんなに理解しているなら、“義兄”のことだって、きみにはわかるだろうに!
 一番の本音を言い当てられたって、僕は、そうだよ、とは口が裂けても言えなかった。
 だってアルフィー、考えてもみてよ。仮にそうして彼の、僕への愛情が目に見えて分かるようになったとしても、そのとき僕は、僕たちはもう彼と離れてしまった後じゃないか。そんなの本末転倒だ。
 何を言ってもアルフレッドにきれいに整頓されて分析された返事しか引き出せないのなら、と思うと僕は躍起になって、ただもう本心だけで彼に向き合うしかなかった。
「どうしてそうなるんだよ!僕はきみを知りたいだけだって言ってるだろ」
「知りたいのなら、おいで。ねぇマシュー、なんだっていい、君が俺の方を向く、それ以外のことが何になる? それ以上何が必要だい? 君が俺のところへ来るには、知りたいってだけでも十分じゃないか」
「ちがうよ、全然ちがうもの。アルフィー、アルフレッド、どうして? 僕がどうこうするのでも、きみがどこかへ行くのでもないんだよ!」
「それは出来ない。何も変わらないんだ、そんな事じゃ」
「変わらなくていいじゃないか!」
 真正面から、声を大にして、ほんの少しの憎しみまで込めて、彼に否定を叫んだのは、いつ以来だろう。もしかしたら初めてだったかもしれない。
「……」
「……」
 激昂するだろうかとか、もう目もくれずにまた荷造りに戻るだろうかとか、僕の知るアルフレッドから導いたあらゆる予想を覆して、彼は、困ったようにただ、笑った。
「変わらなきゃならないんだよ、マシュー」
 理解を求めないその笑みに、僕は打ちのめされた。兄弟だからという愛情で、すぐに目を伏せて笑みを消してくれた彼が、やさしくて遠い。
 目の前にいるのに遠いなんて矛盾している。おかしい。何かがおかしいし、何もかもおかしい。昔はもっと、僕たち近かっただろう。アルフレッド、みんなで一緒にいようと思うことはおかしいの?
 僕は、彼の双眸を見上げて――見上げる以外にやり方がない――何かを言おうと口を開き、けれど何ももう言える言葉は無くて、いっそ泣きたい気持ちで彼の横をすり抜けた。この部屋から出ていくつもりだった。
 けれどアルフレッドは、動きののんびりしている君の行動などお見通しとばかりに、たやすくぱしりと手首を掴まえ、追い打ちを掛けるように静かに言った。
「分かってるんだろう、俺はもう後戻りできない。彼がああいう態度なら、もう。よくなる兆しはちっともない。彼が何を思っているかなんて知りたくもないさ。俺達は変わってしまった」
「……わかりたくなんてなかったことさ」
「マット、君が今まで俺をどう思っていたとしても、俺は気にしない。君の大切な彼をこういう風に散々な言いようで語った俺を恨んでいたとしたって、俺は君を愛しているし受け入れる。だから、おいでよ」
 かみさま、どうしても、どうがんばっても、僕は二者択一からは逃げられないのですか。
 胸の内に問いかけてみたけれど、僕の中のかみさまはうんともすんとも言わずに、僕が自分で決めるのをただ待っているようだ。