二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

鬼の腕

INDEX|12ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

沖田はひゅっと口笛を吹いて軽やかに歩いていった。新八はその後をついていく。歌舞伎町の奥の細い路地を歩いていた。新八には縁のない看板が並び、万事屋のあるあたりよりもっとディープな場所に見えた。
「沖田さん」
新八が声をかけた。怖い訳ではないが、いかがわしい看板の間をすり抜けて前を歩く沖田が、ふといなくなるのではないかと心配になったからだ。
(ついてきて良かったのだろうか)
「もう少しですぜぃ」
どの時間帯でも暗いであろうこの路地は新八にあの夢の中の闇を思い起こさせた。
「ここです、新八さん」
外見はとても古い宿に見えたが、玄関を開けると中はこざっぱりとした居酒屋になっていた。
「沖田さん」
店の主人らしき男が沖田を見て声をかけた。
「仕込みの途中かぃ?悪いけど上、貸してもらえるかねぇ」
「へえ、どうぞ。食事やなんかはまだお出しできませんが、飲み物なら」
声をかけられた男は少し高めの声で、柔和な雰囲気を持っていた。
「そうですかぃ。新八さん何か飲みますか」
不意に声をかけられた新八が目を丸くして答えた。
「え、じゃあ水を」
くっくっくっ
沖田は声を出さずに笑った。
「新八さんは水ばっかりだ」
新八はつい下を向いてしまった。しかしこの少年に飲まれる事を恐れ、それ以上は何も言わなかった。
「アニさん、俺はいつもの。この方には水を頼む」
トントンと軽やかに階段を上がっていく沖田の後ろを新八がついて行った。
「気をつけておくんなせえよ。幅が狭いですから」
古い家の証拠に階段の幅が狭く、天上が低い。沖田は二階を通り過ぎ、三階へと登っていった。しかし三階とはいえ万事屋より多少高い所にあるくらいだった。
階段を上がるとすぐに畳の部屋が広がっていた。火鉢に鉄瓶が乗っているが、まだ火は入っていない。沖田が障子と窓を開けると、さっき公園で感じたのと同じ感触の風が部屋の中を吹き抜けた。
「ビルに囲まれてはいますが、間からいろんな景色が見えるんですぜ」
アニさんと呼ばれた男が細々とした物を乗せたお盆と、一升瓶を持って部屋に入ってきた。
「近藤さんには内緒にしといてくれやすか?」
沖田は屈託の無い笑顔で人差し指を唇に当てた。
「へえ、もちろん。人払いもしておきますか」
「お願いするぜぃ」
「いま火鉢に火を入れますね」
焼酎の一升瓶とコップが二つ。そして大きな水差しに水がなみなみとつがれていた。
「お酒ですか?」
「まあ、般若湯ですよ」
沖田が手慣れた手つきで一升瓶からコップに焼酎をいれていると、赤く燃えた炭の入った炭入れと湯気のたった鉄瓶を持って、アニさんがもう一度あがってきた。
「寒くなってきましたね」
アニさんは慣れた手つきで火鉢に炭を入れていった。
「何かつまむ物をもってきますけど」
「気ぃ使わなくてもいいよ。欲しい時は降りていくから」
「すいませんねえ」
一通り空気を入れ替えると、沖田は障子と窓を閉めてまわった。
「寒くないですかぃ」
新八を気遣う沖田の言葉はもう何年も付き合いのある友人への言葉に聞こえる。
「大丈夫です。ありがとうございます」
新八は卒倒する前の沖田の声を思い出した。
ひやり、とする声だった。
(どっちが本当かな)
どちらも本当だろう。しかしここで気を許しては行けない、と新八は警戒した。
(相手は真選組の一番隊長だ)
「水よりこっちはどうですか?あったまりますよ」
一升瓶を持ち上げて笑っていた。
「僕は飲めません」
「そう、飲むと余計な事をしゃべっちまいそうで、ね」
駆け引きはもう始まっている。
作品名:鬼の腕 作家名:きくちしげか