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きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
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鬼の腕

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「沖田さん、僕はいい話をしてくれるって聞いたから来たんですよ」
新八は沖田が「いい話」をしてくれなければ、今すぐでもここを出ようと思っていた。新八は自分の性格が今ほど恨めしいと思ったことはなかった。
(この人と駆け引きが出来るほど僕は狡猾じゃない)
じっと顔を見つめる新八に沖田が笑顔で言った。
「そうでしたっけねえ。いけねえなぁ、つい楽しくて忘れてました」
沖田が焼酎の入ったコップに鉄瓶からお湯を注ぎながらふうっと息を吐いた。
「似蔵は行方不明になりやした」
「?」
新八には沖田の言った言葉の意味がよく分からなかった。
「死亡、ではなく、行方不明。腕ももちろん行方不明に」
沖田はくっとコップの液体を飲む。
「これでこの事件はおしまい。真選組のお仕事は一つ片付いた訳です。腕も、腕を斬られた被害者もいない今、事件そのものがなかった事に」
沖田はおどける様に肩をすくめた。
「あら不思議」
新八は目を見開いたまま沖田を見ていた。どうしてそうなったのか、全く見当もつかなかった。どうして、と質問しようとした時沖田が不意に立ち上がった。
「ねえ、新八さん」
新八の背後まで来て体をぴたりと寄せ座った。両肩に手を乗せ、新八の顔に自分の顔を近づける。ほほが触れるか触れないかまで近づくと、沖田の酒臭い息が新八の鼻腔をくすぐった。
「腕じゃなくて、なぜ首を狙わなかったのかなあ。似蔵の」
新八が身を固くする。沖田はさらに身体を密着させた。
「刀の重みだけじゃあ、あんなにきれいに斬れません。上から飛び込んで身体の重みで斬ったらしい」
沖田の顔が紅潮している。酒のせいか、それとも自分の発する言葉に興奮しているのかは分からなかった。
「首をはねるのにはコツがいります。刀をこう・・・」
沖田の手は新八の肩から腕を通って下の方へすすっと滑り、腕の先にある新八の手を包み込んだ。沖田の指は冷たくもないのに、触られた所がひんやりとする。
(この人は、楽しんでいる。斬る事を)
新八がその手を払った。
「ご教授はいりません。僕には必要ない」
新八は沖田の毒気に当てられて、正気を取り戻した様に思えた。
「もったいない。いい機会だと思いますけどね、真剣で素振りをするよりずっとためになりやすぜ」
沖田の言葉に新八は青くなった。
(見張られていたのか)
もちろん新八が何を考えているかなんて分かるはずはない。それに警官殺しを想像しただけで捕まるはずなどない。しかし事はそう簡単ではなかった。帯刀は御法度だ。
はっとある考えが浮かぶ。それをとがめるはずの人間が、最近家に来なかった事を思い出した。刀を振るには都合が良かったが頻繁にお妙に会いに来ていた真選組のトップが、この所来なかった事にもう少し思いを巡らせるべきだったと悔やんだ。
「最近、近藤さんが来なかった理由はあなたでしたか」
お妙を慕って足しげく通う近藤の柔らかい笑顔を思い出す。お妙も昼間は不在がちだった。どこに行っているかは特に聞き出さなかったが、もう少し周りを見るべきだったとやはり後悔していた。
「近藤さんには、今回の件で煩わしい思いをさせたくなかったんですよ」
沖田が立ち上がり新八の前であぐらをかいた。
「姉上が近藤さんを僕から遠ざけた、ってことですか」
新八はいつもより低い声で話した。そうする事で冷静さを保てると思っていた。
「真選組を見て卒倒する弟さんの事を、お姉さんがほっとく訳がない」
卒倒、という言葉を聞いてかあっ、と新八の頭に血が昇った。
「俺にも姉がいますがねえ。お姉さんに心配かけちゃあいけねえ」
お妙には似蔵の腕を斬った事などは言っていなかった。余計な心配をかける事はないと思ったからだ。沖田はどこまでお妙に言ったのだろうかと不安になってきた。
「姉上に何を言った」
「必要な情報を、正直に」
くつくつと笑いながら話す様子に新八はすっかり頭に血が上り、沖田の胸元につかみかって押し倒した。
「姉上は関係ない!何を言った!姉上に・・・」
「苦しいよぉ、新八さん」
そう言う沖田の声はちっとも苦しそうではなかった。
突然沖田が新八の着物の胸元をはだけた。予期しない行動に新八は思わず手を緩めた。その瞬間新八の身体がふわっと浮いて視界に天井が広がった。
「逆転、ですねぇ」
気がつくと今度は新八が下になり、沖田が上に乗っていた。肩を押さえられ動きを封じられている。
「うちの流派はねえ、剣だけじゃねえんですよ」
新八は自分の行動が軽率だった事を思い知らされ、怒りに任せて行動した自分を悔やんだ。
しかし、それは遅すぎた。最初のうち、新八は抵抗していたが力を入れば入れるほど苦しくなっていった。
しまいに観念した様に力を抜いた。
「いい子だ。そう、抵抗は賢い選択じゃあねえですよ」
沖田は唇を新八の耳に近づけた。
「質問に答えたら何にもしません」
吐息が耳にかかり新八の身体がビクッとはねる。沖田が新八の身体から足をどかして肩をつかんでいた手を離し新八を起こした。
「あんたんとこの銀髪の旦那さん、何者なんでぃ」
思わぬ言葉に新八は思わずふふふと笑った。
(同じ台詞を何度も聞いたよ。あなたからも、僕の口からも)
「銀さんは銀さんです。みんなの銀さん」
(俺は俺だ。みんなの銀さん)
さっき聞いた銀時の声が頭に浮かぶ。
(そうだよ。銀さんは銀さんだ。そして僕は僕だ)
新八が沖田の方をまっすぐ見ようとした刹那。しゅっ、という音が聞こえた。新八の口から鼻にかけて暖かい物が覆いかぶさり、ほおの周りに痛みを感じた。
「俺はねえ、馬鹿にされるのは大嫌いなんでぃ」
沖田は新八のあごの辺りを左手でつかんでいた。ぎりぎりと奥歯の辺りが締め付けられ、新八の口からうめき声がもれた。
「その減らず口、どうしてやろうか、くそガキ」
ほおに爪を立てる。
「聞いた事にまじめに答えろぃ。もっと具体的じゃねえと分からねえか。あいつと高杉とはどういう関係なんだよ」
新八が唇を動かす。その動きを察知して沖田が手加減をした瞬間、新八の口が開いて沖田の手を噛んだ。
「ちいっ」
沖田は反射的に手を離したが、それと同時に新八の左の方が暗くなった。
ばふっ
新八は何が起こったのか分からないまま、いつの間にかくの字になって倒れていた。メガネが飛んでカシャーンと遠くの方で音が聞こえた。沖田は素早く新八の方へ身体を動かし、手に持っていた座蒲団を新八の頭に押し付けた。新八はもがいていたが、沖田が新八の上に馬乗りになっていたため思う様に動けなかった。
「おめえみてえなくそガキには、お仕置きが必要だねえ」
沖田は左手に持った座蒲団で新八の顔を押さえ、右手は自分の袴の中を探っている。シュルッシュルッという音が新八の耳に入る。沖田はまるで手品師の様に、袴の内側から細い女物の腰紐を何本か取り出していた。
「拷問は、真選組の十八番だって、知ってやしたか?」
(この人は何者だ)
同じ問いかけのはずなのに、銀時の時とは全く違う感情が湧く。右手を座蒲団から離すと横になっていた新八の身体をうつぶせにさせた。慣れた手つきで新八の両手首を素早く縛り付けていった。最初抵抗していた新八も、足首を縛られた後はおとなしくなっていた。
「袴を着るのに、ずいぶんたくさん腰紐使ってるんですね」
作品名:鬼の腕 作家名:きくちしげか