鬼の腕
卑猥な言葉が銀時の口から放たれた刹那。
ざざっ。
沖田が動いた。速い動きで刀を振り下ろす。
(なに?!)
しかし 振り下ろした先に新八の姿はなかった。
新八は右足を後ろにさげたと同時に左に体をよせ、刀の軌道から体を逃がしたのだった。
そのまま重心を落とし、素早く後ろ足になった右足で地面を押す。
と同時に、左手を刀ごと突き出した。
ガツッ
沖田の頭が後ろにのけぞり、そのまま後ろへと倒れた。
新八は左手に持っていた刀のツカを沖田の額に当てたのだった。
「やった!!新八ぃ!すげええ!」
神楽が声を上げる。
「ふざけやがって」
沖田が刀を握って立った。新八が背筋をまっすぐにして沖田に向かった。
「うちの流派もね、刀だけじゃないんですよ」
新八がもう一度刀を握った。一度やってしまったら次は通用しない。
(次は・・・)
と、考えたとたん新八の緊張の糸が切れたように、膝をつき前のめりにゆっくり倒れた。息が上がり真っ赤な顔をしている。
「おい、今度はどんな手を使うんでぃ?そこから俺を斬れるのか?」
沖田が刀を振り上げる気配がして新八は起き上がろうとしたが、腕に力が入らなかった。
「おしまいだ」
刀を振り上げた沖田の目の前に土方が鞘に納められた刀で制していた。いつ動いたか分からないくらい素早い動きだった。沖田の手が刀を握ったまま頭上で止まる。
「お前の負けだ、総悟」
沖田の額は赤くなり顔からは笑みが消えていた。
「あのくそガキを斬るんでぃ」
土方がため息をつく。
「もう斬る理由もねえ」
「うるせえ!理由なんて後からいくらでもつけてやらぁ!」
銀時が倒れた新八の前にはだかる。
「あららぁ、そっちの坊ちゃん、ついに本性が出ちゃったねえ」
手には新八の刀があった。抜刀し沖田に向かって構えている。
「次は俺が相手だぜ、狂犬よぉ」
「願ったりですぜ。あんたとは一度やってみたかったんだ」
殺気をみなぎらせる沖田の前に土方が立った。
「やめとけ。挑発に乗ったお前が悪い。負けを認めろ」
「どけよ、あんたも斬るぜぃ」
「今日の用事はけんかじゃねえって、近藤さんに言われたはずだ」
沖田が土方に向かって刀を振り下ろした。微動だにしない土方の数センチ横を刀の切先が通過した。
「邪魔をしたら今度は首を斬るぜ」
沖田は下を向いていたままつぶやいた。
神楽が新八に向かって走っていき新八の上半身を抱きかかえると、銀時の方へ向かって叫んだ。
「銀ちゃん!新八凄く熱いアルヨ!」
「早く家の中連れて行け」
神楽は新八を背負い、道場の中へ走っていった。
「医者、連れて行こうか?」
「うるせえ、おめえらの手は借りねえ」
土方が手早くタバコをだし、火をつけた。
「今回の似蔵と高杉の件は上から捜査の中止が命令された」
フウッと紫煙を吐く。
「良かったじゃねえか。仕事が一つ片付いて」
「この件についてお前らに聞く事は、もうない」
銀時がため息をついた。白い息が吐き出される。
「仕事が終わったんなら早くけえれ。俺は忙しいんだ」
「邪魔したな」
土方が元来た道の方へと帰ろうと後ろを向いた時、銀時が土方に声をかけた。
「犬ども、一つ覚えとけ」
「なんだ」
土方が足を止めた。振り返らなかった。
「今度もし俺が高杉と会っても、お前達には絶対知らせねえ」
「・・・」
「その前に俺が高杉を、斬る」
土方が表情を変えぬまま銀時の言葉に答えた。
「邪魔する奴は容赦しねえ。覚えとけ白夜叉」