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きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
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鬼の腕

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銀時と土方が二人の間に入る様にそれぞれに声をかけた。沖田の方をにらんでいた神楽がくるっと翻り、隣の部屋のふすまを乱暴に開けるとそのまま中に消えていった。その様子をじっと見つめていた沖田も手を下ろし、土方の後についていった。
「邪魔したな。お大事に」
新八をちらっと見た土方の声は少し沈んだようだった。

蒲団で横になる新八を二人は見つめていた。銀時が新八の額に浮かんだ汗を拭いてため息をつく。
「銀ちゃん、新八大丈夫アルか?先生に診てもらった方がいいんじゃ・・」
「ああ、そうだな。先生に来てもらうか」
銀時が腰を上げた時、着物のを裾を引っ張られる感覚がして振り向くと、新八が青い顔をして笑っていた。
「だ、大丈夫です・・」
蒲団から起きる気配はなかったが、目はしっかりと銀時達を見つめていた。
「「新八」」
心配そうに見ていた二人が同時に名前を呼んだ。
「すいません、僕、どうしたんだろう」
「大丈夫か、水飲むか?」
銀時が新八の顔を覗き込もうとした時、新八が横向きになって口を押さえた。
「お、ちょっ、まて!神楽!洗面器!!」
「うっっうっ・・」
「あーちょっと待て!トイレ連れてってやる!」
銀時は新八を小脇に抱えるようにしてトイレへと走っていった。
「げえっ、げっ・・・」
嗚咽に似た声を上げる。吐いているようにも、泣いているようにも聞こえた。その声に銀時は平静を装いつつも、内心はどうしていいか分からなくなっていた。
「すいません・・・」
開けっ放しのトイレから新八が出てくると銀時は優しく背中をさすった。
「少し汚しちゃって・・・」
「俺が掃除しといてやるから、口ゆすいでこい」
銀時が背中を押して向こうへ行く様に促すと、よろよろと新八が歩いていく。銀時はふうっとため息をつきトイレに入っていった。 新八が台所へ行くと神楽がコップに水を入れ立っていた。
「これで口をくちゅくちゅするアル」
新八は手にしたコップの水が少し震えているのを、申し訳なさそうな顔で見つめていた。コップを手に取ると何度が口をゆすいで神楽の方へと向き直った。
「ごめんね、神楽ちゃん」
神楽が空になったそれを見つめてつぶやく。
「馬鹿メガネ」
神楽の目に少し涙がたまっていた。
「大丈夫だよ、ゲロなら神楽ちゃんだってよく吐くじゃないか」
新八は笑ってみせた。
(うまく笑えただろうか)
いろんな思いが頭の中をまわる前に、ここから逃げ出したかった。
「あたいのはゲロ袋から出してるアル。お前と一緒にするな」
「ははは」
渇いた笑いが口から漏れた。失敗したと新八は思ったが、これ以上はどうしようもなかった。神楽は黙って新八の手を取りソファーへと連れて行った。青い顔をしてソファーに座る新八の後ろから銀時が服で手を拭きながら近づき、新八の隣に座って肩に手をやった。
「気にすんな。似蔵をやらなかったら、俺たちがやられてた」
「銀さん。僕は」
新八は言いかけてやめた。もう分からなくなっていた。
どうしたらいいのか。
「銀さん」
「新八、おめえ今朝飯食ったか?」
銀時は新八の吐いた物を見てそう声をかけた。固形物はほとんどなかった。新八の頭に手をやってゆるくなでる。神楽が机の上であぐらをかきながら心配そうに新八を見ていた。
「食べてますよ。銀さん、姉上と同じ事言うんですね」
「ここの所、元気なかったからなあ」
銀時の言葉を聞いたとたん頭がしっかりしてきた。自分の変化に気づかれた事が急に怖くなっていた。
(ここを出なくては。もうだめだ)
「僕、帰ります。今日は家でゆっくりさせてください」
ソファーから立ち上がってのろのろと玄関の方へ新八が動くのを二人は見つめていた。銀時がソファーに座りながら新八の手を取ると違和感をおぼえた。
「今日はここにいろ。夜は泊まれや。姉ちゃんには俺が言っといてやる」
動きの遅い新八を捕まえるのは簡単だった。しかし握った手首の感触は見た目よりもずいぶんと違っている。
(こいつ、こんなに細かったか)
「大丈夫です」
しかしその細い腕は、銀時の手を驚くほど強く振りほどいた。
細い腕に力強い動き。
銀時にははっきりとは分からないが、今新八に起きている変化が決して大丈夫ではない事に気がつき、戸惑い始めていた。
「新八、一人でいると余計な事を考える。夜は特にだ。ここにいろ」
「大丈夫です」
「新八のくせに口答えするアルか!」
神楽が怒鳴って机の上に立ち上がり、新八の後ろから飛びついた。
「神楽ちゃん、離して」
新八のこんな声は聞いた事がなかった。低く唸る声は今までの新八には決してなかった、まがまがしい殺気のようなものが含まれている様に感じた。あまりに変わり果てた声に神楽が驚くと同時に、恐怖を覚え思わず新八から離れた。
「帰ります」
「新八・・・」
二人はそこから動けなかった。
「送る。待ってろ」
銀時がかろうじて声をかけヘルメットを取りにいこうとした時には、新八は扉に手をかけていた。そしてまたあの低く唸る声で銀時達を制圧していた。
「帰ります。一人で大丈夫です」
作品名:鬼の腕 作家名:きくちしげか