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きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
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鬼の腕

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真選組の屯所では多くの隊員が忙しく動いていた。ここは主に攘夷志士に対する取り締まりを行っている。
攘夷志士。
天人を排斥しようとする連中。
天人が幕府の中枢を担っている今となっては、単なる国家転覆を狙うテロリストに成り下がっている。真選組のいわゆる「敵」だ。
「万事屋の連中、ありゃあ真っ黒ですね。土方さん」
「ああ、間違いなくやつら何か知っている」
書類の束を見つめている土方が、山盛りになった灰皿に新しいタバコを押し付けた。土方が手にしている書類には鬼兵隊のメンバーの名前が載っている。
添えられた写真は不鮮明だったが、判別できない訳ではない。ただ鬼兵隊のトップ、高杉晋助に限っては幼い顔をした古い写真と拡大されてぼやけた写真だけだった。
そして岡田似蔵の死体の写真が新たに付け加えられていた。こちらは鮮明に写っている。顔と腕の写真が何枚かファイルに入っていた。写真に写る似蔵は肩から無数の管が腕の方に向かって伸びていたが、その先にあるはずの右腕はなかった。
「それにしても」
腕の写真は何度見ても慣れない。
(これはもう人じゃねえ)
体中から右腕に向かって幾筋もの管が生えている。その先にある腕には粉々になった何かの破片があり、鑑識の結果によると金属がついていたらしい。
(腕が刀に、ねえ)
だとすると肩口から生えている管は、刀に血を送る血管みたいなものかと想像した。これと対峙した時、自分は勝てるのだろうかと思うと、土方の胃がぎゅっと締め付けられた。そしてここに死体があるという事はこれとやり合って勝った奴がいる。
(それがあいつ)
銀髪の男の顔が浮かぶ。とぼけた顔をしているが、一度刃を合わせた事がある者なら、そのとぼけた顔が本物ではない事が分かる。腹が立った。
(うつけ者を装っているのか)
あの男の身辺を洗ってみればみるほど分からない。過去の話はあまり出てこないのだが、あの桂とつながっている事は違いない。
(攘夷志士だったって事か)
昔の攘夷志士の資料はなかなか手に入らない。たかだか十数年前だが、今と違って写真やテレビは普及し始めた頃で、田舎の方ではまだカメラは珍しかった。しかもあの頃の攘夷志士は未だに根強い人気があって、知っていてもなかなか警察に話す者はいない。
「仕事熱心だな、トシ」
近藤が部屋の入り口に立っていた。様子を見に来たという感じだった。
「給料分ぐらいは働かねえと」
書類から目を離す事はなかった。
「今度は誰だ」
「高杉晋助です」
近藤と土方の間にすっと沈黙が落ちる。
短い沈黙を破ったのは近藤の方だった。
「鬼兵隊か。何か欲しい物はあるか」
近藤のこういう所が局長にふさわしいと土方は思う。この人は全力で隊士たちの要求に答えるだろう、と。
(今はそれに甘えよう。確証が欲しい)
「昔の攘夷志士の情報、手に入りませんかねえ。松下塾あたりで」
「分かった」
近藤はふうっとため息をついた。
「トシ、高杉には気をつけろ。いつもの様に勢いでしっぽをつかめる相手じゃあねえ」
「分かってるって。この前みてえな失敗はしねえ」
近藤はこの仕事熱心な部下にそっと耳打ちした。
「鬼兵隊の船と似蔵の遺体は行方不明になった。腕もな」
「!」
「その資料は家に持って帰れ。そして分からない所へしまっておけ上には適当に処分したと報告しておくから」
そう言って近藤はまた忙しく部屋を出て行った。これから会議なのだろう。会話を聞いていた沖田が口を開いた。
「万事屋の事、近藤さんに言わなくて良かったんですかぃ」
近藤が自分に声をかけていかなかった事が癇に障ったのであろうか、少しすねたような口振りだった。
「ああ、まだ早いだろ。もう少し洗わねえと」
正直近藤には万事屋の事はあまり言いたくなかった。あの人と万事屋は近すぎる。お妙の事だけではない。万事屋にただよう心地よさは近藤さんと似ている。自分はその万事屋を踏み台にしようとしている事に、少なからず後ろめたい物を感じているのだろう。
(あの坊主は大丈夫だったろうか)
メガネをかけ、青い顔をした少年の瞳を土方は思い出した。
(引きずられんなよ、坊主)
土方は近くにいた沖田に話しかけた。
「坊主、似蔵の腕、斬ってるな。」
「新八さんですか」
土方が新しいタバコに火をつけている時に沖田が答えた。
「斬ってますね」
沖田の唇にうっすらと笑みが浮かぶ。土方は時々沖田が恐ろしくなる事がある。
(近藤さんと会っていなきゃ、こいつは生粋の人斬りになっていたかもしれねえ)
ふと口を滑らせた。
「総悟、お前人斬ったのは何歳の時だ」
沖田の唇がすうっと横に伸びた。その笑みは妖艶で禍々しかった。
「土方さん、はじめての女は心に秘めておくもんですぜぃ。べらべらと人に話すもんでもねえ」
「野暮な事聞いたな」
似蔵の写真を見て沖田がつぶやいた。
「その化け物は、新八さんの最初のヒト、ってことですかね」
「野暮はいいっこなしだ」
沖田が誰かに呼ばれた。
「土方さんー」
沖田が部屋を出ていった時放った言葉を思い出すのは、もっと後の事だった。
作品名:鬼の腕 作家名:きくちしげか