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はるかに長い、坂の向こうに

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エドワードのためにタオルを準備していたアルフォンスの耳に、シャワーの音を掻き消すほど大きな悲鳴が飛び込んでくる。
「───姉さんっ!?」
一瞬躊躇して、アルフォンスは脱衣所の扉を開けた。
磨りガラスの向こうの浴室で、細く小さな影がうずくまっているのが見えた。
「…姉さん、大丈夫?」
「ぁ、る…っ」
小さくノックして、扉越しに声を掛けると、大きくしゃくり上げたエドワードの声が聞こえた。
「…姉さん」
「───こっち…来て」
「え、」
涙声で言われ、アルフォンスはどきりとする。
「怖ぇよ、アル……早く…っ」
ひく、としゃくり上げながら言うエドワードのトーンが、あまりにも悲痛で。
「…じゃあ、開けるよ」
持ってきたタオルのうち、バスタオルだけを手にして、アルフォンスは浴室の扉を開けた。
瞬間、視界が湯煙に覆われ、その向こうにタイルの上で跪いたエドワードの肩が見えた。
体は流れる湯で温まっているはずなのに、細い体はがたがたと大きく震えている。
自分の体が濡れるのも構わず、アルフォンスは浴室に足を踏み入れ、コックをひねってシャワーを止めた。
「…おいで、姉さん」
「アル……っ!」
視線を合わせるようにタイルの上に膝をつき、バスタオルを広げて肩に掛けると、たまらなくなったのかエドワードはアルフォンスに縋り付いた。






縋り付いた勢いで、掛けられたバスタオルがタイルに滑り落ち、エドワードの裸身があらわになる。
「───あいつら……知ってて…襲ってきたんだ…っ」
「え…?」
宥めるように背を撫でた、アルフォンスの手が止まる。
「オレのこと…だって、名前、も、知ってた…」
インターハイに出場するほどの俊足を持つエドワードの名は陸上界では有名だが、一般の人間には余り知られていないはずだ。
「やだよ、すげぇ怖ぇ……っ」
「…大丈夫だよ、姉さん。あいつらはもう警察に捕まってる」
「けど、逃げてたらどうすんだよ!?」
「たとえそうであっても!」
震えながら叫んだエドワードの声に負けないように、アルフォンスは叫ぶ。
「…姉さんには絶対、指一本触れさせない。視界にすら、入れさせないから」
頬に貼り付いた髪を、そうっと指先で払う。
震えの収まらない体を何とかしてあげたくて、アルフォンスはエドワードの頬を撫でて上向かせた。
「───約束する。ボクがずっと、あなたを守るから」
涙を零す黄金色の瞳をのぞき込んだまま顔を寄せ。
「…ん……っ」
とん、と唇に触れるだけのキスを落とす。
「ア…」
「落ち着くまで、ずっとこうしててあげる。…ずうっと、姉さんがいいって言うまで」
ぎゅう、と音がしそうな程強い力でかき抱き、エドワードの背を何度も撫でながら、アルフォンスは濡れた髪に頬を寄せる。
始めは訳がわからず体を強張らせていたエドワードも、強くも優しい感触に次第に力が抜けていく。





「───悪かったな、アル」
ようやく震えの収まったエドワードが、そっとアルフォンスから身を離した。
「我が儘言ってごめんな。…ウィンリィに、電話かけるよ」
自分の背後で広がっているバスタオルを拾い上げて軽く絞り、ぱさりと肩に掛ける。
だいぶ湯を吸っていたので役目はあまり果たせないだろうが、そのままエドワードは立ち上がった。
「姉さん…?」
「オレ、もう大丈夫だから。……もう、平気だ」
最後の一言は、自分に言い聞かせるために発せられた。
「制服、びしょぬれにして悪かったな。明日、クリーニングに出そうぜ」
「姉さん!…どうして、何も聞かないの?」
そのまま脱衣所に向かったエドワードに、思わずアルフォンスは言った。
「…聞くって、何を」
「何って…ボク、姉さんにキスしたんだよ?───ボク達、きょうだいなのに」
顔を見て尋ねる勇気がなくて、エドワードに背を向けたままだったけれど。
「───オマエはただ、何とかしてオレを落ち着かせようとしてくれた…それだけだろ?」
そう言って、エドワードはバスタオルを脱衣かごに投げ込む。
「…ま、オレはこんな形であっても、オマエとキスできて嬉しかったけどな」
「え…?」
脱衣かごに置かれていた別のタオルで、適当に体を拭き。
少し迷って、自分の着ていた服も洗濯かごに放り込んだ。
「───ずっと前から、アルのこと…すきだったし」





思わずこぼれ落ちた、独白に似た告白だった。





そのまま弟のシャツに腕を通し。
「───あ、悪いアル。…このシャツ、部屋に帰るまで…」
貸しといてくれよ、と言いかけたエドワードは、背後から抱きすくめられる。
「っ、アル?」
「…ほんとに……?」
「…!」
耳元に落とされたアルフォンスの声は、信じられないほど甘い。
「姉さん、ホントにボクのこと、好き?」
細いうなじに顔を埋められ、奇妙な感覚にエドワードは肩を震わせた。
「───ああ」
頷くとぐいっと体を反転させられ、アルフォンスに瞳をのぞき込まれる。
「…ボクもね、ずっと姉さんが好きだった」
慈しむように何度も頬を撫でられ、心地よさにエドワードは目を閉じる。
「いつかちゃんと言いたくて、でもずっと言えずにいた。…こんな形で言うことになるなんて、思ってなかったけど」
「ん、ふ…っ」
降ってきた口づけを、目を閉じたまま受け容れる。
ちゅ、と小さな音を立てて何度も唇を啄まれ、エドワードは無意識にアルフォンスの背へ腕を回していた。
「…な、ホントにすき?嘘じゃ、ないよな?」
唇が離れると、エドワードは念を押すようにアルフォンスを見上げる。
拙いながらもキスに応えたエドワードの唇は、言葉を紡ぐたびに浴室の淡い光を反射させた。
「───嘘じゃないよ…あなたが好き。姉弟よりも、ひとりの人として」
エドワードが思わず身をすくませたほど、その声は低く色気があった。
「…すげぇ、嬉しい」