いつもいつでも
何、と聞き返す間もなく、吐息が触れるほどの至近距離まで迫った瞳に思わず息をのんだ。
何よりも鮮やかな真紅の瞳が、意地悪そうな光を浮かべている。
「え、えーっと・・・」
・・・なんだか本当に楽しそうだ。
ただ、その中に何故か不穏なものを感じて慌てて逃げ出そうとしたが、そこは仕掛けた方が早い。
逃れようとじたばた暴れてみても先手先手を取られてうまくいかない。さすがは・・・って、そんな所に感心してる場合じゃないって。
「わわ!?」
「どうして逃げるんだ?」
「どうしてって・・・キミ、何か変なこと考えてない!?」
睨み合い。
沈黙。
「・・・変といえば、変かもな」
ぽそ。
「わーんッちょっと待ってよ~ッ」
何とか壁際まで逃げ出して正面からにらみつける。(もっとも涙眼では威力はまったくない上逆効果だが)対称的にもう一人の遊戯の方は思いっきり状況を楽しんでいるようだ。
余裕の笑みを浮かべたまま、獲物を狙うネコ科の動物のようにするり、とにじり寄ってくる。
「相棒も好きなハズだぜ?」
そんな擦れ声で囁かれてもなんのことだか判りません。
「・・・じょーだん、だよね?」
えへら、と愛想笑いを浮かべてみる。
・・・が。
あっさり、もう一人の自分は心外だ、とばかりに殊更大仰に首を振った。
「まさか。こと相棒の事に関してはいつでも本気だぜ」
ついでに対老若男女有効の(?)必殺ウインクまでオマケにつけて。
・・・・・・反則だ。
ばっちり固まってしまった遊戯の前にペタンと座り込んで、イイ茹で加減のタコ状態に陥ってる相棒の目を下から見上げるように覗きこんでくる。
うわわわわ~ッ
迫ってくる赤い瞳に、居た堪れなくてキツク目を閉じた。
「だから、な。・・・コレ」
コツン、と額に冷たい何かが当たる感じがして、恐る恐る片目を開ける。
「な?」
「・・・・・・。」
ブツ、を確認して。目の前の、珍しく全開の笑顔と見比べて、往復。
しばしの沈黙ののち、遊戯はパタン、と横倒しに倒れた。
「いーじーわーるー・・・」
クッションに顔を伏せて心底恨めしそうに呟いた背に、もう一人の遊戯の楽しげな笑い声が更に追い討ちをかけてくる。
・・・はっきり言って、いっそこのままずぶずぶと穴でも掘って沈んでしまいたい程に恥かしかった。
「だって、好きだろう?」
対して至極楽しげな仕掛け人は悪びれずに言って、相棒の顔の横に手にしていたデッキを置いてやる。
しかし案の定、すっかりご機嫌を損ねてしまった遊戯は背を向けたまま。ズルイ、イジワル、と小さく連発している。良い様にかわれたのが悔しかったのだ。
まだ他にもいくつか悪口バリエーションはあったらしいが、もう一人の遊戯は聞いているのかいないのか、涼しい顔を崩さない。
・・・だったら、奥の手だ。
「・・・海馬くんに言いつけてやる~…」
ドロドロを背負ったまま小さくそう呟いたヒトコトに、そこでようやく彼は眉を顰めて首を振った。
「やめてくれ。あいつは洒落で済まなくなる」
「ボクだってシャレで済まないほど驚いたよ!!」
思い出したのか、いらないことを想像したのか、再び真っ赤になってしまった相棒の剣幕に、さすがにやりすぎたかなと苦笑を浮かべる。
「悪ノリしすぎたみたいだな。すまない」
「・・・ホントにドキドキした。心臓に悪いから予告なしにそんな悪ふざけするのはもうやめてよね」
・・・それって、予告した場合は・・・
ジロリ。
・・・ゴメンナサイ?