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覆水盆に返ることもある

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「……ん、」

「目が覚めましたか、兄さん」

「……ヒュー…バート?」



目を覚まして、初めに目に入ったのはヒューバートの顔だった。

落ち着いて辺りを視線を向けると、どうやらラントの自室であることに気づく。



「……なんで、俺はここに……」

「流石に目の前で倒れられたら、捨て置く訳にもいきませんからね」

「……俺、倒れたのか…、」

「……ええ、まぁ」


ヒューバートが頷くとアスベルは申し訳なさそうな顔をする。



「……ごめん、ヒューバート」

「…いえ、別に」

「……もう大丈夫だ。すぐにラントを出ていくよ」



アスベルはそう言うとベッドから起きあがろうとするが、いきなり起きあがったせいで目眩を起こしたのか眉をしかめて頭に手を置く。


「……まだ寝ていた方が良いと思いますよ」

「…いや、そういう訳…には…」

「……兄さん、貴方まだ子供の頃の病気は治ってないんですか?」

「……………」



黙り込むアスベルに、無言の肯定と解釈してヒューバートは続けた。



「……別に僕は病人まで追い出そうとは思いませんよ」

「……ヒューバート…」

「でも、領主の仕事や政治のことには口を挟まないで下さいね。それがラントに残る条件です」

「…………」


アスベルはヒューバートのその提案を拒否することも、受け入れる素振りも見せず、ただ黙っていた。

そんな様子のアスベルにそれ以上なにか言う気もせず、ヒューバートは席を立つ。




「なぁ、ヒューバート」

「………なんですか?」




だが扉を出る寸前で呼び止められ、足を止めてヒューバートは振り返りもせずに返事をする。




「……ヒューバートは、俺のこと、恨んでるよな…?」

「………」

「こんな病弱な奴が、領主になろうとしてるなんて、嫌だったよな…?」



アスベルの言葉に、ヒューバートは何も返さなかった。

無言のまま扉を開き出ていく。



出ていく寸前に、か細い声で「ごめん」と、聞こえたような気がした。