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闘神は水影をたどる<完>

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 フェリドは嘆息した。
「答える義理はないだろ。おまえたちこそここで何をしている」
「そっくり返そう」
「おまえたちには答える義務がある。ここはオベル王家の所有地だ。不法侵入にあたいするな」
「お、おまえはどうなのだ!」
「だからな……」
 鸚鵡返しの応酬を止めたのは、突如爆音とともに燃え上がった巨大な火の玉である。辺りが影を失い、男二人の引きつった表情が綺麗に浮き彫りになった。
 炎の大玉は扇状に宙に展開すると、木々を避けるようにして旋回し、葉杖から覗く夜空を一瞬覆い隠してごう、と霧散した。誰かが火の紋章魔法を発動させたのである。
「ひ、ひひぇ、殿下」
 うわずった唇と回らない舌を取り繕うこともできないほど、優男が真っ青になった。
 フェリドはふたりの男を押し退け、熱風で喉を焼かぬよう唇を引き結んで飛びだした。
 馬たちが甲高く嘶き、前足を高く振り上げ暴れている。覆面をした男たちが取り囲む幌馬車が、繋いだ騾馬に何度も体当たりされて飛び上がるように揺れていた。不意に幌の隙間から転がり出た、藍色の装束をフェリドは見逃さなかった。方向を定めた途端に覆面の男たちが視界を阻む。
「どけ!」
 フェリドは唸りを上げて剣を振るった。覆面のひとりが果敢にもそれを真っ向から受け止める。力押しに押して手首を返し、剣を絡め、弾き飛ばした。がら空きになった下腹を痛烈に蹴り飛ばす。一人。
 倒れた者を飛び越えてかかってきた二人の足下に飛び込み、腿を斬りつけた。血が飛び散る。裂けた腿を抱えて男たちが悶絶する。三人。
 頭上を太い風鳴りが飛び、振り下ろされた大槌がフェリドのいた場所の土を寸分違わずえぐった。前転でかわしたフェリドの鼻先を掠めた大槌を剣柄で打ち上げ、振り上げた剣の勢いを殺さず大槌使いの右腕関節に峰を叩き込む。
 四人は剣を取り落として呻き、または倒れ伏す。彼らを一瞥し、フェリドは草の上に転がり落ちたアルのもとへ駆け寄った。

作品名:闘神は水影をたどる<完> 作家名:めっこ