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闘神は水影をたどる<完>

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 アルは両足で挟んだ剣に手首の縄を擦りつけて落としたところだった。
「遅くなってすまん。大丈夫か?」
「フェリド、何故貴方が、ここに」
 アルはフェリドの姿をみとめると目を瞬かせた。
「我が君!」
 木立のあいだから駆け込んできたガレオンが、悲痛と安堵の入り交じった声でアルを呼んだ。盛んに怪我の有無を尋ねたガレオンは、アルの顔や腕の軽い火傷と首筋から流れる血に顔面蒼白になったが、それ以上の大事には至らなかったと知ると、畏まって切々と自らの失態を詫びた。
 アルは静かに首を振った。
「頭を上げよ、ガレオン。私がひとりで行動したのが、己を過信していた。それに罪は、そなたにあるのではない」
 フェリドはアルの足に巻かれた縄を切った。白い足首は縄の粗目に負けて、痛々しく腫れ上がっていた。アルはそっと裾を引き、フェリドの視線から傷を隠した。
「ありがとう」
 アルは蒼い目を伏せた。泣き出すのではないかと心配になるほど憂いを秘めた表情だったが、再びフェリドを捉えた蒼い色は凛と前を見据えた。
「賊はまだふたりいるはずです。うちひとりは彼らの統率者で、私の棍を持っています。フェリド、勝手を申すようですが協力してください。彼らは全員、生きて捕まえなければ」
「なんだかひらひらした連中か?」
「え?」
 アルがかたちの良い眉を顰めた。
 そこへ飛び込んできた場違いな声に、三人は揃って顔を向けた。
「ア、アルシュタート様、ご無事ですか。いまの爆発は」
 息を咳切らせながら現れた優男たちを見るなり、アルとガレオンの表情からさっと血の気が引いた。それは恐怖や驚愕より、あまりの憤怒に血を巡らせるのも忘れたというようなものだった。
「これは、ニーベルン家のクリステン殿ではありませぬか。何故貴殿がここにおるのです」
 ガレオンの声音に優男が腰を引かせた。確かに静かであるのに、虎狼の類も寄せつけぬ苛烈さのこもった一声だった。
「こ、これは」
 優男は弁明のようなものを口にしようとしたが、完全に萎縮した彼の舌はうわずった音ばかり弾き出した。その彼に代わるようにして横についた男がいた。フェリドは咄嗟に身構えたが、男に反抗の意思がないことを悟ると剣を下ろした。

作品名:闘神は水影をたどる<完> 作家名:めっこ