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闘神は水影をたどる<完>

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 戦艦から移り乗った連絡船は、いかにも木の葉のように揺れたのをフェリドはよく覚えている。以来、船に揺られるのは好まなくなった。
 フェリドは海面を蹴り飛ばし、水飛沫を散らせた。フェリドの足を溶かしていた紺碧がきらきらと舞い、しかし両足はまた冷えた水底にあった。
「親父殿に弟を置いてきたと詫びたら、守ったのだと珍しく諭された。弟の、国を守る者としての面子を。ひとの子の面子と両方守ってやろうなどとそんな猪口才な真似がおまえのようなひよっこにできるか阿呆、とな。声をがらがらにして笑っていた」
 ああ、と空を仰いでフェリドは息を吐く。今晩はみごとな朧月である。
「おまえは醜い争いから妹を守ろうとしたのだろう。おまえの妹ならきっとわかっている。許すかどうかはこれから先だ」
「励ましているのか、落ち込ませているのか」
 凛と張った声に振り返るとアルは膝に顔を埋めていた。フェリドはにやにやとしながら近寄り、誇らしげに小さな背中を見下ろした。
「なんだ。でも許されたいだろう? 素直になれ」
「貴方はどうなんです。弟君だって、きっと理解した上で貴方を許さないのでしょう」
「実のきょうだいの業は深い。あいつが俺を許すほど大人になったら、兄は泣いてしまう」
 フェリドの軽口にアルは深い溜め息を吐いて顔を上げた。泣いてはいなかった。フェリドは面白くないように眉を上げ、またすぐに笑った。
 アルはフェリドの次の言葉が咄嗟に理解できなかった。軽口に続いてフェリドが言った言葉はあまりにも自然で、絶え間なく聞こえる波音のように思えたのだ。しかしその穏やかな波に誤魔化されていた意味に気づいたとき、アルは打たれたようにフェリドを見た。
 鮮やかに楕円を象った月がはっきりとその背後に迫っていた。
 だからそうならんうちにここを出るさと、フェリドはそう言ったのだ。


作品名:闘神は水影をたどる<完> 作家名:めっこ