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先生と僕

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 高校の教師というよりは、ご近所の気のいい兄ちゃん然とした笑顔で、デンマークはフィンランドの顔を覗き込み。
「ふくふくしてた方が触り心地がええのに、もったいねぇぞ?」
「ふ、ふくふく、ですか……?」
 褒め言葉には聞こえない。ショックを受けた顔のフィンランドに、ノルウェーのこめかみに青筋が浮かぶ。
「だがら言わんこっちゃねぇ!」
「げふッ!!」
「おひゃあぁっ」
 デリカシーのない男をこぶし一発で地面に沈めたノルウェーに、フィンランドがビビる。地面と熱烈なキスをしているデンマークには目もくれず、ノルウェーはフィンランドの両肩を掴む。
「フィン」
「はいぃ!」
「ひとつ、無茶なダイエットは断固として反対すっが、食生活を改善したいってんなら手ぇ貸してやる。ふたつ、痩せたいとか考えてる暇あんなら、片想いのあいづの事でも考えてろ。みっつ」
 やけに真面目くさった顔で、ノルウェーは言い放った。
「見事な胸しとるくせに贅沢言うでねぇ」
「は、はぁ……」
 それはノルウェーに勝てる数少ない分野であった。威張れた話でもないが。
 目の据わったノルウェーを前に、フィンランドに言い返せる言葉などなかった。

「まあ、というわけでだ」
「どういうわけだ、居座んなあんこうざい」
「あの……なんだかすみません。僕のせい、なんですかね」
 ベンチの前を通り過ぎる生徒の視線が痛い。隣に腰かけたデンマーク先生をベンチから突き落とそうとぐいぐい押し退けているノルウェー。何がどうしてこうなった。
「謝らんでええ、全部こいづが悪ぃ」
「そーけ?」
「と、とりあえず、ダイエットの件は保留にしておきますね」
「話はよう分がらんが、そいつはえがった!」
 ――やっぱり分かってなかったのか。
「んじゃノル、俺はそろそろ行くっぺ」
「早よ行け」
 脱力するフィンランドの隣で、ノルウェーはミートボールをフィンランドのランチボックスに移し、替わりのフルーツをひょいひょいとつまんでいる。
「そういやミートボールはフィンにやるんけ?」
「ん」
「なら今夜もおんなじメニューでええか?残って、冷凍したのがあっから」
「ん」
 はらはらしながらふたりを見守っていたフィンランドは、「ん?」と首をかしげる。
「前から不思議だったんですけど、ノルウェーさんと先生はどういったご関係なんでしょうか?」
 ノルウェーは気易くデンマークに声をかけ、彼を《あんこ》と呼ぶ。もともと生徒に対してフランクなデンマークだが、いくら彼でもノルウェーほど馴れ馴れしくしている生徒はいない。ふたりは顔を見合わせる。
「マブダチだべ!」
「うざいあんこ」
 そして、互いが互いを指さして言った。
 教師と生徒、ではないのか。というかそのランチのミートボールは、てっきりノルウェーの手製だと思っていたのに、違うのか?今夜もミートボール?デンマーク先生が献立を立てて?
「え、ええ、えとその、ふたりはお友達?ご兄妹?!」
「深く考えんな、フィン」
 ふたりの憩いの時間に首を突っ込んできた上に、フィンランドに新たな困惑を投下した男は、飄々と立ち上がって「ミートボール、うめぇって言ってくれてあんがとな」と笑う。
 ノルウェーのランチのミートボールは、なぜだかデンマークの手作りらしかった。
「それとフィン」
 目線を合わせて、デンマークはいたずらっ子みたいな顔をする。
「スウェーデンが『ふくふくしてた方が触り心地がええ』って言うてたのは、マジだっぺ」
 それだけを言うと、デンマークは目を丸くしているフィンランドを置いて、今度こそ校舎へと戻って行った。
「ったく、役に立たねぇあんこだべ」
「ノルさんその件詳しくお願いします!」
「おめがあのセンセに告白でもすりゃ、教えてやらんこともねぇ」
「いじわるううぅ!」
「早よ飯食っちまえ。ほれ、昼休み終了まであと五分もねぇべや」
「おっひゃああぁぁ!」


 *


 新しいクラスになって、またノルウェーと机を並べられるのが嬉しかった。
 まさかのスウェーデンがフィンランドの学校に配属されていたのにも驚いた。これまた嬉しかったことだ。
 青天の霹靂って感じだ。ついでに親友のノルは学校のデンマーク先生と、何やら浅からぬ仲らしきことが分かって、本気でびっくりした。今日一日で、気力をごっそり使い果たした気がする。
 こんな日は甘い物を食べて、ストレス発散と体力回復を――って。
「それがダメなんじゃないか、もうっ!」
 ノルは用事があるとかで、帰りのホームルーム後に別れた。図書館で前から読みたかった本を読破して、満ち足りた気分で昇降口まで来たら、お腹が鳴った。甘味処がフィンランドを誘惑する。
 かといって、さすがにひとりでその手の店に入るのは気が引ける。空きっ腹をなだめながら帰ろうと靴を履き替えるフィンランドを、呼びとめる声。
「フィン?」
「え?」
 スウェーデンが立っていた。夕陽を背に、長身が長い長い影を廊下に横たわらせている。
「今がら下校け?」
「あ、はい、今日はちょっと、図書館に寄ったから。スーさん……じゃなくて、スウェーデン先生こそ、お仕事終わりですか」
「スーさん、で、ええ」
 今までずっと、そう呼んでいたから。
「じゃ、スーさん……一緒に帰りませんか?こうして会うのも久しぶりでしたもんね」
「ああ」
 スウェーデンは学校の近くに部屋を借りたという。せめてそこまでは一緒に帰りたい。
 腕時計を覗いたスウェーデンは、なにか思案しているようで。
「夕飯、食って帰ぇるか」
「え?」
「無理にとは言わんけっぢょも」
 断る理由などフィンランドにはない。二つ返事でうなずくと、ふたりは夕暮れの街へと出て行った。
 スウェーデンに誘われて、いつもなら通らない裏路地へと入っていく。物珍しさに辺りを見回しながらスウェーデンについていく。連れてこられたのは、地元の人間しか知らないような大衆食堂だった。
 くすりと笑って、フィンランドはスウェーデンについて店に入る。まさか駅前のハンバーガーショップを彼が選ぶだろうとは思っていなかったが。どちらかといえば合理主義なのか、現実的なのか。女子高生との夕食に選ぶにしては、なかなか豪胆なチョイスである。
 でも、別に不思議なことではない。スウェーデンはフィンランドの好みをよく知っているから、きっとこの店も近い将来、フィンランドのお気に入りになるのだろう。
 夕食にはまだ少し早い時間帯で、店内にはちらほら客がいるだけだ。奥の席に向かい合って座って、それぞれ定食を注文する。素朴な家庭料理を楽しみながら、ふたりはぽつりぽつりと近況を話し合った。
「まだ僕びっくりしてるんです。まさかスーさんが学校の先生になるなんて」
「いろいろあったんでな。結局、この職に落ち付いた」
「でも、嬉しいな。これからは、学校へ行けば、毎日スーさんと会えるんですよね」
「んだなぃ」
作品名:先生と僕 作家名:美緒