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8月

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09.走る風を抱いて




まだまだ陽が高い。
リタは時間を確認してから、それでも16時をすぎていることに驚いて、椅子から軽やかに降りた。
必要なものを鞄に詰めて、階段を下りる。リビングを覗くとカロルとハリーが居たので少し外に出ることを言った。

「ええ、もうそんな時間? リタ良いなー、ボクの宿題手伝ってよ!」
「やーよ。ていうか自分で立てたノルマさえこなせないってなに? ただのバカでしょ」
「リタはただの勉強バカじゃん」
「なに? なんか言った!?」

聞こえるカロルの声に喧嘩越しで言い返しながらリタは玄関先に歩く。
帰ってきたらチョップを一発、と考えながら玄関を開くとハリーが慌ててやってきた。

「夕食は?」
「一応用意しといて。その頃には帰ってくるつもりだし」
「分かった。気をつけてな」

手を振られたので振り返して、自転車の鍵を差し込む。
サドルに跨って、仰いだ空はやっぱりまだ陽が高く、暑く、眩しかった。



+++



毎年近くの歩道を規制して夏祭りが行われると言ったのはカロルだったけれど、それを行こうと言い出した人間にリタは付き合うことになった。
本当は自分も行きたくて仕方なかったのだけど、ひとりで行くのもどうかと思いぐるぐると躊躇していると、一番リタに関わってくる人間がじゃあ一緒にどうか、と誘ってくれたのだ。
リタは嬉しくて仕方なかったが、性格が祟ってぶっきらぼうにしか返せず、それでも相手はそんな些細なことは気にしていないように、ほんわりと笑った。
まああの子だしね、とリタはひそかに相手の顔を思い出して、ふと視線を横断歩道の向こうへと上げた。

「・・・あれ?」

信号は赤。
目の前で車が動きだしている中、向こう側の歩道に見たことのあるような男と犬を見つけて首を傾げた。
遠目で見ると女のように見えたけれど、リタがあれは男だと一瞬で分かったのは会って喋ったことがあるからだと思い出して、ペダルに足を置きなおした。
やがて信号が青になり、待っていた人達が動き出す。たくさんの人にまぎれながらリタは自転車をゆっくりと漕いで、眼でその男と犬の姿を追い、違和感を覚えた。
犬の胴輪から繋がるものを男が左手に持って歩いていたのに、もしかして、と眉を寄せる。
あの夜、自転車を(一瞬だけ)盗まれた時に取り返してくれた人間には違いない。リタはそれに自信を持って頷けるけど、その時なんの違和感も感じなかったのが不思議だった。暗がりのせいだったのか、もしかしたら自分がそれどころじゃなかったせいなのか。

目的の方向がまったく反対方向なので自然と背中しか見えなくなり、その男の腰まで届きそうな髪の長さにリタは女みたい、とぼそっと呟いた。
ペダルを深く踏み込む。生温い熱を孕んだ風が自転車の速度を上げるたびに、髪と頬を撫でていって、それにしかめっ面をして、眼を細めた。

(あれが男って、世の中分かんないわねー。でも口は悪かったわね、確か)

リタは男と犬の姿を頭の中に浮かべながら、まだ少し高い太陽を仰いだ。


作品名:8月 作家名:水乃