8月
再会のきっかけは本当に些細なことだった。
5年後、孤児施設にボランティアとして通っているとユーリに会えた。ほんとうにそれだけだった。
時々この施設の子どもたちに音楽やピアノを教えに来る人間がいることをジュディスは知っていたが、まさかそれがユーリだなんてと驚き、そして思い切って声をかけるとすぐに自分の名前が呟かれたことに更に驚いた。覚えていてくれてたことが嬉しくて、ジュディスは珍しくたくさん喋った。
会話を交わすうちにユーリがジュディスのことをジュディと呼んでいいか、と切り出してきたので構わないというと、すこしだけユーリが笑い、それに少し見惚れてしまう。
眼は合っているようで、でもけして合うことはない。
それでも話しているとまるで生き別れた兄妹か、家族のように意気投合しはじめていた。
ここから電車で二駅向こうのアパートで一人と一匹で暮らししていること、週に2、3回ヘルパーをお願いして買い物や掃除、食事の準備などをして貰っていること、大学には通っているということをユーリは簡潔に話した。
それを聞いてジュディスは冗談半分で自分をヘルパーにしないかと言った。
資格は何かに役立つかと思って取っていたのでそれなりには出来るだろうし、あとの半分はあの夏のことがまだ自分の中で許せていないのだ。
ユーリは、気にしなくていいと言ったけれど。(あんなかなしいことは二度といわないで、ほしい)
しばらくユーリは思案してきたけれどすぐに、ジュディがいいなら、と言った。
あまりの即決に少々拍子抜けをしてしまったが、ジュディの料理が食べてみたい、と子どもみたいな発言にジュディスは可笑しくて楽しくて、あの頃のように肩を震わせて、笑った。