リオ・ナユ
絶叫
ここの城は朝、ちょくちょく鶏のかわりに軍主の絶叫が響き渡る。
そんなある日の朝。
「ちょっと、またですか・・・。なんでいつも勝手に人の部屋入り込んで寝てんですか。自分の部屋で寝て下さいよ、もう。」
目が覚めると、隣に殺戮魔が眠っている。最近よくある事である。
「・・・うるさい、眠い、だまれ、バカ・・・」
そしてまた、クウと眠りに入るリオ。
ナユの部屋にちょくちょく、いつの間にか入ってはベッドに入り込んで眠るリオを、最初は気付く度に追い返したりしていた。
しかし追い出しても、どうやってか気付けばまたベッドの中にいたりするので、最近は放っておく事が多い。そして朝、やはりリオはそのまま眠っているのである。
最初の頃は忍び込んで、眠っているナユの顔にいたずら書きをしたり部屋に何か仕掛けをしたりして、そっとまた出て行くといった感じだったが、いつの頃からか、いたずらがなくなった代わりに、ここで寝るようになった感じだ。
ナユは、“相変わらず、何考えてんのか分からない人だ”と思いながらベッドから出て服を着替えスカーフを巻いた。
その頃にはボーっとしながらもリオも起きてきていた。
「ちょ、起きたんなら、さっさと用意でもしたらどうですか?てゆーかほんとになんでいつもここで寝るんですか!?」
「・・・なんとなく?」
「・・・・・。」
「でもたいがいは貴様がよく引きとめてきたからだったけど?発端もそうだったし?」
「・・・は?何言ってんですか?そんな事した覚えはありませんが?」
「あぁ、いつも寝ぼけてんじゃない?あれは。最初の時も、貴様の顔にでもいたずら書きしてやろうと、例のごとくココに忍び込んだ時、貴様が起き上がっちゃったんだよね?だから舌打ちして帰ろうとしたら、僕のコト呼んでさ・・・あ、先が聞きたければ、今後も僕を追い出さないコト。いい?」
「??・・・分かりましたよ。・・・追い出しません。これでいいんでしょう?」
「約束、したからね?」
「ちなみに何て呼んだんです?」
「え?あぁ、『リオ』って。なんだって言ったら、手招きするからとりあえず貴様のいるベッドに近寄ったら押し倒されたんだよね?」
「ゲ・・・う嘘だ・・・。」
「別に信じなくても良いけど、本当の事だよ?僕もびっくりしたケドね?放そうにも放れないからそのまま眠ったんだけど。そんな事がちょくちょくあって、なんとなくココで寝るのが癖になった。」
「・・・あんたが部屋に来なければいーだけの話じゃあ?・・・僕はそんな寝ぼけぐせあったのか・・・。あ、ところで僕、その、引き込んで放さないって事以外は何もしてないですよね・・・?」
「・・・あー、何度かキスされた。」
「!!!」
「軽いヤツだけどね?」
城中の者を起こすかのような絶叫が、その朝も響き渡った。
「今朝のあれは、今回はなんだったんだ?」
昼、レストランにて、テッドがナユに言った。
「・・・何でもありません。放っておいて下さい。僕にかまわないで・・・」
「おや、テッドみたいな事を言うね?」
「カイリ・・・、別にその台詞は俺の専売特許じゃねぇ。・・・何か又、リオにいたずらかなんかされたか?」
「いえ・・・、されたというか、したというか・・・、はは・・・」
なんだか、ナユはうつろな様子である。
いつも以上にショックをうけている様子の為、絶叫は割りと珍しくはないものの、テッドも気になって聞いてくれているようである。
ルックがリオに聞いた。
「なんかいつも以上に変なんだけど?あんたのせい?」
「どっちかといえば僕のせいじゃないと思うけど。コレが勝手にした事で勝手に落ち込んでるんじゃない?」
「元気が出ないなら、これを煎じて飲んでみたら?」
そう言ってカイリは懐から小さな袋を出し、その中から何らかの粉を取り出して、ナユの食後のお茶に入れ混ぜた。
「・・・ありがとうございます。でも何ですか・・・今の粉は・・・?」
「ハーブを乾燥させて粉末にしたものだよ?きっと元気が出るよ?」
「・・・そうですか。じゃあ、いただきます。」
そう言ってそのお茶をナユはゴクッと飲み干した。
「・・・?甘・・・。・・・」
甘いハーブ?なにげに気になってテッドはカイリに聞いた。
「何のハーブだ?」
「確か元気が出て、MPも1つ戻る元気ハーブだよ?」
「・・・なんか嫌な風に聞こえるぞ?・・・だれが作ったんだ・・・?」
「育てたのは俺だよ?昔いた、マオだかナオだかの作り方を再現してね?」
「ちょ、待てオイ。あいつらの!?ってろくな記憶しかねぇぞ!?っオイ、ナユ、吐け、戻せ!!」
「何テッド?どうしたのさ?」
「ほんと、何なのさ?」
リオとルックが怪訝な顔をする。
皆でナユを見たが、ナユは気を失ったようにテーブルに突っ伏していた。
「オマエ、何飲ませた訳?」
リオに聞かれ、カイリは首をかしげた。
「あれ?おかしいね?うーん・・・あ、もしかしたら・・・」
「オイ、ナユ、大丈夫か!?」
テッドが心配してナユをのぞき込んだ。
「あー、テッド、もしかしたらナユと目、あわせない方が・・・」
カイリが最後まで言う間もなく、ナユが頭を上げ、テッドをぼんやりした顔で見た。
そしてぼんやりしていた目がだんだん覚醒するかのようにはっきりしていく。
「?オイ、カイリ。なんで目、あわせちゃだめなん・・・」
聞いている途中で、テッドは言葉を失った。
ナユがいきなりギュッとテッドに抱きついてきたのだ。
「・・・好き・・・。」
そう言って赤くなりつつ、テッドの首にナユは顔をうずめた。
テッドも唖然としながらも、思わず赤くなった。
「テッド?何赤くなってる訳?」
「わー待て待て!!な何だ、どうなってんだカイリ!?」
不遜な笑みを浮かべ、何か仕掛けようとしているとしか思えないリオを慌てて止めて、テッドはカイリに問いただした。
「えーと、どうやら間違えて育てちゃったみたいだね?よく似てんだよね、作り方。多分だけどナユに飲ませたのって、一目惚れハーブかも?」
「は?」
「覚醒した時に見ちゃった相手の事が好きになっちゃうんだよ。しかもハーブの影響だから感情がストレートに出ちゃうんだろうね?残念、俺が見られたかったなー?」
「・・・言いたいことはそれだけか・・・?」
リオからナイフが飛んでくるが、難なく双剣ではねのけつつカイリは微笑んだままである。
周りでは早くも避難を決め込んだらしく、人気がない。
「まぁ落ち着きなよ?とりあえずあの量じゃ、効果は一日ももたないよ?」
「ちょ待て、それまでずっとこんなか!?」
テッドが慌てて聞いた。
ナユはテッドにしっかり抱きついたままテッドを見ている。
「えー、いいよね?テッド。俺が代わって欲しいくらいだよ?」
「そ、そういう問題じゃねぇぇぇ。どーすんだコレ?」
相変わらずしがみつかれているナユをどうしていいのか分からず焦っているテッドを横目で見て、ルックが言った。
「その状態を利用して、まさか変なコトしようとか思ってないよね?」
「へぇそうなの?テッド?」
どす黒いオーラをまとっているリオに、テッドは慌てて否定する。
「んな訳ねえだろうが!?」