リオ・ナユ
禁忌
ある日もナユは自分の部屋で書類と格闘していた。
ひと段落着いた時、ふう、と伸びをした後ムッとしたように前方を睨みつけた。
そこではいつもの4人が飲食物を持ち込んでカードをやっていた。
「何なんですかあなた達!?人が苦しんでいる中、何楽しそうに遊んでんですか!?そりゃ遊ぶのは自由ですが、どっか余所行ってやって下さいよ・・・。」
「えー?貴様が1人じゃさみしかろうと思ってね?」
「お前も終わったら入ってくればいーじゃん。」
「いつでも歓迎するよ?」
「・・・僕は無理やり連れてこられただけだよ。」
「・・・・・。てゆーか、ここでは賭けは禁止ですからね。賭け事がしたいなら賭博場へ行って下さい?」
「「「えー?」」」
少なくとも3人のブーイングが聞こえたが無視をして、後もう少しと、書類の続きにナユは向き合った。
苦しみつつ暫く後、ようやく終わった。
「終わったぁー。」
うーん、と伸びをしていると、そこにカイリが飲み物を持ってやってきた。
「やあ、終わったかい?お疲れ様。」
「・・・これは何です?」
前にカイリによってとんでもない目に合わされたナユは少し警戒して聞いた。
カイリは首をかしげ、3人のいる方を指で示して答えた。
「何って、皆で飲んでる物だよ?そこから持ってきただけ。」
ホッとしてナユは受け取り、喉が渇いていたので一気に飲んだ。
「!?」
ぶはっと、ナユは咳き込みだした。
「?どうしたの?大丈夫?」
心配そうにカイリは背中をさすった。
3人もナユを見た。
「げ、ほっ、今の・・・?」
咳き込みが治まると同時にナユの顔がだんだん赤くなっていった。
「ちょっとあんた。ここの飲み物って、これ飲ませた訳?」
ルックが1つのビンを掲げてカイリに言った。
「え?うん、そうだけど?・・・ああ、そういえば前にシーナ君のノートに苦手な物って・・・」
「いや、苦手云々より、未成年に何飲ませてんのさ?」
「そういうお前も未成年じゃないの?」
「僕はお酒と知った上で自主的に飲んでいるからいーんだよっ。」
リオに言われて、分かるような分からないような言い分をルックは返した。
横でテッドが、はぁっ?と言っている。
「なるほど、そういうものかい?ナユ?一気に飲んじゃったみたいだけど、大丈夫?」
「・・・・・。う・・・、ン・・・・」
少しボーっとしたような感じではあるが、倒れるとかはなさそうだと皆は思った。
「!?」
次の瞬間、ナユはニーッと笑ったかと思うと、ものすごい速さでカイリに上段回し蹴りを放つ。
避けきれず、腕でガードするカイリ。
他の3人は唖然とそれを眺めた。
かと思うとスッとしゃがみ、下段回し蹴りをくらわしてきた。カイリは飛び下がったが、そのままジャンプして飛び蹴りが来る。なんとか避けると拳が飛んできた。
「・・・なんだあれ。あいつ、酔うと戦いたくなるっつー酔拳家的な珍しい口か!?」
唖然としたままテッドが言った。リオが続けた。
「あれは酔ってるからあんなに速い訳?それとも無手での技がさらに鍛えられ、速くなった訳?」
「知らないよ。テッドはともかく、リオ。気になるのはそこ?」
ルックが言った。
しかし確かに速い。
動きが人間離れしており、いつもは余裕のカイリが逃げるのに精一杯のように見える。
「つーかこんな部屋の中でよくあんだけ素早く動き回れるなオイ。」
「・・・そんなことより、酔ってるのにあんなに動き回ったらさらに酔いがまわるんじゃ・・・」
「ふーん、じゃあますます戦いまくり?」
のん気に話す3人に、攻防中だが声だけはのん気そうなカイリが言った。
「えー?皆助けてくれないの?」
格闘は10分程続いた。テッドが更に感心した。
「よくまぁあんだけ動けるよな、2人とも。」
その時不意にナユの動きが止まった。
珍しく息を乱していたカイリはホッとする。
「・・・っ熱、い。」
そう呟くとスカーフをとり、ナユは服の前を途中まで外してはだけさせた。
白くでも上気しほんのり赤くなったほっそりした体が垣間見える。
「おい、今度は何だ?つーかあの格好、全部脱ぐよりなんだかヤラシイんだけど?」
リオに向かってテッドが言った。
リオは黙ったままである。
カイリは怪訝そうにしている。
そのナユは熱に浮かされたような目でカイリを見上げた。その瞳は黄金のように光ってみえる。
「ちょっと、何か様子がへんだよ?」
ルックが慌てたように言った。
疲れと訳の分からなさからボーっと突っ立ているカイリにナユが近づき、すっと腕を上げて首に絡めた。
次は何が来るんだ!?と構えようとしたカイリが脱力する。
「ねぇ、熱い。喉かわかない?さっきの、一緒に、飲もうよ?それとも貴方の口づけでも良いよ?それか・・・いっそもっと熱くなる?他の何かイイコト、する?」
「っは・・・?」
首に腕を絡められ、潤んだ瞳で見つめられながら、何かとんでもない事を言われたような気がする。
それも、あの、ナユの口から・・・。
カイリの混乱は激しい様子だった。
なかなか見られないカイリの様子だが、少し離れた所にいる3人もそれどころではなく、同じように混乱していた。
「おい、あれ・・・」
「っうわーっ、あれ、マジでナユか!?何?ステージクリア後の特典!?」
「ちょっとまずいんじゃ・・・。そんであんたは何バカな事言ってんのさ!?」
混乱の渦の中、ナユであってナユでない誰かは、そのまま続けた。
「ねぇ・・・どうしたの?何もしないの?」
首に回していた片方の手を背中に這わす。
ゆっくり弄ってスーッと下に降ろしていきお尻までいくと軽く撫で・・・
「おっと」
その前にカイリは両手でナユの肩をつかんで引き離した。そして3人のほうへ向く。
「ねえどうしよう?やっちゃっていいのかな?」
「おいぃぃぃ、何言ってんのォお前?つーか俺らいんだぞ!?何のショーだよ!?ちょっとドキドキしたぞ・・・。おい、リオ、どうすんだあれ?」
「・・・水でもぶっかける?」
「はげしい酔い覚ましだよね・・・、部屋を水浸しにするつもり?ちょっとカイリ、そいつに水でも飲ませなよ。」
「あーうん。ちょっとナユ、離してくれるかな・・・?」
「ヤダ。いーじゃん。このまま、ここで?見られてたら、すっごく熱くなれるかも、だよ?」
「ちょ、誰か助けて?俺ちょっとまずいからっ。」
「・・・俺、あんな焦ってるカイリ見たの、久しぶりか初めてかも・・・」
「言ってる場合!?」
ルックがそう言って水差しと水の入ったコップを持ってカイリ達のところへ行った。
テッドと、無言のリオも行く。