リオ・ナユ
誤解
・・・たまたまな所をたまたま誰かに見られ、勘違いされてなんだか噂になる。
まあベタなよくある事である。
ある日不機嫌そうなこの城の軍主は、いつものごとく石板前に座り込んで、ルックに愚痴っていた。
「なんか勝手にすればってゆー事と、なんでそんな風に思うわけ!?って事でダブルに納得いかないんですよねー?」
「ちょっと朝から何なのさ?意味分からないんだけど?」
いつも不機嫌そうなこの石板の主に言われ、座って頬杖をついていたナユはため息をついた。
「実はですねー朝、ちょっとした報告があって、1人の兵士が僕の部屋に来てたんですよ。で、報告も終わったのにその兵士はなんだか言いたげでなかなか立ち去ろうとしないんですよねー?」
ナユは説明しだした。
どうかしたのかと兵士に聞くと、彼は意を決したように1つ深呼吸をした後、“リオさんの浮気、御労しく存じますが、どうかお気を落とされぬよう。一時の気の迷いだと自分は思います。”と敬礼して言った。
何を言われたのか理解出来ず、ポカンとナユがしていると、元気出して下さい、とその兵士は言った後、回れ右をしてナユが呼び止めようとする間もなく部屋から出て行ってしまった。
ナユは唖然とした。部屋から出ても、なんとなく誰かに噂されているような感じが拭えない。
気になるので、1人の掃除をしていた女性を捕まえた。
兵士だと変に畏まられてちゃんと説明が聞けないかもしれないが、こういった噂好きそうな女性なら色々知っていそうだし教えてくれそうだと考えて聞いてみた。
するとどうやらリオとカイリが、キスしようとしていたかしたかの所を誰かが見た、というのだ。もしくは手と手を取り合って仲良くおしゃべりをしていた、というのもあるらしい。
「・・・あの2人がぁ・・・?」
物凄く疑わしそうにルックが言った。
「別に勝手にすればいいじゃないですか!?僕に関係ないでしょう?しかもその事でなんであの殺戮魔が浮気をしたといって僕が同情されなければならないんです!?まったく、理解できません!!」
「・・・あー。」
何ともいえない声をルックは漏らした。
ナユは愚痴った後、プンプン怒りながら去って行った。
そのままレストランにでも行こうかと思ったが、そこは人が多い場所。
噂の的だろう。
挙句の果てに今度は自棄食いをしているなどと言われては堪らない。
ナユは方向を変えて訓練所へ向かった。
途中誰かいい憂さ晴らしの相手はいないかと思っていたら、テッドがのん気そうに歩いているのを見つけ、無理やり連れて行った。
「ちょ、な、なんだよいきなり!?」
「たまには体でも動かしたほうが良いですよ?テッドさん。最近碌に運動してないんじゃないですか?僕が付き合ってあげます。」
「なんだよ急に。運動くらいしてるぞ?」
そう言いながらもナユと一緒に訓練所に向かいつつ、自分の最近の行動に思いをはせた。
朝起きて、城のどこかを散歩し、朝食を食べる。
その後はこいつらとつるんだり図書館へ行って本を読んだりして昼食。
午後はそのまま図書館の書庫の整理を手伝ったり、やはりこいつらとつるんだりして・・・晩飯・・・。
その後は・・・自分の部屋でゆっくり過ごして・・・寝、てる、よな?
あれ?
俺、いつ運動してる?
散歩か?
つーか年寄りか俺は(実際300歳オーバー)!?
俺、最近毎日何やってんだ?
ヤバくね?
テッドの脳内は今ぐるぐる回っていた。
「何ボーっとしてるんです?呆けですか、まさか・・」
「ってだれがボケてるかぁぁ。いや、ちょっと自己嫌悪?ははっ、さあ、鍛えあおうぜ!!」
急にテンションの上がったテッドを胡散臭いものを見るような目でナユは見た。
「オイ、何だよその目は?つーかさ、俺武器って弓なんだけど?」
「こんな所で弓打ち合っても仕方ないでしょう?僕もトンファーは使いませんので、無手でいきましょう。」
無手と聞いて前のリオとの格闘や、酔って人間離れした技で動き回っていたナユを思い出すテッド。
「お前さあ、無手のが強くなるって自覚、ねえ?」
「は?何でそうなるんです?だったらトンファ持ってる意味ないでしょう?じゃ、いきますよ?」
「え、ちょ、タンマ」
そう言ってテッドは手をのばしたり、体をぐるぐるひねったりして準備運動を始めた。
「俺マジで運動不足っぽいからな、ちょっと体あっためないと・・・よし。じゃあ、いくか。」
2人とも構えあう。
と同時に動き出した。
酔っ払っていた時よりはさすがに動きは劣るとはいえ、やはり相当すばしっこい動きのナユに対し、テッドはついていくのが精一杯というところ。
それでもやはり長年逃げたり戦ったりしてきただけあって、考えるより体が先に動く。
しかし優勢なのはナユであった。
テッドは息切れしてくる自分に舌打ちした。
ただ、ナユの方も、なんとなくいつもと違い、変にムキになっている様子で、その為か息を乱しがちであった。
こりゃちょっと休憩だな、とテッドは思った。
もうかれこれやり合ってけっこうな時間がたつ。
無茶苦茶にやり合っても身にはならないだろうし、やはりなんとなくナユも様子が変だ。
たまたまバランスを崩し、疲れも相まって、2人とも床になだれ込む。
お互い仰向けになって天井を見て荒い息をついた。テッドが聞いた。
「ちょ、おい、休憩な。なんかさ、変じゃね?お前何かあった?」
「・・・いえ。まぁ、しいて言えば殺戮魔と色魔がどういちゃつこうが自由ですが、僕は関係ないし、浮気されたとか言われる筋合いはないってところでしょうかね・・・?」
そう聞いてテッドは少し考えた。
殺戮魔、はリオだろ?色魔・・・ってーのは、もしかして・・・カイリ!?え?
そしてがバッと起き上がり、思わず仰向けで寝転んでいるナユにのしかかって言った。
「ってオイ、まさかリオとカイリが!?ってありえなくね?なんの冗談だ!?」
「何ですか急に?冗談というか、噂です。キスしたとか手を取り合ってたとか、そんな感じの。」
「はーあ?あの2人が手を取り合ってキスゥ!?ないだろ、そりゃあ・・・。安心しろよ?」
「は?なんで僕が安心するんです?だから、浮気とか、そっちの言われようのほうが冗談じゃないですよ!?」
「まぁ、別にいいけどよ?ま、ないよな、あの2人に限ってさぁ、ははっ」
「・・・?テッドさんってまさかあの変態達のうちのどちらかの事、好きとか・・・」
「ってオイ何言ってんだよ!?」
「って痛いですよ、肩。ちょ、どいて下さいよいーかげ・・・」
不意に訓練所の入り口が開き、何人かの兵士が入ってきた。
見れば部屋のど真ん中では、息の荒い2人がいる。
それも、どう見てもテッドがナユを押し倒し、何かをしようともしくはしたように見える。
「しっ失礼しましたーっっ」
兵士達は慌ててその場から去っていった。
唖然とする2人。
「ちょ、冗談じゃないですよー!!」
思わずテッドの顔を殴ってしまうナユ。
間もなくナユが浮気をしかえしたという噂が飛び交った。
「何な訳?あれ?」
リオが石板横に座ってナイフを玩びつつルックに言った。
その横では同じく座ってカイリがまんじゅうを食べていた。