リオ・ナユ
願望
「やっぱりさあ、不老って子孫残す必要性なくなるからかな?」
「・・・いきなり人が休憩している所に来て、何です?カイリさん。」
図書館裏の池のそばでウトウトとうたた寝をしていたナユの元にきて横に座りおもむろにカイリが言ってきたので、薄目を開けてナユはボソッと返した。
「えー?ほら、例えば俺にしてもリオにしても、下手に子供なんかつくっちゃったら、何気に子々孫々ずっと見送らなきゃいけないじゃない?」
「・・・藪から棒にヘビーなネタですね・・・。だから何なんです?」
「んー、だから女の子から好かれると、逆に相手にしないのかなーってふと思ってね?」
「は?」
渋々起き上がり、目をパチクリした後でナユは言った。
「・・・さっきからまったく話が見えませんが・・・?」
「うーん、ふと思っちゃってね?ちょっとしたお相手なら全然OKなんだけど、本気の子に対しては、やっぱり、ね?その子に最終的に悪いし。」
「なんでふとそんな事思って僕に言うんです?」
「えーと、いや、さっき君に告白している女の子、見ちゃって・・・。ごめんね?わざとじゃないよ?」
とたんにナユは赤くなった。
「あ、ほんとごめんね?わざとじゃなく、たまたまなんだけど。で、君がごめんなさいってしてるとこ見て、ふと思っちゃったんだよね?」
「ああ・・・。・・・僕はその子のこと、よく知らないし・・・それに多分普通の子だったから・・・僕といるよりもっと普通の暮らしをしている人と、ずっといて欲しいと、思ったから・・・。僕は、もしかしたら、ずっといられない・・・。えーと、その、僕は不老じゃないですんで、その会話は殺戮魔とでも・・・」
「・・・そうだね?どっちかってゆーと、その紋章によって、命を削られているって感じかな?」
「!!なんで・・・知ってるんです?」
「まあ、近い経験を俺もしたからね?でもまあ君の場合は、不完全な紋章を宿しているせいで、それを補おうと紋章が君の命を少しずつ吸っているような感じかな?」
「・・・知ってるのはカイリさんだけですか・・・?」
「いや、他の3人も知ってるみたいだよ?ルックはほら、色々と紋章に詳しいし、後の2人も過去と現在の魂喰いを宿しているヤツらだからね、なんとなく分かるようだね?君の命が少しずつ軽くなるのが。」
「・・・そう、ですか・・・。」
それでも何も言わず、ジョウイの事も手出しをしようとしない彼らに感謝しつつ、カイリに言った。
「それを言う為に、あんな訳分かんないコト言ってきたんですか?」
「まさか。たまたまの流れだよ?今はたまたまこういった流れになったんで、ついでだし、気付いてるよって事を言っておこうかなーって思っただけだよ?俺も過去、この紋章を使う事で命がどんどん削られていったんだよね?でも誰かに使うなって言われても、ヤバい場になったら迷いなく使ってたし、まあ人にいわれて、はいそうですかって出来るならリーダーなんか、やってられないよね?」
そしてナユを見てニッコリして続けた。
「でもね、それでも気遣う人がいるって事はちゃんと知ってて?君の命が削られていくのをどうしようもなく何も出来ず見ているだけしか出来なくて悲しくて、それでも君の事、大切に思っているって人達がいるって事。ね?」
「・・・はい・・・。ありがとう・・・ございます・・・。」
「ふふ、俺もさ、昔、そう、君みたいな子に一度言われた事があったんだよね?もちろんそれまでも皆が俺を大切に思ってくれている事は知っていたけど、改めて、知り合ってあまり面識もない子に言われたことは、妙に心に残ってね?その子には感謝しても、しきれないんだよね?なんだか君にそう言えた事で、その子にも恩返しができたような気分になれたよ?だからこれは俺の勝手な話だね?だからもう言わないよ。でさぁ、さっきの話だけどね?リオもさ、よく告白されてるけど、そういう場合はやっぱり断ってるみたいだよ?」
「え?あ、はあ・・・。えっ?あの殺戮魔に告白する子がそんなにいるんですか!?」
「えー?何で?あんなに綺麗な顔してるじゃない?」
「いや、まあ確かに見目はとても良いですけど・・・」
「それに強いし、動きとかもとても優雅だし?」
「まあ、あんなでも英雄ですし、元貴族ですからね・・・」
「それに割りと彼、女性には優しいしね?」
「男に対しては容赦ないくせに・・・。ずるい。エセフェミニストめ・・・。」
カイリはプッと噴出した。
「・・・何ですか?」
「いや、何でも?ほら、なんていったっけ?あの忍びのきれいな人・・・あ、かすみさん?あの人もずっとリオの事好きみたいだよね?」
「ええ!?あんなきれいで落ち着いた感じの人が!?」
「でもリオも好きだっていう女性は絶対相手しないから、なんとなく俺と一緒かなーって思ったな、さっきさぁ、ふとね?」
「ふーん、カイリさんはずっとそうしてきているんですか?」
「うん。俺は子供はつくりたくないから。俺の事好いてくれても、そういう事無責任に出来ないしね?結婚とかさ?それにいずれ相手の女性は俺をどんどん追い越して歳とっちゃうでしょ?きっと女性はそういうの、辛くなるだろうし。」
「・・・なるほど・・・」
「遊びならかまわないんだけどね?ただ好いてくれる女性をこっちも好きになったらねぇ・・・。まあ1番気楽なのはその点男相手、かもね?」
「はあ、まあそんなもんですか?・・・殺戮魔も体だけの付き合いとか、してるんでしょうか・・・?」
「さあ、いくら殺すことが楽しいっていっても(これ聞こえ悪いよねえ)、男だからねえ、そりゃ、まああったんじゃない?今は知らないけどね?」
「・・・ふーん。そうですよね・・・?・・・カイリさんは今は?」
「俺?うーん、相手、いるけどね?されるほうだし、君なら喜んでする側で相手させてもらうけど・・・?」
「さ、される?ってゆーか、遠慮します。僕はそういう遊びは出来ないんで。」
「ふふ・・・だろう、ねぇ?じゃ、俺行くね?じゃあね、まあ無理せず、ほどほどにね?」
そしてひらひらっと手を振ると、カイリは図書館の方へ歩いていった。
「絶対、バカな話する目的じゃないでしょう・・・?」
わざと軽く言っていたけど、すごく嬉しかった。
知ってて何も言わずに側にいてくれる人も、言っても仕方ないと知りつつ心配して言ってくれる人も、どっちも大切な僕の仲間だ・・・ナユはとてもうれしい気持ちになりながらまたゴロンと横になった。
そして自分の手を見る。
・・・ジョウイにも、ちゃんとそんな人が周りにいてくれるのだろうか・・・?
例え僕が最後には殺るとしても。
今は。
・・・そういう人達がジョウイを見守っていてくれたらいい・・・そう願いながら、ナユはまた眠りに落ちていった。