リオ・ナユ
味覚
「や、やめてくれ・・・頼む・・・一生のお願いだ・・・。」
「ふふ、それは聞けません。さあ、もう後がありませんよ?諦めて下さい?」
青くなりじりじり後退するテッドに、ナユはどんどん迫っていく。
テッドは壁に当たり、もうさがれない事に気付く。
「う、わ・・・」
「さあ、テッドさん?」
その時ナユの肩をポンと叩く者がいる。
振り返ると、リオ、カイリがそこにいた。少し離れた所に警戒心丸出しのルックがいる。
「貴様は何テッドをいじめている訳?」
「だめだよ?ナユ。テッドいじめちゃあ。」
「・・・別にいじめてる訳ではないんですけど?ただこのナナミ料理をテッドさんに食べていただこうとー」
「それがいじめでなくて何だよ?なんで俺なの?」
まだ青い顔のままのテッドが言った。
ルックはまだ離れたまま様子を伺っている。
「えー?ナナミがテッドさんにも食べてもらいたいって言ってたからですけど?」
ここは閉店後のレストラン。
人気がなく、シーンとしている。
ナナミは久しぶりにナユに料理を作ってあげたいと、楽しそうに作った後満足して、メグ達の所に遊びに行ったようである。
その時に、料理する前にテッドに会って少し話してたのを思い出して、良かったらテッドさんにも食べてもらってとナユに言っていた。
ナユは言われたとおりにしようと、あえてナナミ料理の事は伏せてテッドをここに呼んだわけである。
たまたま通りかかった3人が中の音を不審に思い、入ってきて、テッドは助かった。
今、この3人(正確には2人)が神様のように見えている。
「まあ、立ち話もなんですし、座りましょう?」
ナユがテーブルを指した。テッドが首を振る。
「嫌だ。俺は座らねえぞ?ムリ。」
ナユがため息をついて言った。
「分かりましたよ。この料理は僕が食べますから。」
皆が座ってナユがナナミ料理を食べだした時、カイリも一口とり、食べて言った。
「しかしなんでナナミちゃんの料理って、独特なのかな?」
「独特なんてかわいいもんじゃねえだろ?コレ。俺初めて食った時、危うく昇天しかけたわ!!」
「まあ、確かにすごいよね?」
「・・・なんで平気で食べれるのさ?ナユは勿論のこと、カイリ、あんたまで・・・」
ルックが聞いた。
「なんでって。僕は昔から食べてますから、耐性でもついてるんじゃないですか?ある意味お袋の味ですから。」
「うわ、なんか俺、今泣きそうになったぞ!?お袋の味って聞かされて泣きそうになったのはコレが初めてだ。」
テッドが言った。
ちなみにこの中で本当にお袋の味を知っている者はいない。
おつきの者、育ての者はいても、母を知る者はいない。
「俺は、うーん、何でかな?別に平気だよ?不思議な味だけどね?」
料理の量が多い為、カイリも手伝って食べ続けていた。
テッドが言った。
「あんこの食いすぎで舌がおかしくなってんじゃねえの?」
「えー?俺の舌、なにかおかしかったかい?」
「なっ、ばっ・・・あ、後だな、群島時代、こいつらって何でも食ってたからな。船での生活が長かったからか知んねえけどよ。殺った化物みたいな敵ですら、まず食えるかどうか検討し、次に何らかの素材にと、余すことなく利用していたぞ?」
「・・・今の話もたいがいですけど・・・」
「なんかヘンな事、その前に・・・」
ナユとルックが顔を合わせながらボソボソと言っている。
横ではリオがふふっと笑っている。
テッドは顔をそらしているが、カイリは何も変わらず、そのまま平気な顔でナナミ料理を食べ続けていた。
ふと何か思い出したようにテッドが言った。
「・・・そーいやさ、まんじゅう屋のアレ、名前なんてったけ女。カイリ?ああ、そう。パムね。パムって女のまんじゅう屋やってる仲間がいたんだけどさ、パーティ組んで出かけてよ、んでクールーク兵とかの敵に会うだろ?まあ殺るわな?そん時にさ、パム連れてるとよォ、なぜかクールーク兵倒した後にまんじゅう、作ってくれたんだよな・・・それも肉まんな・・・。」
ナユとルックが青い顔になる。
「ちょ、何の話?怪談か何かかい?」
「ほんとの話なんですか!?」
「おお。だから俺はさ、外ではまんじゅう食うのも貰うのも断固拒否してたな・・・」
遠い目でテッドが言った。
「そういや、君、そうだったね?どうしてだい?」
「は!?当たり前だろ!?そんな、何の肉か分からねえ代物、食える訳ーっつーか、お前ら皆、普通に食ってたよな・・・」
「パムの作ってくれるまんじゅうはいつもおいしかったよ?・・・例え何かの肉でもね?」
怖い!!
ナユとルックはひっしと抱き合った。
チロッとリオはそれを見たが何もせず、テッドに言った。
「まあ、確かにカイリならナナミ料理ですら、問題ないよね?」
「ああ、考えるまでもねえよな・・・。」
また少し青くなってテッドが答えた。