リオ・ナユ
口吸
「あれ?カイリさん?こんな夜分にどうしたんです?・・・しかもなんか妙なもん、おぶってますね・・・?」
ドアを開けたら、ノックの相手はカイリだった。
それもなぜかリオを背負っている。
ありえない。
あのリオが、人の背中で眠っている・・・。
ナユは唖然とした。
その間にカイリは部屋に入り、歩きながら言った。
「やあ、ごめんね?ちょっと失礼するよ?」
そう言ってリオをナユのベッドに横たえた。
「ちょ、何なんですか!?だいたい殺戮魔なら、ちゃんと本人の部屋があるでしょうが。」
「それが部屋に鍵がかかっててね?そんでその鍵もどこに隠してんだか分からなくってねー?じっくり探してもいいんだけど、さすがに本人の許可なく体弄るってのも、ねえ?」
「・・・。ってゆーか、どうしたんです、この人。ちょっとありえないんですけど。」
「ふふ・・・。ちょっとテッドとね、リオが酒に酔うコト、あるのかなーって話してたことあったんだけどね?で、つい、こっそりリオが飲んでる酒に、俺の作ったハーブ粉末混ぜてみたんだよねー?そしたらいきなり眠り出しちゃって・・・。」
「あなたって人はー!?・・・で?何のハーブなんです!?」
一度ハーブの被害に遭っているナユは青くなりながらリオを見た。
「えー?テンションが上がってMPも1つ戻るっていうハイテンハーブのつもりだったんだけどね?テンション上がるどころか眠っちゃったし、俺間違えたかな?」
「・・・・・。」
「でもリオって眠ってる姿、なんか天使みたいじゃないかい?せっかくだし自分の部屋に持って帰ろうとしたらテッドに止められてね?で、申し訳ないんだけど、君の所に来たんだよね。まあ、彼もちょくちょく君の所で眠ってる訳だし、問題ないよね?」
「・・・あなたって人はほんとに・・・。」
呆れるナユをよそに、じゃ、とカイリは部屋から出て行った。
ため息をついて、自分もさっきまで横になっていたベッドに戻った。
「・・・確かに、天使みたい・・・。」
眠っているリオはなんの邪気も感じられず、少しだけ幼さの残る美しい顔は天使そのもののように見えた。
ナユがじっとリオの顔を横になりながら見ていると、その瞼がピクッと動いた。
「?」
うっすらと開いていく瞼。
どうやら起きたみたいだ。
でも何だか様子が・・・。
ナユがいぶかしんでいると、不意にリオはナユに覆いかぶさった。
「!?ちょ、ちょっと?」
「やあ、ナユ。」
「!?今、名前・・・?」
「可愛い、よ・・・?」
そう言うとナユに近づき、キスをしてきた。
「!?っんー、んーっ」
退けようとしたが上にのしかかられ、両手をつかまれていて動けない。
そうしているうちにキスがどんどん、深くなった。
口の中をうごめく舌に、ナユは違和感と動揺と、感じた事のない、何か芯が疼くようなもどかしい妙な感覚が入り乱れた。
不意に手が外されたので押しのけようとすると、今度は上に上げられナユの頭上で片手でつかまれてしまい、相変わらず身動きが取れない。
リオのもう片方の手はナユの髪を、頬を、耳を、首元を、肩を、とゆっくりと、徐々に下へと、触れるか触れないかという感じでなでていく。
「んーっ、んー」
リオが口を離した。
「っは・・・っ。っ止めて下さい!!何考えてんですか!?」
「どうして?大丈夫、怖くないよ?」
なんだかいつものリオではない。
ハーブだな・・・。
ナユは思い当たった。
カイリさんのバカっ。
どうしてくれるんですか!?
ナギは水も風も宿していない。
このままではまずい。
手をつかまれたまま、とりあえず説得を試みた。
「ちょ、止めましょう?ね?こ、こんなコト、良くないですよ?」
リオはチュッと口に軽くキスしたかと思うと、今度は耳元に口を近づけ、囁くように言った。
「・・・どうして?良く、なるよ・・・?」
それだけでビクンとしたが、次にリオは首筋に舌を這わしてきた。
「あ・・・、っちょ・・・も、もうホント、止めて、下さい・・・。僕が、嫌なんです!!」
すると間近で見つめてきた。
「ナユは僕が嫌い?どうして嫌なの?」
「う・・・と、とりあえず僕は愛のない行為は嫌なんです!!」
「そう。大丈夫。愛してるから・・・。」
嘘だっーっ。
ヤりたいが為の常套句、もしくはハーブの影響じゃないか。
ああ、どうすれば・・・。
そうこうしている間も、どんどん服が乱されていく。
自分の思考回路もどんどん衰えていくのが分かった。
もう、だめかも・・・?
さようなら・・・清い自分・・・。
半ば投げやりに諦めかけていた時、乱暴なドアのノックが聞こえた。・・・ような気がしただけかも・・・?
「ナユっ、大丈・・・わお・・・。」
やはりノックはほんとにしていたようだ。
鍵はかけていなかったので、テッドとカイリが入ってきた。
テッドが間抜けな声を出した。
それもその筈。
今ベッドでは、怪訝な様子でカイリ達を見ているリオの下で、ナユが大変なコトになっていた。
パジャマの前ははだけ、赤い痣のようなものが上半身のいたるところについている。
顔は赤く虚ろである。
そして、今まさに下に手をかけられようとしていた所だったようである。
「オマエら、何?邪魔しに来たなら・・・」
氷点下の表情、声のリオに怯えつつも、最近宿していた水の紋章をテッドは使った。
「優しさのしずく」
青い光に包まれ、リオの様子が変わっていった。
「う・・・ん・・・。・・・・・・ん・・・?」
正常に戻ったらしく、ふと我に返ったリオは首を傾げ、そして自分の下を、見た。
「・・・。」
乱れた状態のナユがいた。
赤く虚ろな顔で、体の所々が赤くなっている。
自分はそのナユにまたがっている。
ナユもテッドもカイリも、かつてこんなに動揺し困った様子のリオを見た記憶がなかった。
リオはそっとナユの服を合わせて体を隠し、ベッドから降りてテッドとカイリに向いた。
「・・・で?」
「い、いや、俺はカイリがまさかハーブを使ってるとは思わなくって、てっきり珍しくお前が酔って眠ったものかと・・・。さっきカイリに聞いて、慌てて来たんだって。」
「・・・はは・・・ごめんね?リオもナユも。ハーブ、どうも催淫ハーブだったみたいで・・・。お酒に混ぜたから、さすがのリオにもよく効いちゃったみたいだね?」
「裁き」
即答で唱えるリオ。
今回は流石に悪いとでも思ったのか、甘んじてよけることなく魔法をうけ、カイリはぶっ倒れた。テッドは悪ぃな、とそんなカイリを背負って部屋から退散していった。
ナユはリオと2人で部屋に残された。
「・・・ごめん・・・。」
リオが背を向けたまま謝った。ナユは驚いた。ごめん、なんて、あの殺戮魔の口から聞くなんて!?
「いえ、ハーブのせいですし・・・、もう、いいです。」
「・・・そう・・・。」
リオは相変わらず背を向けたまま。
なんでこっちを見ない?
謝るくらいなら、こちらを向いていつものようにバカにするなり、意地悪言うなり、いっそナイフでも投げつけてくるなりすればいいんだ。
そう、謝られるくらいなら、いつものリオのがましだ。