リオ・ナユ
吐露…群島諸国編
どれ位時間が経ったのだろうか。
いい加減やり過ぎ感がある。敵もとうとう出てこなくなった。
「仕方ありませんよ。戻りましょう。」
リオも渋々承知した。
外に出ると辺りは暗くなっていた。でも暗くなっていて良かったと思われる。
2人の様子はあまり見れたものではない。
宿屋に戻ると、人に見つからないようそっと入った。
全身得体の知れない血液やら体液やらにまみれている。
2人は交代でシャワーを浴びて着替え、酒場に行った。
明らかに外見が未成年にしか見えないリオが酒を注文しても、何の問題もなく出てくる。
ここの国は赤ちゃんであっても酒を飲ますのかもしれない・・・ナユは呆れて思った。
ナユは色々と料理を注文した。席に着くとおなかがペコペコだったのでがっつく。
リオは酒と一緒につまみ程度にしか食べない。
「おなか減るという感覚器官がないんですか?」
「人を変な生き物扱い?食べてるだろ?」
「そんな量食べている内に入りませんよ。そんなでよくまあ動き回れますよね。」
「代わりに酒飲んでる。」
「そんなの、エネルギー補給になりません。」
「貴様はいちいちうるさいね?」
「これでも一応心配して言ってるんですけど。」
「へえ。どういう風の吹き回し?」
リオは酒を飲みながら横目でナユを見た。
「どういう意味ですか。僕だって心配くらい、しますけど。」
「ふーん。進歩したものだね?」
確かに出会った頃は、出来れば関わりたくないとまで思っていた。
でも今はー・・・。
ああ、もう考えないで済ませられる段階じゃないんだな・・・。
「えーと、どうも避けられない問題があります。」
「?何?」
ナユは迷った。
どうしようか。
言うべきか。
言わないでおくべきか。
その時カイトについて話すケネスを思い出した。
“今を存分に生きる。”
そうだ、僕はこの先下手すれば・・・、そう、先なんてないかもしれない。
その時後悔だけはしたくない。
どうせ今までだってからかわれ、苛められていた訳だし、言ってしまってもこれ以上悪くはならないんじゃない?
そうだ。言わずに後悔するよりは言って後悔する方が、いい。
「あの・・・」
「おいおい、兄ちゃん達みたいな綺麗な子がたった2人で酒かい?」
「俺達と一緒に飲もうぜえ?」
見るからに頭の悪そうな海賊風の男達5人が、話そうとしていたナユを遮って、リオとナユのテーブルを囲むように立って声を掛けてきた。
明らかに仲良く一緒に酒を飲むのが目的ではなさそうだ。この辺では有名なゴロツキなのだろうか。周りでは困りつつも見ぬふりをしていた。
リオはニッコリ笑って言った。
「へえ。僕の相手をしてくれるの?」
「へっ、話が早ええじゃねえか。じゃ、ちょっと外に出ようぜえ?」
「いいよ。じゃあ、行こうか?」
「おっと、隣のかわいこちゃんも一緒にな、綺麗な兄ちゃん。」
「・・・僕1人じゃ楽しめない?」
「楽しみは多い方が好きでな。」
「いいですよ。僕も喜んで行きます。」
ナユはニッコリと言った。
リオは怪訝そうな顔でナユを見た。
そうして2人はゴロツキに囲まれるようにして店を出た。
ナユはムカついていた。
せっかく思い切って打ち明けようとしていたってのに邪魔しやがって・・・。
でも今は黙ってつれていかれるままにしていた。
「・・・で、こんな路地裏まで連れて来て、欲しいのは何?お金?僕?」
人気のまったくない場所だった。
リオは笑みをうかべて言った。
ゴロツキの1人がニヤッと笑って答えた。
「物分りのいい嬢ちゃんだぜ。勿論どっちもいただくがな。」
そして動こうとしたが、ナユの方が数倍も速かった。
気付けばゴロツキの1人は地面に伏していた。リオまでもがポカンとしている。
「お前達、僕の邪魔をして、ただで済むと思わないで下さいね?・・・命だけは助けてやる。」
そう言うが速いかナユはあっというまに5人を倒していった。
暗闇の中、ナユの瞳だけが黄金色に輝いていた。
最後の1人が倒れたとき、リオが口笛を吹いて言った。
「貴様どうしたって訳?僕以上に欲求不満だったとか?なんか邪魔したとか言ってたね?何珍しく怒ってる訳?」
「・・・後で言います。・・・ここでは・・・。とりあえずこのバカ達は縛っておきましょう。」
そう言いながら近くに落ちていた縄で5人をまとめてぐるぐる巻きに縛りあげた。明日になれば気付いた誰かが通報するだろう。
「貴様のせいで僕が欲求不満だよ。」
宿屋に戻りながらリオが言った。
「・・・。僕で解消してもいい。」
ボソッとナユは呟いた。
リオはよく聞こえなかったのか、首を傾げていた。
部屋に入ると、リオは不潔なバカに触れられたのが気持ち悪い、とまたシャワーを浴びに行った。
そしてバスローブを着て出てきたので、ナユも入りに行く。
そしてドキドキしながら自分もバスローブを羽織る。それは大きかった。
出るとリオは部屋備えつけの酒を飲んでいた。
「・・・ほんと酒飲みですね?」
「さっき飲みそびれた。たいして飲んでなかったからね?」
「別にいいですけど、酔わないようにしてもらえませんか?」
そう言ってリオが座っている向かいに座った。
「僕は酔わないよ?でも何で?」
「・・・僕が今から言う事をキチンと聞いて欲しいからです。」
「そういえばさっきも何かいいかけてたね?ああ、それを邪魔されて怒ってた訳?貴様にしてはえらく短気な事だね?」
リオがニヤッとして言った。
「・・・僕的に一大決心していたもので。」
「?で、何?」
リオがじっとこちらを見てきた。
改めて見つめられて聞かれると挫けそうだ。
いや、でも。
ナユは目を瞑って深呼吸した。
そう、言わないまま自分の生が終わるのだけはゴメンだ。
そして目を開けた。
リオを見る。
リオは怪訝そうな顔をしている。
「・・・残念な事に・・・、僕は貴方が好きです。」
「・・・は・・・?」
まったく予想だにしなかった事を言われ、リオはポカンとしている。
「うみとソラの事ではありませんよ。ああ、そうだったならどんなに良かったか・・・。実際に僕は貴方の事が頭から離れてくれないんです。考えないようにずっとしてきましたが、もうだめみたいです。」
ポカンと口を開けていたリオが怪訝な様子で言った。
「・・・こんなこの世の終わりみたいな告白は初めて聞いた・・・。貴様、ふざけてるの?」
「ふざけてこんな残念な事言いません。僕だって信じたくない。・・・でも、もう遅い・・・。好きになってしまったものはしょうがありません。とりあえず伝えたかっただけです。別に貴方にどうこうしろと言っている訳ではありません。でも・・・」
「でも?」
「いっそヤッてもらったら僕も更に吹っ切れると思うんです。」
リオが飲んでいたワインを盛大に吹き出す、という珍しい反応を見せる。