リオ・ナユ
「な・・・。貴様、熱でもあるんじゃない?」
「ありませんよ。僕だってそうかと思ったりもしましたが、いたって正常です。だからこそ、いっそ思い切り吹っ切れたいなと。あ、安心して下さい。確かに僕はよく遊びで出来ないとか言ってましたが、僕の気持ち上遊びでないだけでもいいんです。・・・そりゃあ相思相愛がベストですが・・・。とりあえず貴方が責任とか負担とか重く感じる必要はありません。」
ナユは淡々と言った。
リオはため息をついて言った。
「赤くなって動揺しない貴様はおもしろくないね?だいたい僕が貴様に何かする事に対して、いちいち負担やら責任やらを感じる訳ないよ?」
はっきり言われてナユは顔を伏せ、そのまま話した。
「・・・そりゃ、そうですよね?貴方は僕をからかって遊んでいるだけだから、反応がないとおもしろくないだろうし、責任やら関係ないだろうし、僕に対して気遣う必要もないですし・・・。」
「・・・?」
リオはナユの前髪をつかんで顔を上げさせた。
悲壮な顔つきのナユは目を逸らせた。
「貴様はまたまぬけな顔してるよ?何泣きそうな顔してる訳?・・・さっきの口ぶりからしたら、勝手に判断して、勝手に思い込んでるんだろ?まあ、どうとろうが僕は構わないけど。ある意味確かに気遣う必要ないからね?」
「・・・。」
「始めから貴様の意思なんて関係なく、貴様は僕のものなんだよ。自分のものに対して重みなんて感じる筈、ないだろ?」
悪魔の笑みでリオは言い、ナユの前髪をつかんだまま上を向かせ、キスをした。
ナユはされながら目を見開いた。
・・・さすが傍若無人、唯我独尊な人だけある。
自分がどう思おうがすでにリオの所有物だったとは・・・。
ここ、怒るところだよね?
なのに怒りは湧かない。
僕のものと言われた瞬間体が喜びに震えた。
・・・情けない・・・。
でも仕方ない。
好きなのだから。
リオがどういうつもりで自分を彼のものだと言ったのかは明確ではないけれども、少なくとも拒否されてはいない。
それだけで幸せを感じるなんて、自分も安いもんだなと、ふと思い、そのまま思考は停止した。
何も、考えられなくなる。
あんなに考えたくなくとも頭はいつも一杯だったのに、今この時点でナユは唇を貪られるがままで、何も考えられなくなった。
暫く後、不意にリオはまたナユの前髪をひき、口を離した。ナユは力が抜けてトロンとしていた。
「ここまでだよ。」
思考停止していたナユは暫く何を言っているのか理解出来なかった。
だんだん言葉が脳に浸透していき、ようやく理解した。
「・・・なぜです・・・?していいと言っているのに・・・?」
「据え膳だね?遠慮なく戻ったらいただくよ?」
ニヤッとリオは笑って言った。
・・・戻ったら・・・?
ああ、本来の時代にという事か。なぜわざわざ・・・?
「こんな現実とかけ離れた、存在しないような状態でする気はないよ?その代わり戻ったら貴様が泣こうが喚こうがいただこう。」
・・・確かに非現実的な状態だ。
ああ、そして確かにそう言われれば、そんな存在しない空間での行為が初体験なんてなんだか・・・という気がする。
・・・まさかリオがそんな事にまで気を配っているのか?
どうなんだろう。
でも、そう言ってくれて良かったのは間違いない。
それにしても、戻ったら、自分が泣こうが喚こうが、されるのか・・・。
ここでようやくナユは真っ赤になった。
リオもそれに気付いてニヤッと笑った。
翌日、チェックアウト後、ぶらぶら街中を散策した。
昨夜は結局何もせずに眠った。眠れないかと思ったが、言ってしまってすっきりしたのか、意外にも早々に眠ってしまったようだ。
朝目覚めた時にはすでにリオは起きており、部屋に備え付けのコーヒーを飲んでいた。
一大決心して告白した割りにその後も特に2人の間に変化はなかった。
まあ確かに自分がどう思っていようが既にリオのものなのだし?と自嘲気味に思ってみた。
でも少しにやけてしまい、リオにまた間抜け面とバカにされた。
散策中店ものぞいたが、どのみち買っても元の時代に持って帰る訳にもいかないので何も買わず、ただぶらぶら見ただけだった。
でもー・・・
「これってデートみたいですよね?」
「ふん。バカな事言ってないで、行くよ?」
リオは鼻で笑って言い、ショーウィンドウをのぞいていたナユの手をとり引っ張った。
そして手を持ったまま歩いた。
「・・・。」
非現実的な空間での、非現実的な状況だ・・・。
ナユは思った。
まるで夢のよう。
現実では決してありえない光景。
なんだかふわふわした気分。
“ところで貴様の思うところの初めの段階って、どんなのな訳?”
“・・・えーと、そうですね・・・。まず告白して好き同士になって・・・手ぇつないで・・・どこかに出かけたり、かな・・・?”
“ふふ・・・ガキ・・・”
ふと前に交わした会話が思い出された。
まさか・・・覚えてくれている?
まさか叶えてくれている?
ナユはあまりの嬉しさとせつなさでいっぱいになった。
顔が、目が、熱い。
「・・・。何目に涙溜めてる訳?」
「え、えと、あくびです。あくびしただけです。」
「ふふ・・・。あくび、ね・・・。」
この日のことは、絶対、忘れない。