リオ・ナユ
幽霊船が現れるらしい、そんな噂が流れていた。
「・・・この船こそ、ある意味幽霊船では・・・。」
ナユが呆れて言った。
甲板でカイリと話してから数日、カイリは急に忙しくなったようで会っていない。
でもそれで良かったと思う。
あれは接触しすぎた。
あまり目立たないようにしなければいけないのに。
でも・・・、言わずにはいれなかった。
あの後、部屋に戻るとリオがいた。
てっきりまだ飲んでいると思っていたので驚いた。リオはナユを見るとニヤッと笑って言った。
「やあ、浮気者?」
「?う、わき・・・?って見てたんですか!?」
抱き合っているところを見られてたのか。
いつもなら絶対ナイフか棍でも飛んでくるところだろう。
「ふふ・・・。・・・カイリなら、大丈夫だよ?あいつなら乗り越えられる。まあ、それにかわいい子に励まされたみたいだしね?」
「・・・か、かわいいって・・・。」
ナユは赤くなり、唖然としながらも、リオの見えにくい優しさを感じ、ドキドキしたのを思い出した。
「まあ、確かに船がテレポートってね?・・・多分テッドだね。テッドが乗っていた船の事だよ?そろそろだね。」
リオが言った。
ナユはリオを見た。
そうか・・・。ようやく戻れるという訳だ。
「・・・でも、少し寂しくもありますね、せっかく仲良くなった人達と別れるのは。」
「だったら残れば?」
「・・・。」
そんな噂が流れたある日、カイリと王様のリノが会議室から出てきた。
どうやらその幽霊船が接触してきたらしく、直接乗り込むらしい。
さすが天魁星。
無謀なところは皆同じだ。
しかし王様まで乗り込むとは・・・ナユは少し呆れた。
リオとナユも皆に混じって甲板から様子を見ていた。
洞窟で手に入れたポッチは、世話になったお礼として、部屋に残してきた。
見ると、深くローブを羽織った怪しい者が迎えに来ていた。
その者に先導されてカイリ達は乗り込んでいった。
「・・・あの怪しげなローブの人・・・。」
「ああ、あのバカだね?」
2人はこそっと話していた。
確かまだ今の状態ではテッドはソウルイーターを手放している筈である。
彼らが戻って来た時。
その時が2人が元の時代へ帰る時である。
2人は目立たない場所に移動した。
そっと様子を伺いながらこそこそと話した。
「失敗とかなければいいんですけど・・・。」
「何とかなるんじゃない?」
「相変わらず動じないですね。あなたは。僕は何だか緊張してきましたけど。」
「・・・貴様が緊張しても何も始まらないだろう?」
「それはそうですけど・・・。」
「・・・誰か来る・・・。」
そう言うとリオはいきなりナユにキスしてきた。それも深く。
「!?んんっ?」
「おっと、悪りぃ。お楽しみ中かい。ったく。盛んなら部屋ん中でしろよなー。」
巡回していたのか、男はぶつぶつ言いながらそれでも誰かも確認せず向こうへ行ってしまった。
リオは暫く続けていたが、完全にいなくなったと分かると、ナユを抱いたまま唇を離した。
「・・・おい。今だけならいいけど、テッドが来るまでにはボーっとせずに集中してもらうよ?」
「・・・だったらあんな風にしなくても・・・。」
ナユはトロンとした顔を赤らめた。
その時、カイリ達がどうやら戻って来たらしく、騒がしくなった。
「そろそろだね?」
リオがそう言った瞬間、2人は弾き飛ばされるような感覚がした。あまりの勢いで何も見えない。
ただナユはリオから抱きしめられているのだけは分かった。
とりあえず必死に元の時代に戻る事だけを祈った。
“こっちだ・・・”
誰かの声が聞こえたような気がする。
2人はその音を頼りに前へ進もうとする。
実際は足が地に付いている訳もなく、ただ異空間を漂っているような感じがするだけだが。
何か見えているような、見えていないような、聞こえるような、聞こえないような・・・そんな五感が鈍るような激しい違和感の中、2人は出口を感じた。
ー結局はほんの一瞬だったようだが、なぜか妙に長く感じられた。
そうして、ようやく2人は元の時代へ帰ってきた。