リオ・ナユ
変化
その日も絶好調すぎる叫び声な目ざましが城内に響き渡った。
「な・・・こ・・・っ・・・これ何!?」
妙におなかが空いて、ナユは目が覚めた。横を見ると珍しくリオはいない。
そういえば昨夜からいなかったっけ・・・また無駄に狩りでもしにいってるんだろうな、とつらつらと考えつつ起き上がった。
顔を洗いに行こうとベッドから出ると、なんだか妙に身が軽い。
何かしたっけ?おなかが空いてるからかなとか思いながら鏡を見た。
「・・・。」
目を瞑り、再度開ける。目をこすり、もう一度見る。
そして冒頭の叫び。
起きれば猫耳が生えていました。
「あ、ありえない・・・って本来の耳は!?」
慌てて顔の横に手をやるも、猫耳は上にあるのだから、当然あるべきところには、無い。もちろん手をやらずとも目に見えてはいるのだが、どうしてもそこは人。目を信じたくない。
真っ青になりながら、ふと気付いた。
そういえば・・・たまに触れるこの感触・・・。
そしてそういえば下着がずれている気がする・・・。
そぉ、と後ろを振り返れば見たくなかったものが振り振りとゆれていた。
たてつづけに2度目の目ざまし。
「で?心当たりはないわけ?」
まだ朝早い為人気のない屋上で、むりやり拉致されたルックは白けたような目を向けた。
「あるわけ、ないでしょう?ていうかあるなら事前に回避します。甘んじてこんなもの、僕が受け入れる訳ないでしょう?バカですか?」
さめざめと泣き(真似?)ながら、相変わらず辛辣な毒をはいた。
「・・・もどっていい?」
「すみませんでした。」
ため息をつきつつ、ルックはふとナユの左手に気づいた。
「ちょっと・・・それは何?」
「は?」
ルックに指をさされ、ナユは自分の左手を見た。
「え?ああ、これですか?そういえば昨日ジーンさんがちょっと試したい事があるからって僕の手に何かしてましたが・・・って、え?」
「・・・。ていうかさ、その時点で何か不審だとは思わない訳?」
「・・・。いや、だって割と普段からジーンさんとは紋章の話とかしてるし定期的にチェックもしてくれていて・・・」
おもいっきりルックにバカにしたような顔をして深いため息をつかれた。
「む・・・。ちょっとルック、バカにする前に教えてください。何なんです、これは?」
「いや、ちょっと獣魔の紋章に似てるんだけど・・・でも少し違う。」
「いいです。ジーンさんに直接聞きますから。てことで紋章屋まで移動、お願いします。」
「ちょっと、何で僕がそこまで?」
「ここまで付き合ったんですから、もうちょっとくらい付き合ってくれても罰はあたりませんよ。いいからさっさとして下さい。時間がたてばたつほど人が増えるじゃないですか。」
なんで僕が・・・とつぶやきつつもルックは言うとおりにした。
もう、なんか拒否するのもめんどくさい・・・。
次の瞬間には紋章屋にいた。
幸いお客は誰もいず、カウンターにいるジーンだけであった。
「あら・・・ふふ、いらっしゃい。」
「おはようございます・・・て挨拶してる場合じゃなかった。ジーンさん、昨日、僕になにかしましたよね?これ、何なんです!?」
最初呑気に挨拶していたナユは、ハッとしてから慌てて左手を突き出してジーンに聞いた。
「ああ・・・それね。ちょっと新しく手に入ったものだったから・・・。まあ、可愛いわね・・・。」
「ありがと・・・って違−う。ちょっとルックは何気に帰ろうとしない!!とりあえず僕の(移動の)為にここにいて下さい。」
何気に店から出ようとしたルックの腕をつかみしっかり握りこんでナユが言った。
華奢な可愛い外見からは想像つかない力。
ルックは青い顔のままため息をついた。
「ジーンさん、この耳やしっぽはこの紋章のせいなんですか?これ、何なんです?ていうかはずして下さい。」
「ふふ・・・質問攻めね。そうね・・・この紋章、珍しいもので多分獣魔の紋章の眷属か何かだと思うんだけど・・・。獣魔ならたいていはほぼ獣の姿なのよ。月明かりを浴びると人間に戻るみたいだけど・・・。これは眷属みたいなものだからかしら、姿も中途半端になるのね・・・。」
「「実験!?」」
思わず2人で突っ込む。
「ジーンさん、なんで僕を実験台にするんです?それこそ有象無象たくさんの実験台がいそうなもんじゃないですか?」
「君のそのもの言いはどうかと思うよ・・・。」
「あら・・・。ごめんなさいね・・・。たまたまかしら・・・?最近なぜか探偵の方がうろうろしてたのよ。彼はどうやら諦めたみたいだけど・・・。」
報復かー!?
2人は内心で突っ込んだ。
そう言えば過去に一度行っていた時に彼女を見かけて、気になっていたナユはつい堅ゆで卵のおっさんを使って調べようとしていたんだった。
その堅ゆで卵はその後なぜかおびえて、目安箱で仕事を断ってきたんだっけ?
ジーンも目安箱に、調べても無駄だとやんわり書いてきていたような気はするが・・・まさかこんな目に合うとは。
「ふふ、ナユは可愛いからね、ひどい事は出来ないと思って・・・」
ニッコリとほほえむ彼女。
いや、十分ひどいです。
「ごめんなさい。反省してます。だからこれ、はずして下さいー。」
「そういえばね・・・獣魔の紋章はなぜか紋章師にもはずせないのよ・・・」
「ギャーっ、どうゆう事です!?」
ナユは真っ青になった。横でルックは憐れむような顔でナユを見ている。
「ふふ・・・でもこれは眷属のようなものだから・・・はずせるでしょうけど、ちょっと影響とか色々調べてからしたほうがいいと思うわ・・・。」
なんて物騒なものを気軽につけてくれたんだーっ!!
ナユはくらくらした。
ジーンはとりあえず色々と調べてから連絡するから、それまでは大人しくそれをつけていて、とニッコリ言いきった。
哀れに思ったのか、ルックは何も言わずナユを彼の自室に転移してくれた。
「ルック・・・僕はこんな目にあうほどの事をしたんでしょうか・・・女性って恐ろしい・・・てゆうかジーンさんが怖い。」
青い顔でフラフラとベッドに移動しながらナユはボソリと呟いた。
ルックは、あー・・・としか言いようがなかった。