リオ・ナユ
唖然
軍主が萌えキャラになった。
ちまたではもっぱらの噂です。
「ルック、なんか僕、ものすごく見世物になってる気がするんですが・・・。もうね、めずらしい子パンダ誕生くらいな勢いで。」
「・・・あながち間違ってないよ・・・。」
石板前。
ナユは体育座りで顔を膝にうずめていた。
周りでは遠巻きに人がその様子を見物している。
あからさまに見ると軍主から無体な訓練などを強制させられそうなので、遠巻きにソッと見ているのだが、誰もがほんわかとした目で見物していた。
中には真剣な眼差しで見つめる者もいたが。
この姿が嫌で仕方がないのだが、かといってずっと部屋にひきこもる訳にもいかず(ていうか戦争中である)、慣れるしかない、とばかりに自分にムチうち、このホールにいるのだが、来てそうそう既にめげそうで体育座りになっていた。
すでにナナミやメグ、ニナなどには泣きたいほどかまわれた。
ナナミ大事のナユである。ナナミが満面の笑みで喜んでいるのを見ると嫌で仕方なくてもその場に留まるしかなかった。どのみち逃げたくてもそうはさせてもらえなかったが。
もう引きこもっていたい・・・明日からまた遠征があるって言うのに・・・。
「ナユ、猫ちゃんになったんだって!?」
「て、マジかよ、オイ。」
落ち込んでいるところを、さらにダメージくらいそうな相手がやってきた。
誰もが遠巻きにそっと見物しているなか、恥も見聞もなく堂々とやってくる彼ら。
「わー、何それ、ほんとに生えてるの?すごい似合ってるんだけど。ちょっと抱きしめてもいいかなあ?」
「やめてください。」
同じくほんわかとした目で恥ずかしげもなく言ったカイリに、ナユは一刀両断した。
それでもほんわかしたまま頬まで染めて、カイリはニコニコとナユを見ている。
「そういえば・・・船でもやたら猫いたっけ・・・。上陸する度に捨て猫やら拾ってたよな・・・。チープーとかチャンポとか・・・やたら可愛がってたっけ・・・?」
その横でテッドが生温かい目をカイリに向けた。
「え?そんなの、僕が行った時は見てないですけど・・・?ああ、でもチープーさんにはなんかおくすりとか売られそうになりましたけどね・・・。」
テッドの言葉を聞いて、ナユが顔をあげて言った。
その際にカイリにやっぱり可愛い、と言われつつギュウと抱きしめられ、小さく悲鳴をあげた。
「ああ、多分その後くらいからじゃね?どんどん猫が増えていったんは。トラヴィスってやつなんかは喜んでたけどな。」
「ああ、そうなんですね・・・ってちょっとカイリさん、離して下さいよ・・・」
「えー、だってこんなに可愛いのに?ムリ。」
「ちょ、何がムリなんですかっ。あーもうっ。」
その時不意にナイフが飛んできた。
まったくもって誰にあたるとかの配慮もなくまっすぐにカイリ達めがけてとんでくるそれを、多分こちらには当たらないだろうけどと思いつつも避けるテッドとルック。
カイリもナユを抱きしめたまま難なく避けた。
物騒な気配に押され、見物客たちもいつもの作業に慌ててとりかかる。
「おいリオ。お前なー・・・。もしナユに当たってたらどうすんだよ?」
テッドが呆れたように言った。
「さあ?どうだろうね?ていうかカイリ。何してる訳?」
ニッコリと笑っているのにちっとも温かみのかけらも感じられない雰囲気のリオが近づいてきた。
「だってナユが可愛すぎるんだよ。」
悪びれる事なくニコニコと、カイリはナユを抱いたまま答える。
ナユはカイリの腕の中で離して、と呟くように言っていた。
「何それ。いい加減離せば?」
リオはカイリのところまでくると、訳が分からん、といった感じでナユをひったくった。
ナユはとりあえず助かった、とホッとした。
「・・・。」
と、リオの反応がない。
そういえば自分は猫の化け物だった、とふと気付いたが、いつもならそんなナユを見れば絶対に速攻でからかってきそうなリオだが?と俯いていた顔をあげてみた。