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神に誓って愛します

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 もう一度ありがとうとお礼を言っておすそ分けしてもらったペットボトルを返却すると、浜田君はそのままボトルにキャップを閉める。その動作をみつめながらついうっかり、ぽつりと心に浮かんだ疑問を口から漏らした。
 
「私、悩んでるように見える?」
 
 浜田君はキャップを閉める手を止めて驚いたような表情でこちらを見ると少し気まずげに笑う。それから、あっていた視線を少し逸らして宙を見てからもう一度私へと視線を合わせると、気まずげだった笑みとはまた別などこか苦笑めいた笑みを浮かべた。
「うーん、正直なことを言えば…少し、かな?」
「変だった?」
「うーん…そうだな。それもちょっとだけ、かな」
「そっか」
 そこで黙り込んだせいか会話が続かず、浜田君も気を使ってくれてか特にそれ以上話を振ってくることもなく。さわさわと葉の擦る音と虫の音だけがあたりに流れている。時折、学生が話をする声が聞こえるもすぐにその音はどこか遠くへと消え、また静寂がこのあたりへと満ちた。
 
 どれぐらいたっただろう。その間に浜田君はペットボトルの炭酸を飲みきっていたし、空はだんだんと茜色に染まっている。バイトの時間まで、と言っていたが大丈夫なのだろうか。ふと気になって隣へと視線を向けて見ると、どうやら彼も気になったのか携帯を取り出して時間の確認をしようとしていたところだった。
「時間、大丈夫?」
「うーん、そろそろいかねーと」
「そっか」
 口に出して聞くと少し困ったような表情で答えが返ってきたので、なんと言っていいのかわからず軽く相槌を打つ。浜田君はそのことに対して別に何も思わなかったのか、窮屈そうにたたんでいた体を持ち上げて立ち上がると、一つ大きな伸びをしてから私に向き直り別れを告げた。
 
「それじゃ、遠野。お邪魔しましたってなんかおかしいな、ハハッ」
 おどけたようにそういう浜田君の様子に少しチクリと胸を痛め、眉を寄せる。すると訝しげな様子でこちらを見つめ返され、慌てて笑みを作った。
「ありがとって、ここでいうのもなんかおかしいかな?」
 そう言うと浜田君はすぐさま笑みを向けて、おかしくないよと返してくれる。気をつけてね、とかそっちも気をつけて帰れよ、とか。他愛のない会話をしてから手を振ると浜田君は私に背を向けて歩き出す。しかし数歩歩いたところで浜田君は立ち止まると、くるりとこちらを向いたので私はびっくりして目を見張った。
 
「遠野、あんまり無理しねーで考え事もほどほどに」
 少し離れているためか、先程会話してた時の声よりもやや大きめの声で投げかけてくる優しさ。うん、と相槌を返すと更に新しい言葉が紡がれ。
 
「泉も心配するし」
 
 その発せられた言葉にうまく隠していた痛みがぶり返す。じくじくとする痛みに涙がこぼれそうになるも、彼は私を心配してくれてて、そして気を使ってくれている。
 そのありがたさを思い、今の自分の精一杯の笑みを向けてうん、と相槌を打つ。
「大丈夫!ありがと!バイト頑張ってね」
「おー程ほどに頑張るよ」
 うまく笑みを返せたのか、はたまた気を使ってくれたのか。手を振って立ち去る浜田君の背中を眺めながら私はチクチクと痛む、この気持ちをどうすればいいのだろうと、どうすれば消えてなくなるのだろうかと鈍る頭で思いあぐねた。
 
 
「昨日スッゲー楽しかったな!」
 教室中に響き渡るかのような声だった。
発生源は案の定、田島悠一郎である。いつものように田島君の側には三橋君と浜田君と、泉がいる。彼らは机の上にパンを並べ、どうやらいつものように少し早い食事にありついているらしかった。私は少し離れた席で机に頬杖をつきながら、次の数学であたるだろう所を前もって計算しておこうと教科書を開いているが、耳に飛び込んできた言葉が邪魔をしてさっきからまったく数式が頭に入らなかった。うっすらと映る視界の端で、彼らは楽しそうに笑いはしゃいでいる。まんざらでも無さそうな泉の表情を見ると微笑ましくなる反面、チクリと心が痛んだ。泉が楽しそうなのに素直に喜べない自分にまたチクリと痛みが広がる。ああ、やだな。こんなのばっか。そう思いため息を一つ吐き出した。
「泉もスゲーいい点出したよな!」
「う、うんっ!す、ごかっ、たっ!」
 不意に飛び込んできた言葉が私の頭を真っ白にした。
私はてっきり、田島君が、昨日あった話を泉に、報告してるんだと思ってた、のに。
思わず振り返り泉へと視線を向ける。「フツーだろ」なんて言って笑う泉とは視線が合わない。すぐさま私は視線を逸らし、目の前に広げた教科書をきつく見つめた。チクリ、チクリ、痛みが胸をさいなむ。
 ドクドクという鼓動がまるで耳元で鳴らされているかのように煩く、世界がぐるぐると回っているかのように視界が歪んだ。
 
(落ち着け、落ち着け…私)
 
 気を抜くと荒げそうになる息を整えながら、机の上でぎゅっとこぶしをつくる。余計なことは考えるな。今はただ次の時間にあたる、この問題の事だけ考えろ。落ち着け、落ち着け、落ち着け。
 まるで念仏を唱えるかのように、何度も言葉を繰り返す。
 その甲斐あってかはわからないが、休み時間が終わり先生が来る頃にはそれなりに平素のようにみえる自分を取り戻していたと思う。予想通り当てられた問題も難なく答え、授業中に回ってきた他愛のない友人とのメモのやり取りも日ごろと同じように返せたはずだ。
 
 授業が終わって休憩時間にはもう、いつもの自分の出来上がり。ああ、なんだ。案外となんとかなるもんなんだ。昨日、望みすぎちゃいけないと思ったばっかりじゃないか。つけあがってるからこんな痛みを覚えるんだ。そうだ、忘れてしまえばいい。どうせ、仲のいい友達と恋人の境は曖昧なんだから。この痛みがあふれ出して、止まらなくなって、泉を傷つけてしまわないように。
数学の教科書へ視線を落とす。ページの右上に皴がよっていて、力を込めてしまったことが見て取れた。皴を伸ばすように指の腹でなぞりながら考える。
 
そう、こういう風に泉を傷つけないように、蓋をしてしまおう。
 
 ゆっくりとした動作で教科書を閉じる。一息細く、長く、口から吐き出してから小さく笑った。数学の教科書とノートを重ねると机の中にしまいこんで、横に下げた鞄からキャンディを5つ程取り出すと泉達のいる席へと向かう。
大丈夫、蓋をしたんだから。
 足早になりそうになるのをぐっと堪えながら、緩慢な動作で四人に近づくとまずは浜田君へと視線を向けて、昨日のお礼を伝えた。 
「浜田君、昨日はありがとね」
「こっちこそ、サンキュなー」
「……何?」
 すると泉は浜田君を見てから私に向き直って問いかけてくる。私はもちろん昔のように緩く笑って軽口を叩いた。
「公園で散歩してたらジュース奢ってもらったの。羨ましいでしょ?」
「イイなー!」
「そっちも昨日遊びにいったんでしょ?」
 田島君が反応してくれたのでそう切り返すと、チョー楽しかった!って満足そうに田島君が笑う。
「ならイイじゃん!ねー、三橋君」
「う、うん!」
作品名:神に誓って愛します 作家名:ank