神に誓って愛します
うるさい、うるさい、うるさい。なんでそんな事聞くの?泉の彼女って立場はそんなに大変なものなの?自分をずっと押さえ込まないとだめなものなの?好きだからなんでも許される訳じゃないってわかってるよ。自分が増長してるのもわかってるよ。わかってるから我慢してるんじゃない。
噛みしめた唇から少し鉄の味が口内へと広がって、携帯のディスプレイを見ていた視界がぼんやりとにじんだ。雫が頬を伝い、私の顔から離れてディスプレイへと落ちる。ぼたぼた、と数度涙が零れ落ち送信ボタンへと添えていた指を無理やり切断ボタンへと移動させると、作成していたメールを削除した。
ふと気づくと記憶の中でこちらを見ていた浜田君はいつの間にか消えていて、今度は泉がそこに立っていた。泉は私をどこか気だるげに見つめて、少し目を細めると唇を開く。
――用事なら、しゃーねーだろ。
ヒッと喉を鳴らして私は携帯を取り落とす。ゴン、という鈍い音がして慌てて携帯を拾い上げディスプレイを覗き込み、そして切断ボタンを長押しして携帯の電源を落とし机の上へと投げ置いた。
そのままベットへと潜り込むと、膝を抱えて小さくまるくなる。このまま消えてなくなればいいのに。こんな最低な自分なんてどっか行ってしまえばいいのに。そう何度も思い涙する。ごめん、ごめんなさい、何度となく口の中で繰り返して謝って、抱きかかえた足が軋むのも、布団が涙で濡れるのも気にせず、ただずっと自分を責めていた。
どれぐらい時間がたったのだろうか。瞼は重く顔中がヒリヒリしていて、少しでも頭を動かすと激しい頭痛に襲われた。鼻がつまっているのか、ズッと啜ってみるもジンとした鈍い痺れが鼻と口の周りにあって、思うように息が吸い込めない。口から浅く呼吸を繰り返しながら手探りでティッシュを探すも近場にはないらしく、しぶしぶ痛む頭を押さえながら起き上がった。奥の棚に置かれたティッシュケースを確認するとふらつく足取りでとりにいく。三枚ティッシュを引っ張り出すと、乙女の恥じらいなんてかなぐり捨ててチーンと鼻をかんだ。それでもまだかみ足らずもう一回ティッシュを引っ張り出しかみ直すとようやく人心地がついたので、丸めたティッシュをゴミ箱へと投げ入れてティッシュケースを持ちながらベットへと戻る。ベットの脇にティッシュケースを置いてから、またベットへと潜り込んだ。今日は寝てすごそう、何も考えず。そう思い目を瞑る。
しばらくして様子を実に来た母親にしんどいから寝とくという旨を伝え、日付が変わるまでトイレなど、生理的現象なこと以外はずっとベットにこもって過ごした。
翌朝、部屋の扉を叩く音がして目が覚めたが返事をしようとしても声がでなかった。泣き過ぎたせいなのか、はたまた別に何か原因があるのかはわからないが、声が掠れてうまく言葉が発せられない。母親の入るわよという声とともに開かれた扉へと視線だけを向け、出来る限りの声を出してお母さんと呼んだ。母親はしかめ面でこちらへと近寄ると額へと手を置いて、私の目を覗き込んで具合が悪いの?と聞いてくる。首を少し引いて頷くと、少し熱があるわねと呟いた母親は今日はお休みする?と再び問いを投げかけてきて、私はもう一度頷いた。
学校に電話をしてくるわね、といって立ち去る姿を視線だけで見送る。昨日から続く頭痛は鋭さを増していて、目を開けているとぐらぐらと視界が回った。チラっとだけ机に視線を向けるが、気持ち悪さに耐え切れず瞼を閉じる。
しばらくして母親がご飯は食べれそう?と聞きにきたらしいが、私はその時には深く眠りについていて知るよしもなかった。
結局私はろくに起き上がることもなく、またベットの上で一日を過ごした。ふとした時に涙が流れ丸くなっては、気がついたら寝ているというくりかえし。それは次の日になっても同じで、母親に今日もまた学校に休みの連絡を入れてもらった。
夜、目が覚めて痛む頭をどうにか持ち上げながら、勉強机へと近づく。転がった携帯を手に取るとそのままベットへと這いずる様に戻って布団の中に潜り込んだ。電源ボタンへとかけた親指は震え、逆の親指をつかって上から長押しする。起動音が静かな部屋に響いた。
メールが一通着信している。ドクドクと煩くなる鼓動に急かされるように、一つ生唾を飲み込むとメールボタンを押した。
受信BOX 11/30 泉孝介 件名 re:
目に飛び込んできたのは泉の名前で。瞬間、携帯を閉じるとベットの上から床へ投げ捨てた。座布団の上に落ちた携帯電話に背を向けて上布団を頭までかぶって丸くなる。
怖い。見たくない。怒ってるのだろうか?呆れられているのだろうか?色々な考えが頭に浮かぶ。もし、泉に嫌われたら、私はどうしていいのだろうか?いや、もう既に嫌われるようなことはしてる。どうすればいい?どうしたらいい?わからない。ぎゅっと目を瞑る。寝よう、そうだ寝よう。昨日や今日みたいに寝よう。
次の日も私は学校を休んだ。
流石に父親も心配らしく、様子を見に来てくれた時に明日は学校へ行きますと約束する事になった。考えて見れば今日で三日も学校を休ませてもらっている。微熱はあるものの、学校を休む必要があるとはいえない位の体温で、本当にごめんなさいと両親に謝った。母親はそんな事もあるわねって言ってくれてそれで家族会議は終了したわけだが、私はまだ正直なところ戸惑っていた。
私はどうしたいんだろう。冷静に考えようとするも、すぐさま不安要素が頭を占めて涙がこぼれそうになる。そろそろ涙が枯れてもおかしくないな、なんて考え直して私は座っていたベットの脇から腰を上げ、昨日投げ捨てた携帯を探した。拾い上げて見るとまたメールが一通届いていて、煩くなった鼓動に深呼吸をしてメールボタンを押す。
受信BOX 12/01 泉孝介 件名 大丈夫か?
想像していたとはいえ、泉の名前に一層鼓動が高鳴った。ずっと泣きはらしていた所為か昨日のような衝動的に携帯を投げ捨てるという事にはならなかったけれど、昨日と同じ怖いという気持ちは私の中に渦巻いている。しかし親と約束した手前、明日は学校に行かねばならないのだ。教室で会って気まずい雰囲気になるよりも、今どうにかしてこのメールへと応える方がいいのだと、私の中の冷静な部分がそういっていた。
おそるおそるメールを開いてみる。そこには短い文章ながらもすごく彼らしい優しい言葉がつづられていて、私は久しぶりに感じた泉の暖かさに小さく微笑んだ。
泉を思えば今だ苦しくなるし、不安もある。好きだという気持ちに偽りはない。それに耐える私のゆとりは削られて、現状から逃げ出したくなった。…そういう事なんだろうとおもう。 ここ数日泣いて寝込んで泉から離れて、ようやく導き出した答え。でも逃げても逃げても苦しさからは離れられず、一層苦しさは増してどうすればいいかと悩んだ数日。そして結局、泉からのメールを開いてどれだけ泉が好きだったかと気づいた私。このまま寝転がってて泉から逃げても何もかわらない。自分に立ち向かわなきゃ。