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月がみてる

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あ〜でも帰ってこないと困るし…。公私混同は今更で言うだけむなしい。
転職しようかしら…。腕組んで考えこんでしまう。


「期限は何時まで?」
「…一週間ですね。それ以上帰ってこない時はもうご自分の意思で戻らないものとして動きます。」
「その場合でも俺は一度戻るよ。」

「そうして下さると助かります。」
腕にを触れて「そんなに心配しなくても大丈夫だ。」と言う
目を見ると落ち着いた澄んだ眼をしている。自分もすっと落ち着くのを感じる。
「そうですね。」


「聞いても良いですか?」
目で促される。
「大佐の事をどうお思いなのです?」

目を見開いてからあらぬ方向を見ている。
「本人にも聞かれて無い事を…。」
眉間に皺を寄せて

「う〜ん…。一年以上一緒に居るからそれなりに情はあるけど…。やつはロマンチストだから煮詰まって逃げたんだよ。」
「苛めるからですよ。たまにはやさしくしてあげてください。」
「優しくすると付け上がるんだよな…。」

思わず睨んでしまう。
苦笑いして「連れて帰ってくるから…。」
「宜しくお願いします。」


「綺麗な月だ…。」
ポーチに座って溜息ついている。溜息つきたいのはこっちだ。

「好い加減帰ってくれませんか。もう3日ですよ。」
「迎えがこないと帰らない。」
「アムロはここにはきません。何処かの誰かさんみたいにまた連邦軍籍手に入れるような真似はしません。」

そう連邦軍籍手に入れて堂々と人の家に来るとは驚いた。
「大体愚痴言いに来たんですか?わざわざ。」
「言う相手が居ない…。」
そりゃそうだろう。

「愚痴言うぐらいなら今からでも返してください。」
「それは出来ない。どんな処分が出るかわからない。」
誰の所為だと思っている…。俺だってそんなに忍耐強く無いぞ。
一発殴ったがそんなもので気が済むはずが無い。

「惚気だったら聞いてくれたか?」
勘弁してくれ…。そればかりは絶対にいやだ!
「ごめんです!」
一瞬寂しそうな顔をする。

「それは残念…。」
「それより碌に寝て無いようですが。」
「眠れないんだ。」

「今あなたに何かあるとアムロが困る。薬でも何でも飲んで寝てください。」
「ではお酒を…。」
飲みすぎだ。どうも余程煮詰まっているな。ウイスキーをビンごと渡して一人にしておいた。
誰でも良いから向かいに来てくれ。暫くしてミライが毛布を持って行った。俺も飲みたい。


ぼーっと月を見ていたらブライト夫人に話しかけられる。
「寒くありません?中に入りませんか?」
「気持ち良いくらいです。ありがとう。」

隣の椅子に毛布をおいて首をかしげて
「まだ顎腫れていますね。」
手からコップを取り上げられる。溜息ついて諦める。

またぼ〜つと月を見てしまう。
「何が見えます?」
「アムロが月に来てないかなと思って。」
「わかるんですか?」

「さすがにこれだけ離れていると駄目です。」
柔らかい表情で
「アムロはあなたのこと好きですよ。」

「…嫌われてはいないのはわかっています。わたしが多くを望み過ぎるんでしょう…。」
「それが悪いことだとは思いません。それに見合う努力をするなら。アムロは元気ですか?」

「元気だと思いますが…一日中仕事のことばかり言っています。」
ベッドの中でも仕事の話になるのは何故なんだろう…。

「食事はきちんと取っています?」
「目を離すとすぐ抜きますね。仕事に夢中になっていると寝ないですし。朝も一人じゃ起きられないし。」
「そうですか。変わらない…。困ったものですけど。」
にこにこして聞いてくれる。

「がみがみ言うもので人の事説教親父とか言っていますよ。」
ころころ笑われてしまった。

「言わせるほうが悪いと思いませんか?」
「それだけリラックスしているんでしょう。少し安心しました。」
風邪ひかないようにと中に入った。またつい月を見てしまう。今頃どうしてるんだろう。


時間まちでコーヒータイム。やっと降りられる。結構手間かかったなあ。
取りあえずブライト家の側まで行ってみよう。遠くからでも見たいし。
カイさんが一足先にいつててくれる手はずだ。

髪を染めてだいぶたつから自分は慣れたけど思い切りまじまじ見られた。赤毛じゃないのが余程珍しいらしい。
そんなに似合わないかなあ。シャアなんか最初泣いてたし。
あいつ今頃何やってんだろ。ブライトに迷惑かけてなきゃ良いんだけど。


空港に着くとカイさんが待っててくれた。霧が出てきだした。
天候で離発着の予定が乱れるとのアナウンスがはいり展望室の片隅でコーヒー片手に情報交換。

「さっきブライトに電話したら今朝までいたが手紙が来て急いで出て行ったとさ。」
「さすがに早いな。ブライト何か言ってた?」
「うちには二度と来ないよう言っておいてくれと。今度来たら殴るぐらいじゃすまない。
ほとんど寝てないようだったがあんまり苛めるなよ。ともかく疲れたとさ。」
ほとんど寝てない?


「それで。どうするんだ?」
「う〜ん。鬼ごっこする元気ないから、来るかこないかここで待つよ。ホテルもあるし。
ブライトにはまた機会があったら会いに行くから。」

「やつは来るか?」
「正直わからない。嫌になって投げ出しても不思議は無い。面倒な状態なのに変わりないし。」

「やつが逃げたのならお前も戻る必要ないだろう。」
「いや。帰ると約束してる。」

「馬鹿なことを言うな。殺されるぞ。」
「俺にも責任あることだし…。いざとなったらMSで逃げるさ。ここ一年触って無いけどどうにかなるだろう。」

「一年も触って無いつて?」
「やつが嫌がるんで。」

「お前が?良く我慢しているな…。」
「八つ当たりは当然してるよ。」 

「それは怖いな。考えたく無いぞ。」
「考えなくて良いから。」
につこり笑う。

じっと凝視してると思ったら
「なるほど。ブライトの言うとおり笑顔張り付かせたら怖いな。大人になったんだな…。」
「褒めてないよ。」
ブライトも余計な事を。


…視線を感じる?何処だ?眼を瞑って気配を探す。外か?下を見ると車から出てきたやつと目が合った。
身振りで降りてこいと言ってる…。
つかの間にらみ合うが、仕方ない。

「じゃ。行くわ。ブライトにそのうち会いに行くからと伝えておいて。」
心なし青い顔してうなずいている。

「なに?おれそんなに殺気立ってた?」
「怖すぎる。」

苦笑いして
「悪い。今日は助かったよ。」
「ああ、またな。」


促されるまま助手席に座る。
「早かったな。」
「それはこっちのセリフ。」
「行くぞ。」
「何処に?」

「落ちつける場所。」
「その前に顔見せて。」
ああ、少し腫れてるな。ブライトには顔殴らないよう言っておかなきゃ。

「寝て無いんだって?」
「そうでもない…。」
サングラスを取り上げる。じぃ〜。

「目が充血してる。」
本当にあんまり寝て無いな。
「運転はおれがするよ。」

「いや。すぐそこだから。」
すぐそこなのに車で来たのか
「わかった。」


もう好い加減ふてて眼を瞑ってたら
「アムロ。着いたぞ。」
と起こされる。寒。
「あなたの”すぐそこ”を信じたのが間違いだ。」
作品名:月がみてる 作家名:ぼの