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【黒の皇子 黒の神子】(中編小説/未完)

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「悪逆皇帝の支配から世界が解放されたのは、とっても嬉しいことですよね」
 にっこりと、口の形だけで笑う彼女の姿は、どこか恐ろしいものを感じさせた。
「そこにほら、私とゼロ様の婚儀が加われば、何より喜ばしい知らせになると思いません?」
 そう、本当に心から素晴らしいことと思っているのだというように告げた彼女に、慌てたのはスザクだけではなかった。
「神楽耶様!?」
「何を言っているのです! 彼は……っ」
 上がる声を見事なまでに黙殺し、神楽耶は【ゼロ】に向かって一歩踏み出した。そこに何かを感じ、逃れるようにスザクも一歩後ずさる。
「神楽耶、様。何を言っているか」
「分かっています。それで、婚儀は何時にいたしましょう」
 自分の言葉を理解しているのかと問うスザクに、彼女はあっさりと答えてみせた。そのことに皆はますます混乱するが、彼女はただ彼に肯定の答えを促す。
「婚儀など必要ないと……」
 どうするべきか分からず、スザクは困惑する。
 その目の前で神楽耶はそっと己の腹に触れると、初めて心からの笑みを見せた。

 そうして、彼女は爆弾を投下する。

「必要に決まっていますわ。私、未婚の母になる気などありませんもの」
「な……っ」
 思いもしない言葉に、神楽耶以外の者は皆絶句する。集まる視線に、神楽耶はどこか恥ずかしそうに微笑んだ。仄かに染まった頬が愛らしいが、誰もそんなことを気にしてはいられなかった。
「まだ三ヶ月ですからあまり目立ちませんが、これからどんどん大きくなっていきますわ。あまり目立つ前に婚儀を執り行って、それからはゆっくりさせていただくのが一番だと思いますの。ゼロ様もそう思いますでしょう?」
 本当に幸せそうに話す神楽耶とは正反対に、スザクは冷たい汗を流していた。
(神楽耶が、妊娠!? どういうことだよ)
 同じキョウト六家に属し、幼い頃からよく知る従妹の爆弾発言に、彼は頭を抱えた。
 親友を『殺し』、自分の存在を『殺し』て、一番の敵だった者の立場を継ぐ。彼自身が了承したこととはいえ、今日は彼にとって最悪の日だった。それだけでも気が狂いそうなのに、従妹が妊娠していて自分と結婚するなどと言うのだから。
けれど、彼女が嘘を吐いていないことは分かる。だからこそ余計に……。
 混乱する思考に眩暈を起こしながらも、彼は何とか倒れることなく踏ん張った。
「子供って……誰の」
「あらカレンさんったら、ゼロ様と私の子供に決まってますわ」
 信じられないやり取りに思わず呟いた紅い髪の少女。彼女に微笑み掛け、神楽耶はさらりと話し出す。
「私、やはり夫と定めた方との間に子供が欲しかったんです。だからゼロ様の優しさにつけこんでしまいましたのよ」
 彼女を注視する者たちの存在など知らぬかのように、本当に嬉しそうに神楽耶は語る。
「彼は優しいから、私のことを拒みませんでしたわ。はしたなくも、子種が欲しいと強請って押し倒してしまった私を、ちゃんと抱いてくださいましたのよ」

 彼女の望むままに、彼らは何度も肌を重ねた。本当に良いのか、と問うルルーシュの悲しい瞳にどれだけの想いを抱いただろう。

『こうしていると、まるで普通の恋人同士のようですわね』
 いつだったかの情事の後、己よりも更に白いその肌に触れながら零してしまった言葉。
 その言葉に困ったように眉を下げるルルーシュに、彼女は苦笑した。恋人のような甘い関係にはなれないと知っていて、しかもルルーシュは神楽耶個人を愛することはないと知っているのに、こんな女々しいことを口にする己はどうしようもなく愚かだと。
『ごめんなさい。ただの戯言です』
 そう言いながらも、もっと深い関係を望んでいる己を彼女は知っていた。それでも、それを口に出すことなど出来る筈もなくて。
 その想いを誤魔化すように、もう一度……と望んだ神楽耶を抱いたルルーシュの腕は、悲しいくらいに優しくて温かかった。

 神楽耶の言葉の意味を正確に理解し、カレンは息を呑んだ。
 神楽耶は、ゼロがルルーシュであることを知らなかった。彼女がそれを知ったのは、カレンたちが彼を騎士団から追いやってしまった後のこと。つまりそれ以降……ルルーシュが敵として現れた後に、彼らはそういう関係になったのだと。
「貴女は……」
 虜囚となっていた筈の少女が、ルルーシュと肌を重ねていたと言う。まさか彼らの計画を知って、そこに加担していたというのか。そう彼女は神楽耶に問おうとしたが、結局出来なかった。全てを背負った彼を信じられなかった自分に、それを口にする資格などないのだと。
 続けるべき言葉を見付けられずに、カレンは俯いた。そんな彼女を神楽耶はどこか悲しげに見つめ、そして今目の前にいる【ゼロ】へと向き直った。

「そういう……こと」
 仮面の内、スザクは少しの苛立ちと安堵と同情をない交ぜにした感情のままに、溜息を吐いた。何も言わなかったルルーシュや、知っていただろうに何も言ってくれなかった不老不死の魔女に、心の中で苦情を吐きながら。
「そういうことですわ」
 くすくすと微笑む彼の従妹。今の彼女は、スザクが知っていた幼い無邪気な姿とも、世界に語り掛けた国主の姿とも違う“女”の姿をしている。彼にはそんな神楽耶が知らない人間のように見えて、人とは一面だけの存在ではないのだと、今更のように思った。それはかつて、親友だった少年が、彼の知らない憎むべき姿を晒したときにも感じたのと同じ複雑な感情。今はあのときのような爆発するほどの熱は宿していないけれど、それでもすっきりとはしないものがある。
「ですから婚儀をと……宜しいでしょう?」
 これはゼロの子供なのだからと微笑う少女は、誰にも反論を許さない空気を纏っていた。それは彼女の抱く覚悟だろうか。
 そんな彼女に、仕方がないと溜息を吐いてスザクは腹を括り、大人しく頷いた。
 彼女がゼロの妻であることは、既に世界に知られているのだから、彼に拒むことは出来ない。しかし、今更婚儀では順序が全く逆だろうと思いながら、彼は改めて今の己が【ゼロ】なのだという事実を噛み締める。

「それで、君はいつから知っていたんだ?」
「【ゼロ】様、何のことですか?」
 他の人間の耳には入らないようにそっと、ゼロとしてではなくスザクとして彼は尋ねる。それに対して、彼女から返ったのははぐらかすような笑みだけだった。
(別に全てを知っていた訳ではありませんのよ)
 神楽耶もまたルルーシュと共犯関係にあったのだろう。そう納得した様子のスザクに、彼女は心の中で囁いた。
 彼女は【ゼロ】がルルーシュを殺すという計画なんて知らなかったし、ルルーシュは彼女に何も告げなかった。彼はただ、神楽耶を抱いてくれただけだ。
 けれど、再会したばかりのとき。彼女の問いに対して、『この世界から逃れることなんて出来ない』そう漏らしたルルーシュ。そしてお節介な魔女の言葉で、神楽耶はルルーシュの身体に起こっていることや、彼が『死んだ』後に待っていることを察することが出来た。彼がそう遠くない未来に『死ぬ』だろうということも。