宵待奇譚
二
予言をしよう。
三郎が唐突にそう言った。
三郎と名乗るこの旅人が現れてから、もう丸々三日が経とうとしていた。その間、三郎は毎日ふらふらとどこかに出かけては、日が暮れるころに帰ってくる。訪ね人は見つかったのかと問えば、この近くにはいるようなんだがと、言葉の意とは裏腹に妙に自信ありげな笑みをうかべる。
そうして三日が過ぎ、いまだに三郎はどこかに旅立つ様子もなく、当然のような顔でこの寺に居ついている。今日も日暮れ時に帰ってくると、まるで己が屋敷のように寛いだ様子で軒先に座り、暮れかかった空を見上げて唐突に先ほどの言葉を言った。
「予言?」
「そう。予言」
雷蔵のいぶかしげな声をかわすように、三郎は大きな欠伸を一つすると、至極あっさりとした口調でこう言った。
「これからこの国には雨が降らなくなる」
きょとんとする雷蔵に、どこか冷めた目で笑いながら三郎は言う。
「よかったな、晴れ男。これでお役御免だ。そのうちこの国の民は晴れの日を願うどころか、太陽を心底憎むようになるだろう」
「どういうことだ」
不穏な物言いに、少しきつい口調で雷蔵が問いただすと、三郎はくつくつと面白そうに笑った。
「そう怒るな。ただの流れ者の戯言さ」
「冗談がすぎるよ三郎。そんな不吉なこと」
「おおこわいこわい」
三郎は首をすくめながら立ち上がると、雷蔵の視線から逃げるようにひょいと庭に降りた。
「さて、少し出かけてくるよ」
「出かける?」
「人に会いに行ってくる。そのうちまた戻ってくるよ」
「尋ね人は見つかったのか?」
「見つかったと思えば見つかった。見つからないと思えば見つからない」
謎かけのような言葉を残し、三郎はきゅうと目を細めて笑う。そうしてさっと木戸をくぐったかと思うと、次の瞬間にはその場から去っていた。まるでその場からかき消えてしまったかのように。
日は昏れ、夕焼けの空を数羽の鴉がばさばさと大きな音をたてて飛び去った。三郎が去った後に、じめりとした風が吹いて砂を巻き上げる。そのときの雷蔵は、三郎のふざけた予言など、欠片も信じていなかった。
しかし、その予言はやがて現実となる。
ひどい旱魃が国中を襲った。
誰も抗うことなどできなかった。