どうしようもない阿呆だとお互いに認識
「お前ら大丈夫だっ……た、か…………」
鍵がかかっているか確かめる余裕もなく俺は力一杯に三人がいるはずの部屋の扉を開けた、はずだった。
いや、確かに開けたんだが、そこには俺が予想だにしなかった光景が広がっていた。
「あぁ、ドタチン……」
「……よぉ」
「やぁ門田君」
俺が見たのは、廊下で窮屈そうにしながらも判年になって座っている、疲労に満ちた男子高校生たちの姿だった。そしてその三人が急に眼を見開いて、そして一斉に立ち上がった。
俺は思わず一歩、引いた。
「何その怪我、どうしたの?服とかすごいぼろぼろじゃん。絡まれた?」
「ひでぇじゃねぇか……くそっ。まさかてめぇのせいじゃねぇだろうなノミ蟲ぃ?」
「俺はドタチンにはこーいうことはしないよ。ねぇ、新羅?」
「はいはいわかってるよ今取りに、…………」
状況を全くのみこめず立ちつくしている俺を放って三人はそれぞれ勝手に動きだした、と思ったのだがピタリと家主が動きを止めた。
「……あの、さぁ。門田君」
「なんだ」
「大変申し訳ないんだけれども救急セットが入った白い箱があっちの部屋の奥の棚の上にあるからとってきてくれる?」
「てめぇ何怪我人にブツとらせようとしてんだ折るぞ」
「そういうならシズちゃんが持ってきたら?」
「あぁ?なんで」
「さっきの部屋にあるからさ」
臨也の言葉に不満そうにしていた静雄がぴたりと口を閉じ、そして下を向いた。辺りを奇妙な沈黙が包む。
口下手な静雄はまだしも、普段饒舌な他の二人が黙っているのは少々、いや中々気味が悪い。
俺はゆっくりと、三人に話しかけた。
「とりあえず、事は片付いたんだろ?」
「……うん」
「まぁ、な」
「多分」
ぴし、とその場の空間に亀裂が入った気がした。
「てんめえぇええ多分とかいうなよ絶対だろ?!」
「だって俺は関わってないし」
「だから君がやればいいじゃないってさっきからいってるんじゃないか」
「君も同じようなものだろ新羅。それにさぁ、俺は別に君にやれっていってるわけじゃないんだよ。シズちゃんにやれっていってるの」
「 コ ロ ス 」
「俺と新羅が両方向からスプレーで撃退して、最終的にシズちゃんが潰したんじゃないか。……多分」
「だから多分っていうなっていってんだろうが臨也ぁあああ!!」
「だって俺は潰してないしー?それにシズちゃんは蟲退治は苦手なようだからねぇ、どこかのノミ蟲さんしかり。ああ!自分で言って悲しくなってきたよ」
「じゃあ今からテメェもお望み通り潰してやるよ……!」
「ちょっと待てお前ら」
一触即発の雰囲気の二人を引き離し、俺は目をつぶった。
『スプレー』『潰した』『蟲退治』。もう答えは出たようなものだったが、一応、俺は一縷の望みをかけて三人に問うた。
「何が、『いた』んだ?」
「G」
「黒い悪魔」
「ゴ『ピ―――――――』」
ぴしり、と臨也と静雄が一瞬で凍りつく。
「何本名だしてるの新羅しね。それが無理ならそこの死体っぽいのとってきてよ」
「本名じゃなくて正式名称だよ」
「そんな知識いらねぇんだよあああああ新羅テメェアレ潰してきた感触が戻ってきただろうがああああ!!」
「わわわごめんって二人とも!臨也、僕は静雄じゃないからナイフは5ミリ以上刺さるんだよわかってる?静雄、俺は臨也じゃないから上手く逃げられないからねわかってる?!」
「もちろん」
「上等だ」
にやりと悪魔のように二人がわらい、かかか門田君!と残りの一人にこちらを見られたが、俺は座り込むことはなかったものの壁に手をつき、長い、長い、ため息をつくことしかできなかった。
「………おまえら」
「ん?」
「あぁ?」
「なんだい?」
「あんまり、心配かけさせんなよ」
きょろりと目を丸くしてお互いを見る三人を見て、俺は「馬鹿」と小さく呟き、もう一度、大きく大きくため息を吐いた。
作品名:どうしようもない阿呆だとお互いに認識 作家名:草葉恭狸