トッカータとフーガ
「この馬鹿のお陰で暫く仕事いけそうも無いんだ。」
「何事ですか?痴話げんかに巻き込まれたくないんですが?」
「幾らなんでもただの痴話げんかでこんな時間に呼ばないよ。」
ナナイさんに飲み物出しながら
「痴話げんかとは心外だな。きみも人を指差すんじゃない。」
「じゃナナイさんにさっきの話してみろよ。」
「明日も早いのでさくさくお願い致します。」
「きみが呼んだんだからきみがしたまえ。」
言えないと思ってるな…。
「おれに女装させて結婚式上げようって言うんだ。」
目を見開く。
「はあ。」
呆れるよな。普通。
「で?具体的にどのような?」
「具体的な話聞く前に可能だと思う?」
「昨今体格の良い女性が増えていますのでそれほど違和感無いかと思いますが。」
「おれも写真だけなら大丈夫だと思うけど人前に出るとなると話は別。」
「女性らしいしぐさですか…。」
「関わる人が増えるほど洩れるし…。スタイリストやメイクの協力無しで出来ない。
この屋敷でさえ情報もらす者がいるのに信用できる相手を選ぶだけでも大変だ。実現性はどの位あると思う?」
「大尉がやる気なら人選はお任せください。やりますか?」
「正直やりたくないけど。客観的に女性に見せられると思う?シャアの言うことはこの際当てにならないから来てもらったんだ。」
目を細めてじっと見る。
「私の意見でお決めになるんですか?」
「いけないかい?」
「ずるいですね。」
「そうだね。」
一瞬黙って
「毒を食らわば皿までですか。良いでしょう。やって頂けるなら全力を尽くします。」
「じゃおれも覚悟決めてばれないように頑張るよ。」
二人で話をまとめてから
「で?具体的に何やるんだ?」
「どうしてわたしが言うと嫌がるくせにナナイが良いと言うとやるんだ?」
「信頼度が違うから。」
「わたしのことは信頼してないのか?」
「ナナイさんのほうをより信用してるだけだ。」
何かと遁ずらしようとするやつを信頼できるか。
「信用して欲しかったら手抜かないで仕事してくれ。作戦内容は?」
仕事してるじゃないかとぶつぶつ言ってる。さっき人ネタにしてサボろうとしてたのはすっかり忘れてるようだ。
「人脅してさぼろうとしたのは誰だよ…。」
「脅されたと申しますと?」
「引き受けるまで部屋から出さないだの、仕事行かないだの言われて。」
「はあ。」
ほら呆れられてる…。
「脅したわけではない…。」
「じゃセクハラか?」
「はい。痴話げんかは止めてください。要するに大尉は自棄でやる気になったと。」
「うん。脅されてやるより自棄でやるほうがましかなあと思って。ナナイさんができると言うなら大丈夫だろう。」
「…なんにせよやる気があるほうがいいです。大尉は立ち居振る舞いを身につけるのに集中してもらった方が。
スタッフを選びスケジュールを至急調整します。」
「宜しくお願いします。」
やる前から面倒だけどやるからには集中しないと。
と言う訳でシャアに
「また部屋分けるから。暫く寄るなよ。」
「なぜ?」
説明するのが疲れるので
「結婚前はそういうものだ。」
「そんな話聞いたこと無いぞ。」
「おれはある。」
どキッパリ言って押し切る。無論嘘だ。
細かい設定は後で詰めるとして
「基本的な作戦は?」
「結婚して花嫁には死んでもらう。」
「それだけ?乱暴だな…。」
「それだけ怒っておられると言うことです。」
「そう?」
「大尉を狙ったりするから。」
溜息吐かれる。
「狙う気持ちは分かるぞ。」
「あなたが言わないでください。傷が悪化して休職と言う事にしましょう。書類そろえておきます。」
実務大変だが書類をきっちりしてないと後でしらきり通せない。どうもあくまでばれる気がするんだよなあ。
所詮おれの女装なんてなあ…。精々一目でばれないようにしないと恥ずかしすぎる。
「明日からこちらに泊り込みます。今日はこれで失礼いたします。」
玄関に送りながら
「大尉、先ほどの件ですが。」
「どの?」
「結婚前には部屋を分けると言う…。」
「ああ…。」
「すねますよ。」
目線外しながら
「取りあえず別にしないとあとが消えないんだよ。今のままじゃ人前で薄着にもなれない。服の採寸とかになったら困るから。」
「…そういう意味ですか。」
「終わるまで大人しくしてくれると良いんだけど。」
「そうですねえ。」
二人で溜息をついてしまう。無論意味が違う。
「ともかく人騙そうと言うなら真面目にやらないと。」
「お任せください。こうなったら意地でも成功させて見せます。」
「恥かかないようにだな。」
あー頭痛い。こんなことになったのもあの元気の良い爺さま達の所為だ。確かに早々に追い払いたい。
出来るだけ早く済むようにそれを拠り所にやるしかないな…。それにしても
「くそ爺…。」
「大尉…お気もちはよっく分かりますが、言葉遣いには気をつけてくださいね。癖になっては困ります。」
「はーい。」怒られた…。
朝何か言いたそうなやつを送り出していない間に部屋に着替えを移す。なにやらされるんだろうなあ。思い切り逃げたい…。
いつものスタイリストさんやメイクさんを連れて山のように荷物持ってナナイさんが来た。
靴のサイズだの似合う色だの髪の色だの…。何か怖いんですが…。
「花嫁のプロフィールは決まったんですか?」
「大体。今髪の色から目の色・職業を決めようと思いまして。」
「実物見てのほうがイメージわくので。」
女性陣が細かい所を意見交換。玩具になった気分。
「参考までにお聞きしたいんですが。」
「はい?」
「総帥との出会いは?」
「はあ?」
「嘘の中に本当のことを混ぜたほうが真実味がでますし本人もやりやすいと思います。」
言う割りに興味津々だな。まあ良いけど。
「出会いねえ。MSで?生身で?」
「宜しければどちらも。」
「MSだと殺されなかったのは運がよかった。生身であつた時はタイヤがはまって困ってたのを助けてくれた。」
「それ使えますね。」
「そうですか…。」
「アレンジしますから。」
「髪と瞳は何色にしましょう?」
「いっそ派手に金髪に緑とか?」
「ゴージャスで良いですね。じゃまず染めますか。」
これから暫くひよこ頭に慣れるまでは鏡見てのけぞるんだろうなあ。
髪染めながら肌の手入れだの無駄毛の処理だの…げっそり。取りあえず見える所だけだけどね。
一休みしてから
「まずこれ着てみてください。」
と軍服渡される。あースカートかあ。溜息つきながら着替える。
「靴これはいてください。」
5センチヒール。なれない靴にタイトスカート。動きづらい…。
鏡の前で
「胸は大きいほうがいいですか?」
「…お任せします。」
「乗り悪いですねえ。」
「はあ…。」
「ゴージャスに行くのでしたらある程度ないと。」
「下着でつけるか形成するか。」
「形成?」
「着ぐるみみたいな物です。」
「重いんですか?」
「本物よりは軽いです。それはまだ後でいいですが…。姿勢が悪い!」
きゃー。靴はき慣れないからつい下向いてしまう。
「慣れるように暫くはいていてください。ついでに暫くその制服で過ごしてくださいね。」