トッカータとフーガ
怒りまくったやつに思い切り顔つねられたが血だらけの服は着替えてさっさと逃げる。
「無茶するわねえ。」と呆れられたが
「さっさと化けるの止めて髪の色変えたいんです。」
「あら。勿体無い。もう少しそのままでいて欲しいんだけど。合わせたい人もいるし。」
「…誰に?」
ブライトなら逢いたくないぞ…。顔にまる出のようでころころ笑われて
「いやあねぇ。ブライトのほうがその姿には会いたがらないわよ。うちの子にその姿で会ってもらおうかと思って。」
「覚えてないでしょう?」
「それを確かめようと思ったの。」
「この姿でですか?」
「ええ。ぜひ。」迫力に押されて承諾してしまう。
「はあ。」
「それよりニュースを見なくて良いの?」
「あんまり見たくないんですが…。」
あちこちで写真が氾濫。
「何かすごーく馬鹿に見える気がするんですが…。」
「幸せそうだと間が抜けて見えるんじゃないかしら。」
こんなに憂鬱なのに?
「少なくても兄さんは幸せそう…。」
「あの顔見ると力抜けます。」
凄い大騒ぎになってどう収めるのか不安だ。遺体をどうするから始まって責任問題やら犯人の追及やら…。
「やり過ぎなきゃいいんですが…。」
「少なくても狙撃犯を見つけるまで収まらないわね。あれは誰だか知っているの?」
「知りません。狙われてるのはわかってたので利用しただけです。胸に当たるよう動くタイミングが難しかったんですが。」
「当たるように?」
「顔狙ってたので。」
頭抑えながら
「それ兄さんに知れたらもっと怒るわよ。」
「あれ以上怒られたら流石にちょっと…。今でも十分怒りまくってます。」
予定じゃ悲嘆に暮れるはずだってんだけど怒りまくって強気で押しまくってる。
「心配なのは防犯用カメラですが。」
「犯人写っていたのがあったらしいわ。」
「そうですか。」
「プロらしいわね。」
そうだろうな。
「犯人さえ捕まれば裏もわかるし収まりようもあるわ。心配しないでのんびりしてなさい。」
心配するなと言われても。
「そんな顔されると何も言えなくなるわね。」
「はい?」
「自分が今どんな顔しているかわかっている?」
「そんな変な顔ですか?」
「アムロがそんなに兄さんを好きだとは思わなかったわ。」
どんな顔なんだ?嫌だな〜。
「それ今度やつに言ってやってください。おれ信用ないから。」
「まあ…あんな無茶するからじゃないの?」
「早々あんな事はしませんが…。今回は火付け役に成ったようなものなので…気が重いです。」
「どうせ原因は兄さんなんだから任せておけば良いのよ。」容赦ない。
そうこうしてる内に大気圏突入不法入国。罪状がどんどん増えていくなあ。すっかりやくざな世界だ。面の皮厚くなってるなきっと。
手続き済ませてそのまま真直ぐセーラさんの家に行く。時差がよくわからないが朝のようだ。
「ちょっと付き合って。」
言われるままに子供部屋に付いていく。こっそり開けたにも拘らず気が付いておきたようだ。
「ママ…。」
可愛い声だなあ。セイラさんがベツトサイドで屈みこんでキスをする。
「おはよう。」
ぱっと飛び起きてドアのそばに居た俺に気が付いたようだ。ベッドを降りて近づいてくる。
割と確りした歩きだ。大きくなったなあ。そばに来てスカートの裾を引いて見上げる。屈みこんで目線を合わせる。
「おはよう。」
ぎゅっと抱きついてくる。重くなった…。
良かった順調に育ってるみたいだ。と呑気に考えてたら離してくれない。うーん。困ってセーラさんを見ると
「この子人見知りする方なんだけど…。やっぱり懐いたわねえ。」?
「エディ。」
と言って手を離さそうとする。ちょっと嫌がったがしぶしぶ離してくれる。
ベッドに戻されて寝付かされるのを見て「またね。」と手を振って部屋を出る。
廊下の窓から外をみると朝日が昇るところ。時差ぼけ解消にはおきてたほうが良いんだけど眠い。
ぼーつと日が昇るのを見てたら
「おまたせ。部屋に案内するわ。」
「もう脱いでいいですか?」
にっこりして
「お疲れ様。部屋に着替えを用意してあるわよ。」
「とにかく寝たいです…。」
起きていられない。ベツトに倒れこむように寝入った。
どすっと何か乗ってる…。何か色々夢に見たような気がするけど?
まあ…いいかあ…。頭が痛い。
目を開けると人の上に載ってる子供と目が合う。見慣れた青い目だ。
ぼーしたまま見てると顔をぺたぺた触ってくる。
ここ何処だっけ…。上体起こしながら子供を抱きかかえてベッドから出る。
椅子において
「着替えるから大人しくしてて。」
と言ってシャワーを浴びて目を覚ます。あーねむー。
寝る前に変声機を外したので後はこの頭を染め直せばとりあえず外見は元通り。世間の騒ぎは対岸の火事のように遠く感じる。
よくない兆候だ。疲れてるなあ。
子供を抱えて部屋を出る。
「どっちに行けばいい?」
「あっち。」
と指差す方に行く。部屋に鍵かけたと思ったんだけど。
「ここ。」
と言われてノックしてみる。
「どうぞ。」
書斎か?
「仕事中でしたか?」
「ずっと抱いていたの?」
「起こされたので。部屋に鍵かかってませんでしたか?」
「ドアの前であなたが出てくるのをじっと待っているんですもの。仕事するのに大人しくしていてもらうために開けてあげたの。」
「早速子守ですか…。」
「この子好き嫌いが激しくて。嫌いな人が近づくと逃げちゃうのよね。アムロは気に入られたようだから。子守宜しく。」
「やること無いから良いですけど。」
あの姿で逢う意味在ったんだろうか?
「どうも好き嫌いの基準がわからなくて。外見は関係ないようね。」
「それってもしかして…。」
「ニュータイプ能力のある人に惹かれるようなの。」
「今からマニアックですね…。」
「やな事言わないでよ。」
苦笑される。
もう少しで食事だけどニュースでも見てなさいとスクリーンを見せられる。
子供を膝に乗せたままチエック。月側の捜査当局の見解。荼毘にふされる遺体。
怒りを抑えきれないシャアの冷たい青い目が画面を占める。
早急にコロニーに帰るご一行。
「もう帰ったのか…。」
はやい。強引。
「実行犯の名前はわかったようよ。」
手配中。うーん…。対岸の火はぼうぼう燃えてる…。溜息。
「雇い主が誰かわかれば収束するわ。」
「その辺で手を打つでしょうね。」
スクリーン上どアップになったシャアの顔を見て
「嘆き悲しむと言うより怒りまくっているわねえ。」
「あれはほとんどおれに対する怒りでしょう…。勝手にやったから。」
「迎えにこられるようになるまで時間があるから少しは落ちつくでしょう。
兄さん本人が迎えに来ないと返さないと言ってあるし。暫くのんびりできるわよ。」
「その間ずっと子守ですか?」
「なあに?登山でも海でも行きたいところがあるなら付き合うわよ。護衛無しでは動けないけど。」
「登山も海も別に行きたくないです…。」
「あっちで出来ないことやればいいんじゃない?」
「それなら最近のMSの資料が見たいです。後は散歩ぐらいかな。」
「MSの資料?」
「近寄るのも資料読むのも嫌がるので。あっち行ってから全然…。」