トッカータとフーガ
「本物に触りたいなら都合つけるわよ?乗るのは無理だけど。」
「どうせばれるから止めときます。」
ばれると煩い。
「なんだか面倒そうね。」
「面倒です。」
「逃げる?」
「もっと面倒なことになるのでいいです…。」
「まあ。」
ころころ笑われる。笑いを取るような事言ったかなあ?つぼに入ったようで暫く笑いが止まらない…。
憮然としてると食事の用意が出来ましたといわれる。移動しようと膝から下ろそうとして子供がスクリーンをじっと見てたのに気がついた。
「エディ。行きましょう。」
と手を差し出すセーラさんの声で目を離して走ってゆく。うーん。取り越し苦労は止めておこう。
髪を染め直してダークブラウンにするとセーラさんにまた面白がられたが、もう良いです。好きに笑ってくれ。
気晴らしに散歩。久しぶりにジーパンとティーシャツ。水のほとりで木登りして取り寄せてもらった本を読む。
夢中になっていたので時間の過ぎるのも忘れる。
「アムロ。そんな所にいたの?食事よ。」
「あ、すみません。」
言われればお腹空いた。
飛び降りると
「よくあんな所で本読むわね。」
「そっちこそよくいる場所わかりましたね。」
「この子が探したのよ。」
気がつくと足にへばり付い見上げてる。センサ付き?
三人で屋敷に向って歩く。子供は元気に先を走ってる。
「噂では誰の差し金かわかったそうよ。」
「噂ですか。」
「急に入院したり死んだりした政治家がいるからその中の誰かだろうと言う話になっているの。その関係で父の側近だった方がいるわ。」
まあそんなところだろう。おれが知ってる顔だろうなあ。
「公式見解は出るでしょうがこのままうやむやに終わるでしょうね。」
「早いですね…。」
もう少しのんびりできるかと思ったんだけど。
「さすがに兄さんは早々動けないわよ。今頃お墓作っているらしいわ。」
「帰るとお墓が待ってるんですね…。」
何か複雑。
なんにせよ今のうちに息抜きだ。とは言っても精々敷地内散歩ぐらいだ。
毎朝子供に叩き起こされ食事してお弁当やおやつ持たされて外にだされる。
「遊んでらっしゃい。子守宜しく。」
おやつ持って手を引いてゆっくり歩く。川とか林とかあるのでハンモッグ吊るしたりして本読む。
大体お腹の上に大人しく子供が乗って寝ている。
ニュースも見ないでぼーつとして呑気にしてる。我ながら薄情。
頭の中から一連の騒動はほとんど切り離してしまっている。指摘されても知らない振りできるぐらいには。
それはそれで問題があるが去るものは日々に疎しと言うし…。終わったことは忘却のかなた。
そろそろ帰らなきゃなあのんびりし過ぎて呆けそう。まだ怒ってるかなあ…。執念深いから…。
風が涼しくなってくると小さな手が髪を引っ張って
「おなかすいた…。」
「帰ろうか。」
下ろしてあげると先に走っていく。片付けてバスケットに入れて後を付いてゆく。元気だなあ。
と急に戻ってきてしがみつく。こちらに来る人影を睨んでいるようだ。あれ?まさか…。気がつかなかった自分に驚く。
「シャア…。」
よく見ると少しはなれてセーラさんが来ている。おれ本当に呆けたかな…。
奴がそばにいてその存在感に気が付かなかったことは無いのに…。近づいてくるのを見ると顔に影が差し何時もより覇気が無い。
「アムロ。」
「なんて顔色だよ。ちゃんと寝てるのか?」
「きみは元気そうだな。」
と頬に触れてくる。
「体重は戻ったよ。」
そのまま頭を抱え込まれる。
「きみが居無いと眠れない…。」
10日やそこらで何言ってるんだか…。
「何時から寝てないって?」
「あの日から…。」
怒りすぎてか?言葉を捜して黙ると両手で頬を挟まれる。あ、やば…。
頬を思い切り引っ張られる。
「いっ〜。」
足元で何か動いた。
「エディ。」
「何だ?」
セーラさんが慌てて近寄る。
シャアの足を蹴ったのか?屈みこんで抱き上げるとシャアを睨みつけてる。
「お前か…。」
セーラさんに渡しながら
「止めなよ。子供にガン飛ばすのは。」
大人気ない…。
「兄さん。」
セーラさんに向直りながら
「名前は?」
「エドワード。いい名でしょう?」
眉を顰めて何か言いたげに見る。
「はいはい。こんな所で睨みあっても仕方ないだろう。」
腕を引いて館に戻る。
「おれはおなかが空いてるの。早く食べたいんだよ。」
大人しく並んで歩き出した。
「食欲はあるんだな。」
「だから体重は戻ったって言っただろ。」
「確かめないと信用出来ないな。」
ニヤニヤして言う。軽く睨んで
「セーラさんに聞こえたら叩き出されるぞ。」
気を使ってか子供のためか少し離れて歩いてるセーラさんをチラッと見て
「そうだな。」
と真顔になる。
「ここにいる間は大人しくれよ。」
と言うとにつこりして人の腰を抱き寄せて止める間も無くキスをされる。
「!…ん〜。」
嫌がるのをねじ伏せられ力が抜けて手がしがみつくまで離してくれない。
こ、の〜。息を整えて怒鳴ろうとすると
「アムロ。避けて。」
はい?おやつ入れてあったバスケットがシャアの顔を直撃。
「わっ!」
さすがにバランス崩して倒れる…。物ほとんど入ってないからいいけど。
「頭冷やしてから来てください。」
エディがおれの手を引っ張る。さっさと逃げよう。
「まったく…。さっき来たときは幽霊みたいな顔していたのに。逢った途端に…。」
いたたまれなさに顔が赤らむのがわかる。
暫くするとバスケットぶら下げてきた顔に傷が…。あーあ、怒られるぞ…。
食事を済ませてすぐお茶を飲んでいたら隣に座っていたシャアが寄りかかってきた。寝たのか?
「重いよ…。」
「ああ…。」
人膝枕にして寝なおした。
「おい…。」
「本当にあまり寝てなかったようね。」
「そう言われると隈が…。」
反対側に座ってたエディがシャアの顔をぺちぺち叩いても起きない。セーラさんが呆れてエディをおれから離して床におろす。
「この二人一緒に居ないほうが良さそうね。」
「勧めません。会わないに越したことは無いと思います。それより明日にでも直ぐ戻ろうかと思うんですが…。」
苦笑して
「そんなに心配なの?」
「こんなに早く迎えに来たのが気になるので。」
「単に仕事にならないほど鬱陶しいからじゃないの?」
あり得る…。それもそれで恥ずかしいな…。
「のんびりするのにも飽きてきました。」
「迎えに来るまでの約束だし落ち着いてきたから無理には止めないけど。積極的に勧めたくもないのよね。」
「信用ないな。」
「目が覚めてるんなら退いてくれないか。」
起き上がるなり人の肩をがっしり抱き寄せて動けなくしてくれる。
「鬱陶しいとか厭きるとか言われると。な。」
ああそうかよ…。
「鬱陶しいが悪ければ暑苦しい。ちょっと離せって。」
セーラさんの目が怖い。
「兄さん。客としての礼儀をわきまえてください。」
「わきまえているつもりだが。」
世話になってるんだから大人しくして欲しいぞ。エディが走りよってきてシャアの膝に乗ったと思ったらそのまま顎に頭突きを食らわせた。
効いたな…。二人とも唸ってる。
「あらあらあら…。」