【完全読み切り】夓
正直、今回の、自分からデートに誘えなかったことは、はっきりいって残念だった。彼女としてみたら、シャモルドを使わせる前に言えよって気分だったと思う。…というか、今までもこんなことがあったような気がする。何でだろう。僕は彼女を誘うことができない。何処か行こう、とかいうことが全くできない。メールも電話も手軽にできるこの時代に、大事なことは何にも伝えられない。表だけの、何の意味もないトークだけだ。
正直、他の人がうらやましかった。
レッド先輩は何も語らずとも大事なことをイエローさんに伝えられる。
同い年のヒビキくんはコトネちゃんにいつでも好き好きアピールができる。
後輩のジュンくんは自分の彼女に熱く接することができる。
彼らは幼馴染とかだからそういうことがしやすいのだろうか。よくよく考えてみれば、僕とハルカちゃんは互いに相手のことを深くは知らない。
…まあ、自分の過去を語りたくはないけれど。昔はいじめられっ子だった。父親が強いことがあって、自分が弱いことがからかわれていたのだ。だからと言って作戦勝ちすれば、相手に卑怯といわれて、結局何も変わらない。
そんな過去があるからだろうか、いじめられたくないとか嫌われたくないとか、そういう気持ちで人と接していた。誰にも嫌われたくない。その気持ちが強く強く、そして深く迫っていた。深く、根を張っていた。
夏の本字に当たる漢字は暑苦しい書き方をする。
…僕も暑苦しいのかもしれない。少なくとも、冰のようにひんやりした感じはないっていうか。
……なんて言うか……僕ってあのコのボーイフレンドの資格ってあるんだろうか。
ふとポケギアを取り出す。
「もしもし、コウキくん?今時間取れるかな?」
すると、電話の相手は、こう切り返す。
「こっちはずっと暇ですよ。知っているでしょう?」
コウキくんは、マイっていう彼女がいる。彼らは別に幼馴染とかじゃないから、もしかしたら分かってくれるかもしれない。
「コウキくん」
「彼女となんかありました?」
「…さすがはギラティナの血を持って生まれた者、って感じだね」
「関係ないですよ」
「…とにかく」
僕は自分の思っていることをとにかくぶちまけた。
「あなたのような方がそんなことで悩むとはね…」
「別に関係ないでしょ」
「…そうですね」