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藤色の鬼

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◇◇

 皇本家での今まで通りの退屈な日々の中、それでも神楽耶は今まで以上に真剣に習い事にも取り組んでいた。その様子に、周りの者たちが口を揃えて「立派なお心がけだ」と褒めそやす。それが神楽耶にはどこかこそばゆかった。ただ、あの鬼の少年を見返してやりたいという思いから頑張っているのに……と少しばかり複雑な思いも抱く。
「でも……これは神楽耶自身を認めてくれた褒め言葉なのじゃよな、きっと」
 本当は、初めからもっと頑張るべきことだったのかもしれないとも思うけれど、それでも彼女は少し温かい気持ちになった。
「頑張って立派な総領姫になって、あやつに認めさせてやるのじゃ」
 今度は、あの鬼が頭を下げて神楽耶を欲するくらいに成長してみせる。そう神楽耶は己に誓った。

「神楽耶様」
 静かに襖が開き、皇家に仕える女中が彼女を呼んだ。
「桐原翁が、神楽耶様をお迎えにいらっしゃいました」
 今日は、先日桐原が『会わせたい者』と言っていた相手と枢木家で会うのだと神楽耶も聞いている。
 誰に会うのかはまだはぐらかされたままだったが、桐原の様子から公務的な相手ではなさそうだと見当をつけている。総領姫としての仕事、ではない新しい知り合いができるという事実に彼女は胸をときめかせていた。
「そうか、分かった。じきに参ると伝えてたも」
 出掛ける準備のため、彼女を着替えさせる女中たちに身を任せながら神楽耶は答えた。頭を下げて出て行く女から目を離し、神楽耶は髪を結う女中へと声を上げる。
「その飾りでは、この前と同じじゃ。許婚にも会うのじゃから、別のものにしてたもれ。まあ、スザクはあのように大雑把じゃから気付かぬであろうが、乙女の嗜みじゃものな」
 幼いながらも女らしく許婚の前ではなるべくお洒落をと望む神楽耶に、彼女を囲む女性達は皆柔らかく微笑んだ。


「おじいちゃま。それで、神楽耶に会わせたい者というのはいったい誰なのじゃ?」
 枢木家へ向かう車中で、神楽耶は待ちきれないというように桐原に尋ねた。そんな彼女に桐原は穏やかな微笑みを向ける。
「ブリタニアからの留学生として枢木に滞在している、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下と妹のナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下です。兄の方はスザクと、妹の方は神楽耶様と同年でしてな」
「ブリタニアの皇族……! 以前に話があった者たちか。神楽耶と同い年の女の子がおるのじゃな、それは楽しみなことじゃ」
 ブリタニアの皇族というのは、皇家と同じようなものなのだと神楽耶は聞いていた。ただし、日本では首相が国を治めてその後ろ盾に皇家があるという形をとっているが、ブリタニアでは皇族が直接国を治めているのだと。しかしそんな細かいことは神楽耶には関係ない。
 初めて会う、自分と同じような立場の年の近い兄妹。日本とブリタニアの友好の証として日本に滞在しているという二人に会うことを、神楽耶は素直に楽しみにしていた。


 くつろいだ格好のゲンブと道着姿のスザクに迎えられ、神楽耶は丁寧に礼をした。いつもよりも大人びた様子の神楽耶に、スザクが少し驚いた顔を見せる。
(どうじゃ。神楽耶だってやれば出来るのじゃぞ)
 心の中で舌を出しながら顔を上げてにっこりと笑えば、スザクもどこかどぎまぎとした様子で神楽耶に微笑んだ。その様子に彼女は満足する。

「今日はあの二人とお会いになるとか……」
「そうじゃよ。神楽耶様も年の近い者に会うのを楽しみにしていらっしゃってのう」
 難しい顔で確認するゲンブとは対照的に、桐原は涼しい顔で答える。
 神楽耶が彼らと会うことを楽しみにしているのは本当だ。一般の学校に通い多少の問題はあれど近所の子供たちとも交流しているスザクとは違い、神楽耶は家庭教師や使用人ばかりにのみ囲まれて生活している。顔を合わせる年の近い相手といえば同じ京都六家の者……それも何かの行事があるときくらいにしか会うことはない。許婚のスザク相手ですら、滅多に顔を合わせる機会は少ないのだ。
 けれどそれをだしにして何かを企んでいるような桐原に対してゲンブは苦々しい顔を見せる。
「……わかりました。今呼びに行かせますのでしばしお待ち下さい」

「あいつらに会うのか? 妹はいいけど、兄貴の方は性格悪そうだぞ」
 溜息を吐き答えたゲンブの隣を離れたスザクが、神楽耶の横へと近付いて来てぼそりと告げた。
「そうなのか?」
 問う神楽耶にスザクは嫌そうな顔をして答える。
「顔は女みたいでひょろっとしてんのに、何か生意気なんだよ」
「ふーん、スザクみたいに生意気なのじゃな」
 からかうように神楽耶は言う。その言葉にスザクはむっとした顔を見せた。
「俺は別に、生意気でも性格悪くもないぞ」
「そうじゃったか?」
 くすくすと笑う神楽耶に不機嫌そうに黙り込むスザク。それを見た神楽耶はまた笑った。

「ああ、参りましたな」
 楽しい気分でいた神楽耶の耳に、落ち着いた桐原の声が届いた。
 いよいよ会えるのかと顔を上げた神楽耶は、そこにあった姿に目を瞠る。
(あの者は……)
 日本人のような黒髪と、強くこちらを見つめる藤色の瞳。
(あのときの、鬼)
 思わず近くにあったゲンブの足に隠れるように動いた神楽耶を、鬼が笑った気がした。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下と妹のナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下ですぞ」
「ブリタニアの……」
(鬼、ではないのか?)
 そう思って恐る恐る顔を出した神楽耶に、目の前の【皇子】は妹の車椅子から手を離して優雅に一礼して見せた。
「初めまして、皇の総領姫。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとナナリー・ヴィ・ブリタニアです。妹は足が不自由なため、座ったままでの挨拶となることをお許し下さい。さ、ナナリーもご挨拶を」
 動作の隅々までに気を払った、宮廷作法のお手本のような姿。彼はそっと妹の手を握りながら、優しい声で妹を促した。
「はじめまして、ナナリー・ヴィ・ブリタニアといいます。よろしくお願いします」
 緊張した声でぺこりと頭を下げた少女に彼が向ける視線は、どこまでも柔らかい。そのことに何故かむっときた神楽耶はつい憎まれ口を叩いてしまった。
「ブリタニアの皇子というから、絵本に出てくるようなキラキラして優しそうなのを想像していたのに、違うのじゃな。そなたは意地悪そうでがっかりじゃ」
 その言葉に、ルルーシュはナナリーへと向けていた視線を神楽耶へと移した。そして、皮肉げに口の端を上げる。
「ご期待に沿えず申し訳ありません。ところで、もう戻っても構いませんか? これから買い物に行かねばなりませんので」
「食事はうちで用意するって言ってるのに、本当にむかつく奴だな」
 冷たく告げたルルーシュにスザクが苛立ったような声を上げた。その声にびくりと身体を震わせたナナリーの手をルルーシュは優しく包み込む。そしてゲンブがスザクを叱る。
「皇族という立場に驕らず、ご自身で全てなさると言うのだから立派なことではないか。お前も余計なことを言うんじゃない」
 しかし、その言葉の裏にあるルルーシュたちを軽んじる空気は、幼い神楽耶にすら感じ取れるものだった。
「本当にムカつくブリキ野郎だな」
 ぼそりとスザクが呟いた、隠し切れない敵意を孕んだ言葉。
作品名:藤色の鬼 作家名:からくり