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Get your GOD off

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 ユーフェミアはいつも突然に、スザクの思いもよらないことを言い出した。その日もただ、視察に付き従うだけのはずだったのだ。しかし総督府へ戻り、副総督執務室に向かう道で、彼女は急に無口になった。
 外出用衣装の膝丈のスカートから伸びた足で、高いヒールで歩きにくそうに早足に進んでいく。長い髪が動きに合わせゆらゆらと揺れていた。スザクはその数歩後ろを歩きながら彼女の口数が減った理由を考える。大抵において彼女に任される視察は形ばかりで、国家運営に関わる大事ではない。そのことに不満を抱えているのだろうか、と主人の様子を伺えば、部屋の前でユーフェミアが唐突に立ち止まり振り返った。
 じっと、幼馴染みと同じ薄紫色の瞳で見つめられ、反射的にスザクはその場へかしこまる。
「それでは、自分はこれで失礼致します」
「待ってください。少し、お話ししたいことがあります」
 真剣な瞳で見据えられ、否とは言えずにスザクは執務室へ入った。豪奢ではあるが、華美な印象はない、副総督執務室へ入るのは、これが初めてではない。
 初めて出会ったときはただのお嬢様だと思っていた。その彼女が実は皇女だとわかったとき、こうして部屋へ迎えられ話すことになるといつ想像しただろう。身に余る光栄だ、とでも言えばユーフェミアの機嫌を損ねるため、口には出さないが、自らの置かれた境遇のめまぐるしい変化に置いていかれたような心地がするのは確かだった。
「ユーフェミア様、お話とは?」
 向かいあって椅子へ座り改めて問えば、彼女は不満そうに顔を曇らせた。
「どうか、なさいましたか?」
「スザク、わたし達、プライベートなお話はできませんか?」
「は」
 言葉の意味するところを捉えかね、目の前に座る少女を見返す。数秒見つめ合い、
「……ユフィ?」
 躊躇いがちに愛称を呼べば、ようやく彼女はこぼれるような笑顔を見せた。その変化につられて彼も笑む。それに安心したように彼女は口を開いた。
「スザクに、お願いがあるんです」
「自分に――僕に出来ることでしたら、何なりと」
「わたしと、チェスをしてくれませんか?」
「チェス、ですか?」
 再び間の抜けた返事を返すスザクに構わず、彼女は笑顔のままで言葉を継いだ。
「昔、騎士になるものは、皆チェスをできなくてはならなかったそうなんです。勿論、今はもうないしきたりですが」
 言葉に詰まり、ユーフェミアは俯く。柔らかく額にかかっていた前髪が顔に影を作り、眉を寄せた困り顔を隠した。
「ですから――」
 言葉の途中でスザクが手を伸ばし、机の上におかれた彼女の手に触れれば、驚いたようにユーフェミアは顔を上げる。
「また、僕は心配をかけているみたいですね」
 問えば、緩く首を左右に振って、ユーフェミアはそれを否定した。何かを言おうとする唇に指を差し出してスザクはそれを押し留める。その顔を下から覗き込むようにして、笑んで見せた。
「君がそう望むなら、喜んで覚えるよ」
「有難う、スザク」
「ただ、」
「ただ?」
 言い淀んで、スザクは視線を泳がせる。それを、不思議そうに首を傾げてユフィは見た。
「ボードゲームは全般的に苦手だから、例え出来るようになったとしても、ユフィの相手になるかどうか」
「構いません。貴方と、一緒にやりたいだけなんです」
 純粋に喜ぶユーフェミアの様子に安堵する。話が済んだのであれば、と辞する前に紅茶を用意しようと席を立つスザクの背に、ユーフェミアは寄り添うように近づいた。軍服の背に触れ、その肩胛骨の辺りに頭を押しつける。
「ユフィ?」
「スザク、わたしね、やりたいことができたんです」
 体伝いに聞こえる声は、顔を見て話すよりずっと秘められた決意を伺わせ、思わずスザクは身構える。振り返るのをとどめるように、その軍服の形の辺りをユーフェミアが掴んだ。
「大好きな人たちが平和な世界に生きられるようにしたいんです。皆、一人残らず、幸せになって欲しいの」
「はい」
「そのために、わたしが出来ることなら、何でもしようと思っています。だから、」
 遠慮がちに手が腰に回される。スザクに後ろから抱きつくようにして、ユーフェミアはその体を預けてきた。決して長身でも隆々としているわけでもないスザクを、しかし近くで触れればひどく頼もしく感じ、彼女は安堵の吐息を漏らす。
「だから、どうか、それまでわたしの側にいて下さい」
「御心のままに」
 スザクはその願いにシンプルな答えを返し、そして腰に回された腕に自分の手を重ねた。

作品名:Get your GOD off 作家名:名村圭